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「ではあなたが教えて下さい、大人の女性というものを」

意地の悪い笑みを浮かべながら挑発するようにそう言う我が上司。
彼はまだ二十歳にもなっていない、少年のように幼い風貌の男性である。
そんな相手とこんな展開になってしまうだなんて微塵も思わなかった私は、笑顔を引きつらせたまま情けなくも固まるしか無かった。






ことの発端は先程、日本警察の皆と通信し会議を行っていた時のこと。
キラ事件の終結からしばらく経ち、後処理も粗方済んで落ち着いた日々を取り戻しつつある私達だったが、日本警察と話し合わなくてはならないことはまだいくつかある。
今日も電話をつなぎ会議をしていく中、長過ぎる話し合いに向こうの集中力が薄れたのか何故か話が脱線気味になっていった。
呑気にお喋りをはじめるミスター松田の声を聞いて、苛つくように顔をしかめるニア。
そんな様子を横目に、私が内心焦っていると。

「僕あの時びっくりしたんですよ!SPKメンバーの中心でお面かぶってるのが子供みたいな男の子で!まさかこれがニア!?って」

スピーカーから響く声は楽しげだが、それを聞くこちらの雰囲気は最悪だ。
より一層眉根のシワを深くし、不機嫌なオーラをむんむんと放ちながら髪を弄ぶ我が上司。
その様にこれ以上はいけないと判断し、私はマイクに向かってミスター松田を咎める言葉を放ち、脱線した話題を元に戻した。



それから何とか通信を終え、もう良い時刻なので退勤しようと帰りの支度をしている最中、ロボットで遊んでいるニアがぽつりと言葉を放った。

「私は驚かれるほど幼く見えますか」

リドナーたちはもう居ない、私とニア二人だけの静かな空間にその声がよく響く。
私はコートを持ち上げたままぱちくりと瞬きしてニアの方へと振り返った。
数多のロボットや人形に囲まれて床に座っている彼はこちらに背中を向けているので、どんな表情をしているかは分からない。
彼が何を思って先程の台詞を言ったのか分からず迷うが、しかしいつまでも黙っているわけにもいかないので、恐る恐る口を開いてみる。

「気になさってるんですか」
「ミスター松田があまりに可笑しそうに言っていたので、腹が立ちました」

その口ぶりに滲む、拗ねたような雰囲気。
何とも意外だが、ミスター松田のあの発言を彼なりに気にしているらしい。
これは、あのいつも澄まして鋼のメンタルでキラを追い詰めたニアの唯一の弱点なのではないか。
そう理解した瞬間、私の中で意地の悪いいたずら心が芽生えてしまった。
人使い荒く散々苦労させられた上司に仕返しができるチャンスだと思うと、彼を無性にからかってみたくなってしまう。
私はニアに見られていないのを良いことに、こっそりと一人ほくそ笑んだ。

「そうですねえ…正直に話してもいいでしょうか」
「はい。粗末な嘘なんて聞いても何一つ得しませんので」
「SPKに配属されて初めてあなたと対面した時、自分の上司がこんな幼い少年なのかと私もびっくりしました。ニアの優秀さは今でこそよく理解していますが、初対面の感想は『こんなvirgin boyの下で働かなくちゃいけないの!?』って感じで」

悪びれずにけろりとそう言い切ったところで、さすがにvirgin boyなんて単語は失礼すぎたのではないかと少し後悔してしまう。
が、今更取り消すことなんてできない。
ニアと共に働くようになって約一年、命懸けの慌ただしい日々の中である程度の信頼関係は築くことができたし、これくらいの冗談は許されるだろうと思う。…たぶん。

わずかな罪悪感に苛まれながらも、ニアが何と返事をするかワクワクして待っていると、彼はロボット置いて気だるげに振り返った。

「オノ、あなた随分下品なことを考えていたんですね」

肩をすくめ苦笑いで軽く謝罪してみる。
ニアは大して悪びれもしない私を呆れるように見つめながら、はあと大きなため息をついた。

「ヴァージンかどうかなんて、上司としての能力には全く関係ないでしょう」

目線をふせ、きらめく銀髪を弄っているニアの台詞にどこか漂う気まずさ。
それを目の当たりにし私の胸の内にさらなるいたずら心が生まれる。
もうちょっとニアをからかってみたい。
はやる気持ちを隠し、秘めやかな声で尋ねてみた。

「あ、もしかして本当にヴァージンなんですか?」

するとニアが伏せていた目を上げ、ギロリと鋭く私を睨む。

「それを聞いてどうするんですか?」
「別にどうもしません。ただの好奇心です」
「…そう言うあなたはどうなんです?オノこそ男っ気がなくてかなりウブそうですけど」
「ウブって…。…一応あなたよりは長く生きているので、大人の女としてそれなりに経験はありますけど!」

ウブと言われたのが何だか癪だったので勝ち誇ったようにそう言ってみると、ニアの黒い瞳が光った。
鋭い眼差しのまま、しかしついさっきまでとは様子の違う目つきで、じいと見つめられる。
私がその様に嫌な予感を覚えてたじろいでいると、ニアはにやりと意地悪く口角を持ち上げた。



