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(はれんちです)















「成人おめでとう、扉間」

私の祝福に「ああ」と簡潔に返事をした扉間は、普段通り冷静な面持ちで行儀よく鎮座している。今日成人を迎えた齢だと思えないほどに思考が成熟しているその男。細く鋭い目はいつだって先の未来を見据えるようで、逞しく頼りがいに溢れる。今だって年上である私が劣るほどに平静を保ち大人びた様子であった。

既に暗闇に包まれる静まり返ったこの時間、行灯の明かりだけが頼りの部屋で二人っきり。布団を挟んで向かい合わせに正座しているこの状況で平静を保っていられるだなんて、恐ろしい肝の据わりようだ。むしろ彼よりも私の方が緊張してしまっているに違いない。胸の早鐘を鎮めることすら出来ない我が身が情けないが、せめて彼に悟られぬようにと軽く笑顔を顔に湛えてみた。私はこれから、冷静に「行為」を執り行わなければならない義務があるのだから。

千手一族の男が成人の儀を終えた夜、通例として経験済みの女を宛てがい初床を経験させることになっている。これから一族を支える男として立派に繁栄に尽くしてもらうため、性教育や夜の作法を確実に授ける、大事な行事らしい。そして古くから伝わる伝統にならい、扉間も今夜初床を迎えることになり、その相手として白羽の矢が立ったのが私であった。

まだ二十にもならないうちに親同士の決め事で早く結婚したものの、すぐに夫は戦で亡くなってしまった。早々に未亡人となってしまった私にこの話が舞い込んできた時、正直気分は乗らなかった。扉間とは幼いころからの知り合いであり、まだ扉間が忍として修練を始めたばかりの幼い時には組手に付き合ってあげたこともある。かつては私を姉のように慕ってきてくれた可愛い幼子だった。しかし時の流れは当然そんな幼子をたくましい一人の人間として成長させる。今では扉間のほうが遥かに強いし、成長期を迎えた後はあっという間に背丈も越されてしまった。ある程度成長してからは異性としてむやみやたらに接触はせず一線を引いた当たり障りのない距離感を築いていたのである。そんな少年と肌を重ねるだなんて、これ以上に気まずいことがこの世に存在するのか。許されるのならば断ってしまいたかったが、しかし仏間さまのご子息の相手に選ばれるだなんて大層光栄なこと。辞退するなんて恐れ多いことはとても出来ず、私はついに今日を迎えたしまったと言うわけだ。

「あ、あのね、いきなりで申し訳ないんだけど、でも最初に言っておきたくてね、」

情けなくも上擦った声で彼に語りかければ、扉間は普段通りの涼しげな視線を此方に向けた。

「実は私も、そんないっぱい経験があるわけじゃなくて、ほら、夫はすぐにあの世へ行ってしまったし」
「…」
「だから扉間に十分に知識を授けることは出来ないかもしれない。けれど、しっかり役目は果たしてみせるから」

頑張るね、と最後に付け足す台詞は恥と緊張とその他諸々の感情に飲み込まれて小さく掠れていた。そもそも何故私がその役目に選ばれてしまったのか、さっぱりわからない。確かに処女でないが、しかし夫と交わった回数も片手で数えられるほどしかなかった。というか、年上とは言え今日成人した扉間より数歳しか違わない私よりも、もっと経験豊富で包容力溢れた大人の女性が選ばれるべきだったのだ。この戦乱の時代寡婦なんてありふれていて、相手となるべき女性は千手一族に何人もいる。私の元へ話が舞い込んだのは何かの手違いではないのか。ついに扉間と面と向かった今でさえも疑念が消えず、この場にいることが場違いなような気がして私は腿の上の拳を一層固く握った。

沈黙が大層気まずい。早くなにか言葉を発してくれと祈りつつ、揺蕩わせていた視線をそろりと上げてみれば当然扉間と視線はかち合う。やはりその大人びた瞳を目の当たりにしてしまうと怖気づいてしまい身体は自ずとこわばるが、こんな頼りない有様のままでは私は任務を全うすることなんてできない。ごくりと生唾を飲む。私はついに意を決して、自分の着物の合わせへと手を差し込み、ぐいと前を開いた。

