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ふと、影が落とされた。



ぼんやりと浮かび上がる意識の中で私は何が起こったのか訳も分からず、唇から伝わる熱と柔らかさにうっとりとした。
多少息苦しかったが、こういう時は鼻で息をすれば良いと身体が覚えているようで無意識に鼻から息を吸い込む。昨日存分に味わった、あの人の匂いがした。



キス、されてるんだ。
状況をやっと悟った私は、まだ重い瞼をゆっくりと開いてみる。



「うぉあッ」



あまりの驚きに唇をはなして間抜けな叫び声をあげた私を、テンゾウは不機嫌そうに見つめた。
体をひねり、彼の唇から逃げるように体を起こす。
下着も身に付けていない身体をシーツで慌てて隠すと、テンゾウは苦笑いを浮かべて何か呟いたが残念ながら聞き取れなかった。まあ、大したことじゃないだろうけど。


「ビックリした!テンゾウったら目真ん丸にあけてキスしてるんだもん!」


寝起き一発目、視界が開けた瞬間に真ん丸の彼の眼がすぐそこにあれば、そりゃ驚く。
いつもキスする時にはちゃんと目を瞑っているのに私が寝てるから油断してたのかもしれない。
彼とは長年の付き合いでその特徴的な目元なんて見慣れているはずなのだが、今回の場合は不可抗力だ。


「もっと可愛げのある叫び声は出せないのかい?」

「テンゾウがいけないんでしょ!」

「まったく、ムードがないね」


気が抜けたようにのそのそと私の上から退いたテンゾウのよく締まった身体が目について、昨晩の出来事がちらつく。
つい数時間前まで、こいつと…!
恥ずかしくて恥ずかしくて身体がむずむずしてくる。シーツでうまく身体を隠しながらベッドの傍に捨てられていた下着をかき集めると、途端に後ろから抱きしめられ、はあとため息をついた。


「ため息はないんじゃない?」

「てんぞ、離してー」

「嫌だ」

「はーなーしーてー」

「愛し合った後の朝だよ、もっと味わいたいと思わないの?」



そう言って首筋に顔を埋めるテンゾウに不覚にも身体が震えた。
とは言ってもこのままテンゾウの思い通りに流されるのは何か嫌だ。
子供じみた反抗心でイヤイヤと身をよじるが、彼はその手を退けるどころかますますエスカレートしていく。


「ん…」

「…反抗していたのは照れ隠しだってボクは知ってるんだよ、本当は嬉しいくせに」


何も言えなかったのは、テンゾウの言うとおりだからかもしれない。
私がゆっくりと身体を委ねると、可愛いね、ととろけてしまいそうなくらい低い声でテンゾウに耳元で囁かれた。








(とけて、ひとつになるの)






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