──それで冒頭の「あなたが教えて下さい、大人の女性というものを」という台詞に繋がるのだが。




「オノの予想通り、私経験がないんですよ。大した交友関係もなく生きてきたので、そういう機会に全く遭遇せず…」
「そ、そうですか」
「でも私ももう十八ですからね。機会があればそろそろ卒業してみても良いと思っていたんです。問題は相手ですが、一応世間から隠れて生きなければならない立場なので、そこらへんの適当な女性と寝るわけにはいきません。安全且つ信頼できる女性でなければ駄目なんです。しかしオノ、あなたなら素性も知れているし、この一年間の振る舞いを鑑みて十分に信頼できます。協力してくれるのなら有り難いんですが」
「……本気ですか?」
「はい、本気です」

なるほど。セックスという行為に興味はあるようだが最適な相手と機会がない。だからその条件をクリアできるのならば経験してみたい。そういうことか。

私は依然として顔をしかめたままだが、ひとまずニアの主張は納得できて胸をなでおろす。
ニアは普段よりも愉快そうな面持ちで私を眺め続け、返事を待っているようだ。
早くと急かされるように刺さる視線。
それを確かに感じながらも、思い悩んでしまう。

ニアは上司だ。
司令室いっぱいにおもちゃをぶちまけてその中心で遊びながら、私達SPKメンバーに無茶を言いこき使い続けるろくでもない上司だ。
ただその頭脳は神に与えられたとしか思えない程優秀で、私たちは彼がいなければキラに打ち勝つことなんてできなかったし、今この世に生きてすらいないだろう。
その点については心から尊敬している。

そんな変人天才上司と肌を重ねるなんてまるで想像がつかないし、どういう結果になるのか予測不能である。
そもそも全く雄としての雰囲気を感じさせないというか、彼を男性として意識したことがない。
小柄な身体と丸みを帯びた頬でおもちゃと遊ぶさまはまるで子供のようで、彼とセックスが結びつかないのだ。
一応十八歳で成人を迎えているらしいので、少年ではないのだが…。

しかし、だからこそ感じてしまう好奇心。
ヴァージンの彼が初めて女体を知って、どんな反応をするのか、どんな声をあげるのか、どんな顔をするのか。
散々無茶を言ってきたあの憎たらしい唇を快楽で歪ませることが出来たら、何だかとてもおもしろそうだ。

どうせ近々キラ事件の後処理が終わったらSPKは解散になる。
そうしたらニアとはお別れなのだし、セックスしても後腐れはない。
あの生意気な上司を手玉に取る機会なんて、きっと他にはないだろう。

それならば──。

私はひととおり考えを巡らせた後、モニタールームの中央で座り込むニアの下へ一歩一歩歩みをすすめる。
じろじろと遠慮もなく私を見続ける彼の視線を感じながらも近くへたどり着き、そしておもむろにしゃがみこんだ。
同じ目線の高さになれるようにとしゃがんでみたのだが、床にぺたりと座るニアと、パンプスを履いまま膝をつく格好の私とではまだ少し高さに違いがある。
私は彼をやや見下すような格好で、緊張に苛まれながらもにっこりと微笑んだ。

「良いですよ。私で良ければセックス、してみましょうか」
「ご協力ありがとうございます。ではまずはキスからですね」

いきなり!?と反応する間もなくニアの顔を近づいてくる。
私は迫る彼の肩を押し返し、逸しがちにその幼い顔を見つめた。

「こ、ここでするんですか…?」
「嫌ですか?場所を移動するのも面倒ですし、私はここが一番落ち着くんですが」
「え、でもカメラついてますよね…?」
「もう電源は切ってあります」

いつの間に監視カメラまで手回ししていたんだ、とニアの抜かりなさに少し引く。
まさかニアがここで行為するつもりだなんて。
今私達がいるモニタールームは、勤務中皆が使用し滞在する部屋だ。
普段真面目に働いているこんな場所でセックスをするなんて、あまりにも罪悪感が大きすぎる。
ニアの自室へ連れて行ってほしいとまでは言わないが、せめて仮眠室のベッドくらいは使わせてほしい。

──しかし、私は知っている。
この上司は一度こうと決めたら簡単には意見を変えないこだわりの強い人間だ。
彼の下で働いたこの一年間でさんざん思い知らされたその強引さ。
ニアがここで行為に及ぶと決めてしまったなら、私なんかが少々不満を漏らしたところで、場所を変えようとはしないだろう。
つまり、私がこれ以上文句を言っても全くの無駄なのである。
…まあ別に、これはニアの初体験なのだし、ニアがそれで良ければいいのだが。

早々に諦観の境地に至り、「まあいいですけど」と少し不満げに合意してみれば、そんな私に構うことなくニアの顔が再び近づいてくる。
至近距離に近づいた瞬間に香る、清潔感ある彼の匂い。
こんなに清い匂いがする人なんだなとぼんやり思っているうちに、ついに私達の唇は重なり合った。

ふに、と予想以上に柔らかい唇が触れているのだが、何というか、浅い。
顔を傾けず押し付けるように近づいた唇はお互いの鼻に邪魔をされてもどかしくかすめるだけだった。

「ニア、キスって頭を少し倒さないといけないんですよ」

黙って私が頭部を傾ければそれで良かったのに、あえて指摘することでニアを挑発してみる。
私の思惑通り、彼は少し顔を離してなにか言いたげに拗ねたようにこちらを見つめた後、再度口づけしてきた。
私の指摘をしっかり活かし、頭を傾けて触れ合う唇はしっかりと重なり合う。
彼の唇はどこかひんやりとしていて、しかし柔らかく心地良い。
ただ重なっているだけの拙いキスだと言うのに、どこか不思議な高揚感を覚えてしまう。
しばらくそのままで居たのだがさすがに触れ合うだけのキスが長く続くのは退屈で、私はいたずら心に背中を押され、彼の唇を柔らかく食んでみた。
ちゅっと水っぽい音がするのと同時にニアが身体をこわばらせたので、私は愉快に笑みを湛えながら口を離した。