「どうぞ、触れてみてください」

まっすぐと扉間を見つめたままそう言ってはみたが、こんな色気のない言葉で良かったのかはわからない。せっかく恥を捨てて乳房を彼へさらけ出したというのに、扉間は一瞬ちらりと胸元を見ただけでまた私の顔を見ていた。あれ私もしかして何か間違えた?焦りに全身から脂汗が吹き出した頃、突然扉間はふうと細く長く息を吐き出し、そしてーー。


「こんなくだらん習わしの相手をさせてしまって、申し訳ない」
「え…んっ」

まさかの謝罪の言葉を耳にした次の瞬間唇が塞がれた。その感触はとても優しく柔らかで、口を吸われたままふわっと扉間の腕が私の身体を包んだ。初体験に我を忘れた男子に乱暴に抱かれることも少なくないだなんて嫌な噂を耳にしてた私はしっかり覚悟を決めていたというのに、扉間の所作に乱暴のらの字すら存在せず、拍子抜けでしばし反応を示すのを忘れてしまった。

「舌を、差し込んでもいいか…?」

用心すぎるほどに丁寧な物言いに私はようやく我に返り、唇を離した扉間を見つめる。至近距離にある扉間は相変わらずの厳つい顔であったが、しかし行灯にうっすらと照らされる顔色は微かに朱を帯びていた。さすがに初めて女体を目の前にすればいくらかはこの男も興奮するのか、と他人事のように感心してしまうと共に、理性を失わず真摯に物事を進めようとするその様を普段の扉間を垣間見て、私はひっそりと安堵を感じた。

私が恥じらいながらも一つ頷けば、扉間は今一度顔を寄せた。ちゅっと一度唇を吸い上げられた後に、彼は熱い舌でこちらの口内へと入り込んできた。大きく開かれた扉間の唇は私の口を喰らい尽くすかのように密着し、私は容易く舌を掬い取られる。ぬめぬめと滑り合いながらも絡む粘膜の感触に目眩を感じていると、扉間に手を添えられ布団へそうっと押し倒された。

いよいよ始まるんだ。幼い頃から知っている異性とこんなことをしている背徳感にゾクゾクと心を震わせていると、私の脳内にふと一つの疑問が浮かんだ。

「っ…ねえ扉間」
「何だ」
「もしかして、本当は経験があるの?なんだかすごく流れが自然だから…」

唇が離れたすきに恐る恐る尋ねてみれば、扉間はわかりやすく眉根に皺を刻んだ。扉間は優秀な忍であると同時に少々厳ついが見目も良い。女子から好かれ、誘惑される機会だってきっとあるだろう。成人前にこっそり初体験を済ませる者も少なくないと聞く。男前の扉間ならあり得ない話ではないだろう。こんなに自然に口づけて抱きしめ布団へと誘導できる訳を私は察してしまい、聞かずにはいられなかった。

「俺が経験済みだったらどうする」
「え」

はっきりとしない物言いを険しい顔のままぶつけられ私は一瞬戸惑う。

「そうしたら私がここにいる意味なくなっちゃうなあ…。私と扉間が交わる必要はなくなるわけだし、朝までここで適当に時間つぶして帰ろうか」

やはり経験済みかとすんなり納得して、ぼんやりと天井を見つめながらそう提案してみる。扉間と肌を重ねなくていいんだという現実を目の当たりにしてみれば、どこか虚しさが胸のうちに芽生えた。虚しい?何故。拍子抜けだからだろうか。

しかし、ぼんやりとしたまま己の感情について考えあぐねていた最中。扉間は眉を寄せたまますっと指先を私のしとどに濡れる唇に滑らせた。まるで女を誘うようなその動きに私は戸惑う。

