痛い......痛い痛い痛い痛い!!!

体の内側から蝕まれるような、外側からは、四肢をそれぞれ別方向へと思いきり引っ張られるかのような、紛うことなき純粋な苦痛。
心臓の鼓動がやけに激しい。
喉が焼き爛れるように痛い。
頭が今にもかち割れそうだ。
気が狂いそうになる程の吐き気、激痛の中、娘は家族のことを考えていた。
今は亡き父と、遺された家族。
父がいない今、自分までが死んでしまう訳にはいかない。
家族を任されたんだ、父に。
絶対に死なない。死ねない。
何がなんでも生きねばならぬ。

生きたい......生きたい生きたい生きたい生きたい!!!

それだけを願い、まるで呪文のように、幾度も繰り返し、念じた。
理由など要らぬ。
それは、本能。潜在的意識。
人は皆、誰もが生に執着し、本心で死んでもいい、などと思う輩はおらぬ。
ただ、その娘は人一倍、生きたいと願う力が異常に強かった。
受け入れてなどやるものか。
鬼の血に殺される運命など。
ゆえに、娘は克服する。
人ならざる、呪われし鬼の血を。



□■


山を下りてすぐに位置する、白藤が咲き乱れるここは、藤の花の家紋の家が多くを占める、小さな村。
至る所で、垂れ下がりながら咲く藤の花は、まるで女性の振袖のよう。
活気がある、とは言い難いが、訪れた客人を温かく迎え入れてくれる、心優しき村人が多いと評判の村だった。
杏寿郎は、任務で何かと各地を飛び回っていたので、出先での宿泊、食事をする機会が多く、この村にもすでに何度か訪れていた。

「煉獄さん、知ってますか?白藤には、あなたを歓迎します、という意味があるそうですよ。まるで、この村の人たちのようですね!」

初めてこの村を訪れた名前にも、村人たちはとても親切だった。
これを持ってゆけ、あれも持ってゆけと様々なものを手渡され、名前は両手いっぱいに、持ちきれんばかりの野菜や果物を抱えていた。
というのも、村人から“柱“である杏寿郎への人望は厚く、そんな彼が、初めて女を連れて来たものだから、彼を知る者は皆こぞって、名前の姿を一目見ようと群がった。
めんこい、だの、べっぴん、だの、あまりに褒められすぎてしまった為に、名前は照れ臭くなってしまう。
ようやく解放されたのは、村を訪れてから二時間後のことだった。

「それにしても、すごく歓迎されていますね......野菜や果物も、こんなに。生ものだから、すぐに食べてしまわないと」
「この村は、藤の花の家紋の者が多いからな!格別かもしれん!そもそも、俺が所属している隊自体、政府非公認の組織ゆえ、普段、あまり歓迎されることはない!刀を持ち歩くことも、あまり推奨されんことだからな!」
「なるほど......田舎と都会だと、扱いがまた変わってきそうですね」

名前は、改めてぐるり、と村を見渡し、のどかな風景に心和ませる。
生い茂る草木。
咲き誇る野花。
小さな水音を奏でる水車。
犬と駆け回る村の子どもたち。
決して裕福な暮らしではないものの、ここに住む村人は皆、表情が穏やかで、見ているこちら側も、つい顔がほころんでしまった。

「今日は、この村に泊まろう!下手に動いては日が暮れてしまう!この村近辺では、鬼の目撃情報も多いからな!野宿など、もってのほかだ!」
「野菜や果物はどうしますか?」
「宿の女将さんに渡せば、これで美味しい飯を作ってくれるだろう!せっかく頂いた旬の食べ物を、全力で堪能しようではないか!」

美味しい空気に、郷土料理とは、なんと贅沢なことだろう。
すっかり旅行気分に浸ってしまった名前は、目先の娯楽しか考えられず、後先のことなど、頭の中からすっぽり抜けていた。
それもこれも、小さな村とは似つかわしい、絢爛豪華な旅館を目前にしては、浮かれてしまうのも致し方なし。

「お......温泉!?それに、なんて素敵な宿泊部屋......!」
「なんせ、この村唯一の、“柱“御用達高級旅館だからな!鬼殺隊であれば、予約なしで宿泊できる!」
「すごい!さすが、鬼狩り様!」
「ワハハ!その名で呼ばれると、なんだか恐れ多いな!まぁ、どちらも意味は変わらんが!」

すると、ざわり、妙な胸騒ぎがして、杏寿郎は一瞬、眉をひそめる。
鬼ではない。鬼はすぐにわかる。
ならば、この殺気はーー
杏寿郎はすぐにいつもの笑顔へ戻ると、突然、名前に、先に露天風呂に行って来てはどうか、と勧める。

「え?煉獄さんは?」
「少し、野暮用を思い出した。一時間後には戻るから、それまでゆっくりしておいで」
「......?」

どこか違和感を感じつつ、名前は、杏寿郎に勧められた通り、まずは露天風呂を堪能することにした。
途中、何度か振り返る度に、杏寿郎は手を振りながら、にっこりと笑みを返してくれたので、漠然とした不安を抱えつつも、名前は後ろ髪を引かれる思いで、その場を後にする。



11 / 表紙
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