「私大人なんで、触れ合うだけのキスじゃ物足りないです。次は舌を入れてみましょうか」
「…大人の女性ってせっかちなんですね」
「そうですよ、焦らすつもりでないのなら、いきなり舌を絡ませ合ってもいいくらいです」

そう言って今度は私のほうから彼に顔を寄せる。
唇を重ねてすぐにぬるりと彼の唇をなめてみれば、ニアは応えるように口を開けた。
その隙間から口内に侵入し、ちょんと彼の舌を突っついてみる。
戸惑うようにニアの舌は動かなかったので、調子に乗って彼の口の粘膜を存分に弄っていると、次第に興奮してきている自分に気づいてしまった。
まだ若い上司のヴァージンをもらうなんて、なんとも背徳的なシチュエーションに感じる痺れ。
ニアはかなりの変人だが、目鼻立ちは中々整っていて見ようによってはハンサムだ。
想定外の成り行きとはいえ、結構乗り気になってきた己の浅ましさに内心苦笑しつつも、唇を離す。
つう、と二人の唇をつなぐ唾液の糸をニアはじっとり見つめていた。

「どうですか?大人のキスです」
「細菌まみれの粘膜を触れ合わせることにどんな意味があるのかと長年疑問に思っていましたが、実際にしてみると中々刺激的ですね。口蓋をなぞられるのは敏感な部分だけあって気持ちよかったです。古今東西キスという行為に人間が皆夢中になる理由が分かった気がします」
「…」

さすがにまだ理性的である。
淡々と解説するような口ぶりでディープキスの感想を言うニアにやや興をそがれながらも、私はつと湧いた疑問をぶつけてみた。

「あの、ひとつ質問なんですけど…ニアって女体に興奮できますよね?」

そう問うてみるとニアはじいっと目を細めて、訝しげに私を見た。

「…正直、女性の身体に性的興奮を感じられるかどうか自分でもわかりません。普段の生活の中で女性相手に劣情を抱いたことはないんですよ」
「え、じゃあ何に興奮するんですか?もしかして人形相手とか…」
「…私がそこまで異常に見えますか。人形や玩具には断じて性欲をぶつけたりなんかしません。性欲自体があまりないんだと思います」
「……すいません、変なこと聞きまけど、その、自己処理なさる時はどうしているんですか」
「マスターベーションはしません。生理現象で勃起する時はありますし、夢精もまれにありますが」

表情ひとつ変えずにぽんぽんとあけすけに応えるニアに、質問した私のほうが恥ずかしくなってしまう。
ニアのかなり特殊な性事情を聞き、私は「ニアの初体験を済ませる」という任務が非常に困難なものになってしまう可能性を察してしまった。
私の可能な範囲でいろいろな愛撫を試してみるつもりだが、それでもうんともすんとも勃たなかったりしたら、女としてのプライドが傷つくというか、かなりショックだ。
さらなる予想外の展開に見舞われて額に手を当てる。
だがここまで来て今更引き下がるわけにもいかない。
私は冷や汗を流しながら少し悩んだ後、覚悟を決めてジャケットのボタンに手をかけた。

「ちょっと待っててくださいね…」

「はい」と素直に頷くニアに一安心しながら、ジャケットを脱ぎ、そしてブラウスも脱ぎ去る。
彼の前で下着を晒す羞恥に苛まれながらも、背中に手を回し意を決してホックをはずした。
そしてするりと肩紐を落とせば、容易く外気に晒される私の乳房。
ニアの視線が私の顔から胸元に移ったことに気づいて赤面しつつ彼へとにじり寄り、至近距離で対面になるようその足の上へと腰を下ろした。

「とりあえず胸、触ってみます?」

女体の中で特に男性が好む部位と言えばこれだろう。
なんて安直な考えで早々に胸を晒してみたわけだが、ニアの表情は変わらないままである。
いきなり脱いでこんな至近距離になるのは趣がないというか失敗だったのでは?と心配になり始めたころ、ニアはようやくその白い両手を持ち上げた。
彼のしなやかな指が乳房に優しく触れたかと思えば、次の瞬間には肉に食い込むように柔らかく掴まれる。
揉まれる度にたわんで形を変えるその様が面白いのか、ニアは興味深そうに私の胸元を見つめ続けていた。
性的興味というよりおもちゃを見つけて楽しんでいるようだ、と思っているところに、彼の掌と乳首がやや強めに擦れあう。
ニアは全く意識していない偶然であろう事だったが、私は不意打ちの刺激に図らずも声を漏らしてしまった。

「…どうしましたか?」
「え、いえ、別に…」
「痛かったですか?」

私の顔を覗き込みながら抑揚なくそう問われ、彼から視線を逸して俯いた。

「……乳頭が擦れて刺激を感じてしまっただけで、痛かったわけでは…」

すると、にやり。
しどろもどろな私の返答を耳にし、行為を始めてから表情を変えなかったニアが途端に口角を釣り上げた。
その目が楽しげに輝き始めたことに気づくのと同時に、ニアに乳首を摘まれる。
始めは潰さぬように恐る恐るの力加減だったが、次第にしっかりとした力で捏ねくり回すようにいじり出した。
私は乳首から与えられる刺激にびくんと身体を震わせ、堪えるようにくちびるを噛み締めるのだが、我慢しきれない吐息が微かに口から漏れ出してしまう。