「別に私達がこんなことする意味、」
「予定通りに執り行ってほしい。コマチが嫌でなければ、だが」

まさかこのまま交わりを続けようと言われるだなんて全く予想しておらず、私は驚きで声も出ない。形式に拘りたいということ?眼の前に女体がありながら機会を捨てるのが惜しいとういうこと?それともやるべきことを失って手持ち無沙汰になった私に同情しているということ?扉間の意図は全く理解できない。「何故」の言葉を口にしようとしたが、しかし私を押し倒したまま至近距離で射抜く眼差しを寄越す扉間を見てしまうと、どうも言葉が出てこない。

何故かは分からないがあの賢い扉間が続けようと言っているんだ、従えば間違いはない。万が一にも私が扉間と交わらなかったことが誰かにばれてしまったら、任務放棄を責められるのだろう。そもそも私は彼に抱かれる覚悟を決めて今日を迎えたのだ。何も怖気づくことはない。もはや初な女では無いのだし一度男に抱かれたくらいで何か減るわけではないのだ。このまま流れに身を任せることこそ、一番容易い選択。

私は一通り思い巡らせ悩んだ後、唇で留まるその大きな手を掴み、恐る恐る乳房へと導いた。

「…いいよ」

私が一言そう絞り出せば、一拍置いた後扉間の無骨な手が乳房の形をふにふにと変えていく。なんだか不思議なくすぐったい感覚に身を捩りそうになるのを何とか我慢し、歯を食いしばった。

「まろやかな乳房だな」
「…わざわざ、言わなくていいからっ」

おそらくそれは褒め言葉なのだろうけど、どんな顔してその言葉を受け止めて良いのかわからず、可愛げもなく扉間を制す。扉間は相変わらずの難しい顔のまましばらく乳の感触を確かめてから、先刻とろけそうな口吸いをよこしたその薄い唇でぱくりと乳頭を咥えた。ひゃっと甲高い声が私の喉から飛び出し慌てて口を手で塞ぐが遅い。私の声を聞いた扉間は乳頭を口にしたまま私をちらりと赤い目で見遣ったが、動きを止めることはなく、やわやわと甘く唇で挟んだ後にじゅうっと強く吸い上げた。

「あ…っ」
「気持ちいいのか…?」
「言わなくても、わかるでしょ…!」
「俺に閨事の所作を教えるのが、お前の役目ではなかったのか」

そうと言われてしまえば逆らえない。私は顔が一気に火照るのを感じながらもしばし戸惑い、そしてこくりと頷いた。

「気持ちいい…」
「どうされるのが好みだ?」
「え、それは、その、今みたいにされるだけで十分気持ちいい、けど…」

口ごもる私だったが、これならどうだ、と言わんばかりに弾くように乳首を舐められた瞬間、びりびりと身体がしびれるような強い快感が襲ってきた。口から次々に溢れる私の喘ぎに扉間は気を良くしたのか、上手く緩急をつけて乳房への愛撫をつづけた。揉まれ、揺すられ、弾かれ、舐められ。扉間が存分に私の乳房を堪能したころには私は息も絶え絶えで、股は情けなくも潤いを帯びている有様であった。そんな秘所へといよいよ扉間の手が伸びてくる。私は緊張に身体をこわばらせつつも、一体何を教えればいいのかと悩んだ。

「触るぞ」

そうして扉間が体制を変えようとした瞬間、私の腿へと硬いものが当たる。それが何かを察してしまえば私の胸はあっという間に早鐘を打った。幼馴染の男としての性をついに目の当たりにしてしまい胸の中でなお一層膨らむ罪悪感。いやしかし、存在しているのはそれだけじゃない。渇望ーーどこか期待している己に気づいてしまい、私はそんな自分を認めたくなくて大きく深呼吸を二度した。そうだ、私は扉間に房事の指南をするために、今ここにいるんだ。思い出せ、平静を保て。

