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皮下の下に根付いたそれはある日突然、芽を吹きだした。







目が覚めると左目がモノを写さなくなっていた。
光の陰影さえ分からなくなってしまったそこを触ると、カサカサと柔らかい感触。

鏡で見ると目玉のあった場所はぽっかりと空洞になっていて、かわりに一本の植物がツルをのばしていた。
不思議と痛みは無かった。


奇病だ。
私は病院に入院することになった。

4面を白い壁で覆われたこの部屋で私はいろんな人をむかえた。
私の面倒を看てくれ世話を焼いてくれる看護師、医者、さまざまな分野の専門家。
沢山いすぎて名前はいちいち憶えてはいない。
でもそのどの顔にも「可愛そうな子だ。」と出ていた。
看護師だろうが専門家だろうがここにくる人間はどいつも憐みの目を向けてくるのは同じだ。


医者たちは不定期に検診をしにきて、この植物の正体、取り除く方法、原因を調べていた。
けれどもそのどれも謎のまま。
体に深く根を伸ばしている植物を取り除くこともできなかった。

物理的に抜くことは出来ず、最後に医者たちは植物が自然に枯れ落ちるまで待とうと言った。
ただ匙を投げただけだろう。

私が死んでしまわないように、いくつも管をつけて。
植物は私の体から栄養を思う存分吸い取っているのだろう。
私が死んでしまえばおまえも枯れてしまうというのに。




体重は大分落ちた。食べても食べてもどんどん栄養を持って行かれているようだ。
管から送られてくる栄養があってもそれでも足りない足りないと。とんだ食いしん坊さんだ。
まあ、それでもいいだろう。丁度ダイエットをしたいと思っていたんだ。

宿主の体長は悪くなる一方で、目玉のかわりにそこにある名も無い植物は一輪の花を咲かしていた。



そんなおり、主治医が私と面会をしたいという一人の男を連れてきた。

もう見限られたかとそう思っていた。
一体今度はどんな人間を連れてきたのか。



その人はベッドの横のいすに座り、好奇心を隠すことなく私を見てきた。
他の人と違う。

ここに来る人は私にわざと明るく話しかけてきたり同情の言葉をかけてきて、そのどれも目の奥に好奇の色を隠していた。
けれども目の前のこの人は子供の様に悪びれるそぶりも見せず、好奇心を隠そうとしなかった。それがとても新鮮だった。

私はその人が何か言うのを待って右目で見返す。

サテン糸のような金髪をオールバックに後ろ手にまとめ、
こんなに目立っていいのかと思えるほど鮮やかなブルーの極端に伸びた髪が頭の周りを一周している。
無理やり褒めようとするなら、とってもシャープな髪型をしている。
髪の毛をおろしたところを是非とも見せていただきたい。

口元にほんのり笑みを含めながら遠慮することなく向けられる視線に、だけどそれに居心地の悪さはなく寧ろ清々しさすら感じていた。

1分ほど沈黙が続いて

「美しいですね。」と、やにわに放たれた言葉。

「え?」

「花ですよ。」ニコニコと笑顔で男は言った。


ああ、なるほど。この人は目の前の私には興味がないのだな。
私はちからなく笑った。






後書き

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