「…ん……、ふっ…」
「オノ、舐めてみてもいいですか?」

こんな行為をしている以上断る理由もなく、秘めやかに頷いてみれば、ニアはすぐさま遠慮もなく顔を近づけ、ぱくりと乳頭を咥えた。
普段よく拗ねがちにしているあのふっくらと柔らかい唇に、私の淫らなところが咥えられている──そう思うとただ口に含まれただけなのに無性に興奮する。
無意識のうちに逃げるように腰を引くと、それに気づいたニアが片手を乳房から離して、抱き寄せるように腰を掴んだ。
ぐいっと身体を引き寄せられたその拍子に、尻に何か硬いものが当たっていることに気づく。
考える間もなくそれがズボンの下で猛るニアの性器だと理解してしまい、私はぞくっと愉悦を覚えた。

「ニア、ちゃんと勃ってるじゃないですか…。女体に興奮できたんですね」
「そのようです。とりあえず一安心ですね」

まるで他人事のようにそう言うが、乳房から顔を離さないまま喋っているので、ニアの息がくすぐるように胸元をかすめる。
くすぐったいのか気持ちいいのかわからない微妙な感覚に身を捩っていると、再度乳頭を咥えられた。
はむはむと食むように乳頭を可愛がった後、触れる彼の舌。
その舌の熱さに気づいて身体を強張らせていれば、ニアが弾くように乳頭を舐め始めたので、びくんと大きく身体を震わせてしまう。

「ああ…こういう舐め方が良いんですね」

どこか興味深そうにそう呟いて、しつこいくらい何度も何度も乳頭を舌で弾くニア。
唾液でぬめる舌先は固くなり、私の乳頭を執拗に弄んでいる。
どうしよう。すごく、気持ちいい。
大人の女として行為の主導権を握っていたかったというのに、いつの間にかニアから与えられる快楽に流されそうになっている。
彼の愛撫になすがまま喘いでしまうのが何となく癪で口を手で塞ぎ声を我慢するが、身体の反応はどうにも抑えきれない。
ニアがひと舐めひと舐めする度に全身の筋肉が強張り、下腹部が痺れるような感覚に苛まれる。

「気持ちいいんですよね?」
「…はい」
「では何故声を抑えるんですか?もうここには誰も居ないですし、監視カメラもオフにしてあります。私とオノだけなんですから、我慢する必要はないでしょう」

それはそうなのだが、それは何となくプライドが許さないし、何よりも恥ずかしい。
今更になってニアとセックスすることに羞恥心を感じてしまうのだが、目の前の彼にはそんな羞恥など毛頭無いようである。
ニアは恥じらいだとかそういう感情に疎い人間なのだ。
私は内心天を仰ぎつつ、このままでは完全にニアに主導権を握られてしまうことを察して、この話題から逃れるように一つ提案を思いついた。

「ねえニア。もう胸への愛撫はいいですから、ニアのこれ、可愛がって差し上げましょうか?折角セックスを経験するんですから、フェラチオだって経験してみたいでしょう?」
「いえ、とりあえず今は結構です。オノの乳房を愛撫することのほうが興味があります」

あっさりと却下したかと思えば、ニアは断りもなくまた胸に顔を寄せる。
舐めてみたり、突っついてみたり、食んでみたり、吸ってみたり──次第に乳頭への愛撫のバリエーションが増えてきている。
もしかして実はヴァージンではないのか?と一瞬疑問に思うが、しかし先刻のキスはとても拙かったし、乳房への愛撫だって最初のうちはやはりたどたどしかった。
ともなればニアはその観察力と飲み込みの速さで、私の反応からどんな愛撫が悦ばれるのか瞬時に学んでいるのでは──。
彼の優秀さがこんな行為にも活かされてしまうことにある種の恐ろしさを感じるが、ニアの行為は止まらない。
ニアは今、乳頭を吸ってみたらどうなるのか実験しているようで、じゅっと音を立てて吸い上げながらも上目遣いで私の表情を観察している。
その楽しげな瞳と視線がかち合ってしまった瞬間、私はついに喘ぎ声を漏らしてしまった。

「あ…ああ、んっ」

私の声を聞き満足気に目を細めるニアは、執拗に乳頭に吸い付いてくる。
じゅう、じゅう、といやに水っぽい音を立てながら乳首を咥えるその様が彼の容姿の幼さと相まって、非常に背徳的だった。
場違いな母性と表裏一体の性的興奮。
背筋をぞくぞくと震わせて、揺蕩うように快楽に溺れてしまう。
次々と襲いかかる快感のよりどころが欲しくなり彼の頭部を抱え込むようにしがみついてみれば、銀色の柔らかい髪が指の間で控えめに輝いた。

「に、ニア…はあ、あ……そこばっかり、」
「……もう少し、」
「ひあ、あ、んっ…」

もう片方の乳房はニアの手に弄ばれている。
一方は捏ねられ、もう一方はしゃぶられ、両方の乳頭へ絶え間なく与えられる強い刺激。
私はもはや声を抑えようとすら考えることもできずに、なすがまま身体をびくつかせ淫らに喘ぎ続けるしかなかった。