着物の重なりからするりと侵入してきた扉間の手は燃えるように熱を帯びていた。秘所へ容易にたどり着けるようにと少し股を開くと、ついにその無骨な指が触れる。茂みをかき分けた後そこの肉の感触を確かめるようにふにふにと突かれ、私は無意識にも焦れてしまう。唇を噛み締めて遠慮がちな愛撫に耐えていたがうっかりと鼻から甘く息がこぼれた。扉間は胸を愛撫する時も今も、何度も何度も私の顔へと視線をよこしてこちらの様子をよく観察していた。当然私が零した甘い息も見逃さず、扉間は満足げに口端を持ち上げた。

「感じるか?」

変にごまかせばむしろ滑稽な気がして、私は素直に頷く。

「なら良い」

言い方はぶっきらぼうだが声音に高揚感が滲んでいた。私との交わりを楽しんでくれているという事実に安堵と興奮を感じていたところに、扉間は秘裂を割ってぷっくり膨らむ蕾へと触れる。指で上下に弄くられたり、ぐっと押されたりするとたまらなく気持ちいいが、扉間にしっかりと観察されている気恥ずかしさに正直な反応をすることもできず、私は淫靡な吐息を響かせることしかできなかった。

一通り秘豆を弄ばれた後、いよいよ膣の中へと侵入してくる骨ばった指。十分に濡れていたおかげかあっさりと扉間の指を受け入れてしまうそこの様子に赤面しているとやはり扉間と視線が絡み合い、私は思わず顔をそむけ、枕を震える手でぎゅうっと握った。

「痛みはあるか?」
「ううん大丈夫」
「どう動かされるとお前は良い?」
「ど、どうって言われても」

対象の様子をよく観察し、本人にどうすべきか尋ねるその様に扉間の聡さが表れているが、こんな閨事の最中にそんなことされてしまうととてつもなく恥ずかしい。しかし彼に悪気がないのは分かっているし、一応性行為の所作を教える役であるという手前、扉間の好奇心旺盛さを責めることはできず私は口ごもりながらも思案する。

「こう、奥の方を揺らすようにグッとされたら、気持ちいい…かも」

自分の感じるツボを白状するだなんて、ああ穴があったら入りたい!あまりの羞恥に顔が燃えてしまうのではないかと思えるほど。しかし扉間はそんな私を待ってはくれず、長い指が限界まで差し込まれた。それがくいっと折れた瞬間、微かな快感を感じて身を捩った。いつの間にか早々に二本目の指も差し込まれ、同じように指を折られれば、子宮が揺らされるような得も言われぬ感覚に陥る。

「それ…好き」

うっかりこぼれてしまった言葉だった。口にしてしまった後でハッと手で口を押さえる。はしたない事を口走ってしまったと焦る私だったが、扉間は驚いたように目を開き、こちらを凝視していた。珍しく呆気にとられたその顔は瞬きを数回した後、にやりと意地の悪い笑みを滲ませた。普段の生活では目にすることのできない、男としての性の光を孕む鋭い瞳が私のなけなしの理性を剥いていくのを感じた。

扉間の二本の指は性急な様子で私の膣内を揺さぶる。その動きとともに下から聞こえる水音の何といやらしいことか。私が扉間の愛撫に感じていることをありありと示すそれに恥じらいを感じないわけではないが、よこされる快感があまりにも強すぎて、もはや我慢しようだなんて考えが浮かんでこない。

「んっ……上手なんだね…扉間」
「……。そんなに気持ちいいのか」
「このままされ続けてたら気を遣っちゃいそう。だから…っ」

そう言って上半身を起こし、扉間のたくましい腕を掴んで指を引き抜く。そんな私の様子をただ黙ってみていた彼に「そのままで」と声をかけてみるが、恥ずかしくてその顔を見ることは叶わなかった。意を決して彼の前で屈み込み、恐る恐る猛る下半身へと手を伸ばした。

「コマチ…それは、」
「もう、されたことあるのかも知れないけど…下手だったらごめんね」

うろたえる扉間を制し、着物の合わせを割って下着を取り払えばついに夜気にさらさた男根。その大きな図体にふさわしい大きなそれは固く熱く膨れ上がって天を指している。かつて幼子だった扉間がもはや一人前の男であることをこの目で認めてしまった瞬間、彼が私のよく知る幼馴染ではない、全く別の存在である気がして唐突に恐怖を感じた。恐れと恥が脳内で綯い交ぜになってしまい、わたしはもう自棄になっていきなり性器へと口を寄せた。

ちゅっとひとまず軽く口付けただけで、屹立はびくんと大きく震える。その場で正座している扉間の拳が、私の視界の端で固く強く握られている。私は今一度肺の空気をすべて吐き出し、そして舌でぺろり、艷やかに膨れあがる亀頭を舐めてみた。

「…クッ」

扉間のうめき声に、私を拒むような色はない。快楽を堪えているのだと声色から汲み取ってとりあえず一安心するが、ちろちろ舐めるだけでは口淫としてはあまりにもお粗末だ。先走りに滲んだ露を舌で掬い飲み下し、それが扉間の体液であると急に実感してしまえば、身体の奥底からぞわぞわと興奮がこみ上げる。私は自分が何故興奮してるかもわからないまま、しかし本能に導かれて扉間の性器を口いっぱいに咥え込んだ。

ぐちゅん、ぐちゅ。

私の口内で淫らな音が響いている。唾液をいっぱいに男根に纏わせつつ咥えられるところまで到達してからキュッと吸い付いてみれば、扉間の肩は大きくはねた。頭上から振ってくる吐息は、普段の扉間からは想像できないほどにか細くて甘い。さんざん私がされたように扉間の感じる顔を見てやり返してみたいとは思うが、どうにも目線を上げる勇気が湧かず大人しく鼻から酸素を吸い込んだ。息苦しさも少し紛れたところで大きく頭を動かし、上へ下へと扉間の大きな性器を唇で擦り上げてみる。こういう上下の動きに男は感じるんだっけかと考えつつその動きを続けていた。しかし。

「…、や、めろッ」

突然の拒絶。扉間が逃げるように腰を引いたので、性器はあっけなくも口から抜き取られた。もしかして痛かったのか。私はいきなりの扉間の行動に、何か粗相をしてしまったのではないかと背筋を凍らせた。

「ご、ごめんなさい…!痛かった…?」

申し訳無さに身を乗り出しながらそう問うてみるが、扉間は何も言わない。顔を伏せたまま肩で大きく息をしているその様子に何か良くないことが起きているのだと思って、心配でその肩に触れる。荒々しく顔を上げた扉間。その顔つきは苦しそうな表情だが、頬は朱色に染まり悩ましげに眉は歪んでいた。いつだって冷静さを醸し出す厳つい瞳に、今は欲情の炎が灯っている。

「悪い。痛かったわけではない」
「…」
「もう、これ以上は耐えられそうにないんだ」

切なげなその声はとても淫らに暗い部屋で響いて私の鼓膜を突き刺す。

「口淫がこんなに気持ちいいことだと知らなかった」
「口でされたのは初めてだった?」
「口淫だけではない。何もかも初めてで、全部が予想以上だった」

え、と私の口からこぼれ落ちる。何もかもが初めて?扉間は未経験だったということ?驚きで目を白黒させながらも、私は首を振った。

「でもさっき経験済みだって言ってたじゃない」
「違う。『経験済みだったらどうする』とコマチに問うただけだ。未経験だとはっきり認めたくないくだらん自尊心で話題を反らした」

ばつが悪そうにそう扉間は口にするが、私は未だ彼の言うことが信じられない。だって扉間はすごく上手だった。ふんわりと優しい口づけはこうすれば女が喜ぶと知っているようだったし、胸をいじるのも膣を愛撫するのも所作の一つ一つが丁寧で、私の様子をしっかり窺いながら、私のペースに合わせて行ってくれた。そんな上手な扉間だからこそ、今まで性的に意識していなかった幼馴染相手に私は存分に啼かされてしまったんだ。