──すると。

しばらく続いたしつこい愛撫の最中、突然ニアが乳頭から唇を離して俯いたかと思えば、控えめなうめき声をあげた。
びくん、と大きく身体全体を震わせた後、何度か小さく腰が震えるようなその様子。
まさか、と思い、彼の足から降りて退いてみると、ズボンの盛り上がっていたところがなにやら濡れてシミになっている。

「…もしかして射精しちゃいました…?」

顔を伏せたまま荒く呼吸しているニアの顔を覗き込んでみれば、今までにみたことがないほどに頬を染めていた。
どこか恥じらいがちに私から目をそらしているその様子に、私は先刻までの快楽などすっかり忘れて何故か感動を覚えて目を輝かせる。
こうして大人しく照れていれば中々可愛い男の子だなと感激しながらも、伏せがちな彼の目を覗き込み続けた。

「ニアは女性の胸が好きなんですかね?揉んだり舐めたりするだけで射精しちゃうほど興奮しちゃうなんて、virgin boyらしい可愛いところあるじゃないですか。別に恥ずかしがることありませんよ、胸が好きな男性なんていっぱい居ますし、それが初めて女体に触れたのなら尚更、」
「オノ、ひとつ訂正させてください」

まだ頬をうっすら染めながらも、不満げな目つきで顔をあげたニアに台詞を遮られる。
先程の執拗な愛撫の仕返しの意味もこめてからかい半分でフォローの言葉をかけていたのを止められ小首を傾げてみれば、ニアは不快そうに顔を歪ませながら口を開いた。

「私はあなたの胸に興奮して射精したのではありません。善がるオノの姿に興奮したんです」

全く想像していなかったことを言われて面食らう。
胸よりも私の善がる姿に?胸じゃないの?何故?
それ、どういう意味ですか──全く意味が分からず聞いてみようと衝動的に身を乗り出した途端、彼は自分の白いシャツのボタンに手をかけた。

「下着の中が気持ち悪くて最悪の状態です。どうせセックスするんですから全部脱ぎます。私だけ全裸になるのは癪なので、オノも全て脱いでください」

不愉快そうな口ぶりでそう言いつつもニアは性急にボタンを外していく。
未だ混乱する脳で呆然としているうちにニアは上半身裸になり、そしてあっという間にズボンと下着も脱ぎ去ってしまった。
恥ずかしげもなく下半身を晒すニアを目の前に悩んでいる場合ではなくなり、慌てて顔を逸らす。
体液で汚れているだろう彼の下半身を直視することは出来ないが、しかしふと漂う精液特有の匂い。
それに気づいてしまった瞬間、私は得も言われぬ興奮に胸が締め付けれるような心地を覚えたのだ。

──ニアは本当に達してしまったんだ、私の喘ぐ姿で。

どきどきと激しく脈打ちながらときめく己に戸惑いつつ、しどろもどろに口を開く。

「…射精しちゃいましたけど、その、大丈夫なんですか?続けられますか?」
「オノがまた存分に善がってくれれば大丈夫だと思います。自分でも驚きなんですが、気持ちよさそうに恥じらいながら喘ぐオノの姿に無性に興奮しました。だからまたよろしくお願いします」

女性の喘ぎ声とかにフェティシズムを覚えるタイプなのかな?と自分を納得させながらも、私の姿がニアの性的興奮のトリガーになったというのはやはり恥ずかしい。
当の本人があけすけに淡々と説明してくる状況に尚一層羞恥を煽られながらも、私はニアから視線を逸したままスカートのチャックを下げた。

一度立ち上がって下半身に纏うものをすべて取り去り、そしてニア同様全裸で床に座り込む。
彼の視線が私の全身を這う感覚にもじもじしていると、ニアが近づいてきて唇が重なり合った。
今度は自然に顔を傾けて行われるキス。
私の唇を何度か食んだ後、ぬるりと侵入してきた舌はすぐさま私のそれと触れ合った。
先刻の乳頭への愛撫のように弄ってくる舌に恍惚としていると、彼に身体を支えられながら押し倒されてしまう。

「ここを弄ってみたいんですけど、どう愛撫したら良いか教えて下さい」

押し倒されてすぐに下半身に触れられ身を強ばらせるが、初心に恥じらっている場合ではない。
もう大分忘れかけていたが、私はニアに大人の女性としてセックスを教えてあげる役なのである。
ニアの恐るべき飲み込みの速さと天性の器用さですっかりとろけてしまいそうだったが、知識を授ける役目くらいはしっかり果たさなければ…。
私は緊張と恥に喉をつまらせながらも、恐る恐る足を開いて自分の手で陰部を広げてみる。

「……この穴が膣で、ペニスを挿入するところです。…それで、その、尿道口に上にあるこの突起が、クリトリスと言って…」
「…」
「…っ、もうとにかく触ってみてください。説明されるよりも実践してみたほうがきっと分かりやすいですっ」

ニアが私の説明を真面目に聞いているのがかえって恥ずかしく、投げやりに説明を終える。
あまりの羞恥に顔を真赤にし悶絶していると、下半身を覗き込んでいたニアに茂みを触れられた。

「このクリトリスを刺激すれば良いんですね?」

まずは撫でるように優しく、そして次第に押しつぶしてみたりこねくり回してみたりと緩急をつけて陰核をいじられる。
私も始めのうちは喘ぎを我慢していたのだが、結局は快楽に負けて吐息を漏らしてしまうようになり、ニアにされるがまま身体を震わせた。
ニアは陰部を愛撫しながらも、目線を上にあげて私の顔をじっと観察していた。
いつもじっとりと対象を観察するあの黒い瞳に見つめられ続けていると恥ずかしいが、だが同時に興奮も覚えてしまう。
私の姿から貪欲に興奮を拾おうとしているニアに雄の気配を感じ取ってしまい、自ずと女として本能的な愉悦を感じてしまうのだ。

「ニア、んっ…」
「すごいですねオノ、いじればいじるほど膣口から体液が溢れてきます」

楽しげに口角を釣り上げて笑うその様に存分に滲む情欲。
その幼い容姿とのアンバランスさに、いけない行為をしているかのような気分になってしまう。
そしてニアの指が探るように膣口に触れたかと思えば、ぬぷっと突き破るように中へ侵入してくる。
とうに愛液でとろけきっていた膣はすんなりと彼の細い指を受け入れ、歓喜にひくついていた。

「熱くて、きつい…。こんなところに男性器が入るなんて信じがたいです」

そういうニアの吐息は、酷く熱っぽくて──。
らしくもないその様を五感で感じてしまった私は、より強く興奮を煽られた。

「オノ、どう愛撫すれば女性は気持ちいいんですか」
「え、あ、…ゆっくりと、奥を揺さぶるように擦られたら気持ちいいと思います…ッ。それとクリトリスも触られたら…ひ、んんぅ」

説明し終わるよりも早くニアの中指がぬかるみの中で揺れ動く。
子宮に響くかのような動きに膣壁を絆されながらも、器用に伸ばされたニアの親指に同時に陰核も可愛がられた。
圧迫するかのようにぎゅっと押しつぶされ、そして膣も刺激され──。
次第にがくがくと足が震えてくる。
自分の身体に大きな快楽の波が来ようとしているのに気づき、慌ててニアから逃れようと腰をひくが、時既に遅し。
転がり落ちるかの如くまたたく間に何かが大きく膨らみ、そしてぱん、と子宮の奥底で弾け飛んでしまって──。

「あああ、あっ!!」

下半身をびくびくと震わせ、ひどく甘い絶頂をこの身に迎えてしまった。
激しくひくつく膣で何度もニアの指を締め上げて快楽の波にのまれた後、荒い息のままぐったりと脱力する。
まだ下半身への愛撫を始めて間もないというのに、こんなにも容易くイッてしまうなんて。
その事実に私がニアとのセックスにどれほど興奮しているか思い知らされてしまい、呼吸を整えながらも呆然としていると、唐突に膝裏から足を持ち上げられる。
ハッと我に返りニアの方を見てみれば、彼は眉根を寄せながら興奮した面持ちで私を見つめていた。

「今すぐ挿れたいんですけど、いいですよね?」

下の方へ視線をさげてみれば、腹に張り付きそうなほど勢いよく反り返ったニアの性器が視界に飛び込む。
特別大きいわけではないが、ニアの童顔とは不釣り合いな程猛々しい男性としての象徴。
セックスを始めるまでは女体に興奮できるか自分でもわからなかった彼が、今はこうして私に興奮して十分に勃起している──その事実を脳で認めてしまった瞬間、私の子宮が物欲しげにうずくのを感じた。

ニアを適当に愛撫して、その様を観察したりからかったりして、そして最後に適当に挿入して彼をイかせて終わる。
本来はそう計画していたはずなのに、何故かニアに主導権を奪われ、喘がされ、絶頂に導かれてしまった。
こんなにも興奮するセックスができるとは思いもよらず困惑するが、だがそれと同時に早く先に進みたい、存分に堪能したいと待ち望む気持ちも湧いてくる。

「いいですよ。…でもその前に、一つだけお願いがあるんです」
「…何ですか」

焦らされて辛いのか少し顔を歪めながらも、律儀にちゃんと待っていてくれるその様子が何だか可愛らしい。

「オノ、ではなくファーストネームで、コマチ、と呼んで欲しいんです」
「何故ですか」
「その方が気分が盛り上がるからです」
「そういうものですか」
「そういうものです」

こんなに興奮できるセックスなどなかなかない。
折角なのだから最高のシチュエーションでニアに抱かれてみたいと、そう強く願ってしまい彼に条件を出したのだ。

もう年上の女性としてのプライドや恥なんてどうでも良くなってしまい、ただセックスを楽しみたいという気持ちに支配されてしまう。
ニアはそんな私を少しの間黙って見つめた後、「わかりました」と小さな声で了承してくれた。
仕切り直すように股を大きく開かされ、彼のぬめるペニスが濡れそぼった陰部に充てがわれる。
くちゅ、と水っぽい音が静かなモニタールームに響いた瞬間、ニアがらしくもなく辛そうに唇を噛み締めた。

「挿れますよ、コマチ」

彼に初めて呼び捨てにされたファーストネーム。
それを耳にして胸がきゅんと締め付けられるのと同時に、ニアの性器が性急に膣へ侵入してきた。
酷く熱を持ったペニスに中を押し広げられていく感覚に、痛みと紙一重の恐ろしいほどの快感を感じてしまう。

「あ…ッ。ニアの、熱い…」

うっとりとそう呟けば彼は尚一層苦悶に耐えるように眉根を寄せた。
もう十分に体液が分泌されていた膣は容易くニアのペニスを奥まで受け入れ、歓喜にひくひくと震えている。

「全部入りました…?」
「…っ、…はい」
「大丈夫ですか、苦しそうですけど…」
「…敢えて言うなら、快楽が強すぎて苦しいです…っ」

初めての膣への挿入に快感を享受し耐えているその様。
まだふっくらとした頬に初めて見る彼の汗が滑り落ちていき、そしてぽたりと私の腹へ落ちた。
その瞬間、私はついにこの自分よりも若い上司とまぐわってしまったのだという実感に襲われ、みぞおちの奥から得体のしれない興奮が湧き上がる。
大きな愉悦に堪えるように体中に力を込めれば、ニアの小さな肩がびくんと震えた。

「コマチ、力を抜いてください。そんなに締め付けられると耐えられません…」
「そ、そんなこと言われても…!ニアとこんな…いやらしいことしてるんだと思うと、私、ゾクゾクしちゃって…っ」

恥じらいに耐えながらもなんとか彼の顔を見てそう言い切ると、ニアの目つきにみだらな色が滲む。
ぎらつく大きな瞳の奥に、獣のような雄の情欲が灯っていて──。
あのいつもすまし顔で性に興味なんてなさそうなニアが、こんなに本能むき出しに私を見つめているという事実にまた興奮を覚えていると、やや乱暴に腰を掴まれる。
汗でじっとりと濡れる熱い手が私の肌に強く食い込んだかと思えば、ずん、と奥を穿たれた。

「ひゃっ、ああ、ニア」

いきなりの激しい動きに驚いてしまい反射的に名を呼ぶが、必死になるあまり聞こえていないのか返事はない。
ニアは私の腰を痛いほど掴みながらも、たどたどしく、しかし懸命に腰を動かし、潤む膣壁に激しくペニスを擦り上げている。
そのやや拙さの残る動きがかえっていやらしくて大きく声をあげてしまうと、ニアが突然倒れるように私に覆いかぶさり───大きく背中を震わせた。

「う…っ」

切羽詰まったようなその様子。
私はニアが射精しようとしていることを悟り、わずかに残る理性で彼のペニスを抜こうと腰をひく。
──のだが、まるで逃さないと言わんばかりにより強くくびれを掴まれ、そしてペニスを子宮口に押し当てるように深く彼の腰が密着した。

びく、びくびくん。

一層大きく膨れ上がったかと思えば、次の瞬間弾けるように激しく何度も震えるニアの性器。
ニアが私の中で吐精し、今この瞬間精液をドクドクと注いでいる──そう理解してしまった刹那──。

「う、うそ、……い、イッちゃ、う、んん!!」

私の興奮は最高潮に達し、脳の歓喜に引きずりこまれるかのように目の前が真っ白になる。
辺り一面に散らばったニアのおもちゃに囲まれる中、膣が淫らに甘く痙攣を始めた。
背中を弓のように反らしながら激しい快楽の波に飲み込まれ、口端から唾液を垂らすのも構わずにびくびくと震える。

気持ちいい、たまらなく気持ちいい。でも──。

やがてめくるめく甘美な快感を一通り享受し終え、全身の痙攣も収まり理性が回復した頃。
何とか頭を持ちあげてニアの方を見てみてれば、彼は私と同様に荒い呼吸をしながら乳房に顔をうずめていたままだった。
彼の熱い吐息が何度も乳房をかすめるその感覚に悶々としながらも、ニアの柔らかい髪をなでつけるようにその頭部に手を添えた。

「中で出しちゃうなんて…」

少し咎めるような口ぶりでそう語りかけてみれば、ニアはのっそりと気怠げに顔をあげる。

「…すみません。膣外射精をするつもりではあったんですが、本能に勝てませんでした」
「本能…?」
「射精する瞬間、無性にコマチを孕ませたいと、そう思いました」

ニアの口から飛び出したとんでもない言葉に、思わず目を見開き絶句してしまう。
孕ませるだなんて、付き合っても居ない一夜限りの相手に言っていい台詞ではない。
無責任とも思える彼の主張に怒りを感じるが、しかし私はニアを責めようと口を開きかけたところで言葉に詰まる。
ニアに精液を注がれていると実感した瞬間の、今まで経験したことがないようなあの高揚感、そして極上の絶頂。
理性では駄目とは分かっていても、身体は、本能はニアの子種を受け止めることを間違いなく喜んでいたのだ。
これでは彼を責められる立場ではない、そう思い前髪をかき分けて自分の情けなさに沈黙していると、ニアがずいっと顔を近づけてくる。
黙っていれば可愛らしい幼い顔立ちに覗き込まれるように見つめられ困惑すれば、彼は先刻までの必死さが嘘のような普段どおりのすまし顔で口を開いた。

「ご協力ありがとうございました。お陰で最高に気持ちいいセックスを経験できましたし、それに何点かずっと抱えていた疑問を解消することができました」

飄々とした風な物言いだが、私達は未だ下半身でつながったままである。
膣に依然として感じる異物感にうろたえながらも、きょとんと疑問符を浮かべていれば、ニアは私の悶々とした気持ちに構うことなく続けた。

「自分の性的興味の対象を知ることができて良かったです。あなたが快楽のままに喘いで善がる姿はとても扇情的でした。おそらく私は、女性を自分の行為によって感じさせることに征服欲を覚えて興奮することができるんだと思います」
「そ、そうですか…、良かったですね…」

何が楽しくて上司本人の性的嗜好について解説されなければならないのだろう。
真面目に説明を続けるニアの姿にその変人っぷりを思い出し、思わず顔を引きつらせてしまう。

あまりにも充実したセックスだったので名残惜しくないと言えば嘘になるが、とりあえずニアの初体験を済ませるという任務は無事終えることが出来たのだし、いち早くペニスを抜いてしまいたい。
身体は互いの体液でどろどろだし、そして何よりも早く精液を掻き出さなければ…。
私は気まずい思いをしながらも適当に返事をし、中に入ったままのペニスを抜こうと再度腰を引こうとする。のだが──。

その瞬間、引きとめるかの如くまたニアにくびれをがっちりと掴まれてしまった。

「しかし不思議だったんです。アダルトコンテンツの善がる女性の姿には興奮できず、あなたには興奮できる訳が何なのか。もちろん、自分の手によって快楽を与えたかどうかの違いはありますが、それでもその手の映像に微塵も興奮することができないというのは不自然です。何かもっと、大きな理由があるはず…」
「…?」
「でも、先程コマチの中で射精する時に理解できました。本能的にこの女性を自分のものにしたいと。自分の手によって快楽を与え、支配し、孕ませたい。そういう強い衝動をあなたに対して抱いたんです。これはおそらく恋ですよ」
「こ、恋!?」

な、ななな、何をさらりと、とんでもないことを…!!

どこか他人事のような口ぶりで言われたその台詞に、ただただ驚愕するほか無い。
心臓を鷲掴みにされたような心地にそれ以上言葉を紡げずに、酸欠の魚のように口をぱくぱくとさせてうろたえていると、ニアは納得できてすっきりとでも言いたげな満足そうな顔で口角を釣り上げた。

「リドナーではなくコマチを初体験の相手に選んだ時点で、私は少なからずあなたに好意を抱いていたんだと思います」
「え、いや、まさか…!ニアは大して交友関係を持たないところに女性とともに仕事をする機会を得て、一年間一緒にいて、そんな中湧いた親近感を好意と勘違いしているだけなのでは?リドナーか私かなんて二択、きっとたまたま私を選んだだけで…」
「そう言われればそうなのかもしれません。私は恋愛感情だとかこの手の事には非常に疎いので、正直正解は分かりません。しかし、性行為を経験してみたいだなんて、ここで働く女性がリドナーだけであっても彼女相手には恐らく言わなかった。白状してしまいますが、私はセックスに興味があったのではなく、コマチとのセックスに興味があったんです。始まりは親近感だったとしても、最終的には執着と性欲に変わる。それを世間一般的に恋や愛と呼ぶのではないですか?」

ニアが私に恋をしているだなんて、そんなの信じらない。
だって彼は共に働いた一年間、そんな素振りをまったく見せなかった。
いつも冷ややかな顔で命令を下し、私がミスすればうんざりと嫌味を言い、常に淡々と振る舞っていたのだ。
ましてやおもちゃ以外のものに執着を見せたことなんて無い変わり者のあのニアが、私に執着を抱いたなんて、そんな、まさか。

こんなに詳細に熱弁されても受け入れられない衝撃の事実に、私はただただ狼狽するしかなかった。

──しかし。
彼に好意を寄せられていると知って、心のうちに芽生えたときめきも確かにあって。

そもそも、動機が「変人上司に仕返ししてやりたい」なんてくだらないものだったとしても、ニアのセックスの誘いを受け入れた時点で、私は彼を悪くは思っていなかった。
くりっとした目とふっくらした頬は可愛らしいし、鼻筋も整っている。
内面はともかく、彼は黙っていれば容姿端麗だ。
それにニアに思う存分執拗に愛撫された結果、存分に喘ぎ、身悶え、二度も達してしまった。

そんなに回数が多いわけではないが、今まで経験したセックスであんなに感じてしまうことなどなかった。
過去の男と比べればニアのセックスは非常にたどたどしく拙かったと言うのに、あんなにも理性を飛ばすほどに甘い愉悦を感じてしまったその理由。
女性は脳で快楽を覚えるという。
つまり私は愛撫の上手下手なんて関係なく、ただ相手がニアだからこそ、あんなにも興奮してしまったのではないか───。

そこまで思い至ったところで無性に恥ずかしくなり、ぽんと顔を真っ赤に染める。
何と言って良いかも分からず赤面したままあたふたしていると、ニアは途端に幼い容姿には不釣り合いないやらしい大人の笑みを浮かべた。

「ああ…その顔いいですね、興奮します。コマチ、もう一度できますよね?付き合ってください」

未だ挿入されたままのペニスが再び猛っていく感覚。
それに気づくのと同時に塞がれてしまった唇。

その重ね方が最初のキスとは違う自然な触れ合い方で──先刻の行為に身も心もすっかりとろけきっていた私はもはや抵抗する気も起きず、ニアのなすがままにされるしかなかったのだった。








──その後、紆余曲折あって男女交際を始めた私達だったが、結局私はいつだってこの年下の元上司に強引に振り回されてばかり。

こんな情けない私が「大人の女性」気取っていたなんてお粗末もいいところだが、まあ、今が幸せだからいいか。
私は左手薬指の指輪を眺めながら昔を思い出し、恥じらいに苦笑を浮かべた。