そこまで思案していたところでハッと思い至る。私の様子を何度も窺い、しつこいほどに「どうされれば感じるのか」を尋ねていたのは、経験が無い故にどうすれば正しいのか分からず私の反応から学んでどうすべきか自ずで考えていたのか。

まさか扉間が本当に初体験だとは思ってもみず、閨ごとの所作を教える唯一の役目もおざなりにしていた自分が情けない。何だか申し訳ないことをしてしまったと肩を竦め今一度扉間に謝ろうとした刹那ーー。扉間は性急に私を抱きしめ、そして再び布団へとこの身を押し倒した。

「コマチの全てを見せてほしい。いいな…?」

未だ困惑のままではあったが場の雰囲気に流されて頷いてみれば、扉間は中途半端に身体に引っかかったままだった私の着物をいそいそと取り払った。しゅるっと帯がほどかれる音がいやに生々しく鼓膜を震わせて私の羞恥心を煽る。そしてついに一糸も纏わぬ生まれたままの姿になってしまい恥ずかしさに身を捩るが、扉間は突き刺すような鋭い眼差しで私の身体を見つめていた。

「綺麗だな」
「そんなことない、傷跡も火傷跡もいっぱいだし」
「名誉の勲章だ。今日までお前が戦で生き抜いた証だろう」
「でも、男の身体にならともかく、女の身体にこんなの…」
「全部ひっくるめて、愛らしく思う」

当たり前のようにするりと扉間はその台詞を口にしたが、私はそれをすんなりと受け入れることができなかった。今、彼はなんて言ったんだ。絶対に彼の口から発せられないような言葉が聞こえてきた気がしたけど、いやまさか。でもたしかに。

私はすぐさま口を開いて先刻の言葉を聞き返そうとしたが、扉間に唐突に足を割られてしまい驚きで喉を詰まらせる。

「すまない。もう、挿れさせてくれ」

そう言ってすぐに扉間は私の秘裂に熱い亀頭を添えた。こちらを窺う扉間の目には、私の許可を求める意図が込められていた。私は先刻の扉間の台詞のせいで混乱したままだったがこのまま彼を生殺しにするのも憚られて、そっと小さく頷いた。

ぐぐっと私の中を広げて扉間の性器は侵入してきた。一瞬痛みを感じて顔を歪ませれば扉間はすぐに動きを止めてくれたが、私は大丈夫だからとそのまま続行を促す。申し訳なさげに扉間は顔を歪ませたがやはり中途半端でいるのも辛いようで、ゆっくりと奥へ挿入は続けられた。

「入った…?」
「…ああ」

扉間は眉間に皺を刻み、苦しそうに目を閉じたままで枕元に膝をついた。至近距離にせまるその顔つきをまじまじ見れば、昔の小さかった扉間の面影が滲んでいる。しかし今私達がしているのは、少年少女では許されない大人の行為。互いに長い月日を重ね、大人の男女となった実感を私はこの身体全てで今受け止めているのだ。そして次の瞬間ゆっくり開かれた目はいつも通り厳つかったが、しかし眼差しはとても優しく確かに慈しみの色を湛えていた。

「一度は諦めた思いだった。だがお前が寡婦になったと知ってしまえばもはや歯止めは効かなかった」
「…」
「コマチが今日の相手に選ばれたのは、俺の希望だ」

ここまで言われしまえば、分からない訳がない。扉間からの告白を聞かされて驚嘆に言葉を失うが、扉間はそんな私の寡黙な口に熱い口付けを振らせた。あのどんなことが起ころうとも冷静さを無くさない扉間にこんな情熱的な一面があるだなんて。長年の付き合いで知ることのなかった扉間の一面を目の前に困惑する気持ちは確かにある。しかしそれ以上に腹の奥から湧き出るこの高揚感は一体何なのだ。それが女としての悦びであると認めた瞬間、私の膣はびくんと淫らに扉間の男根を締め付けた。

「ッ…!」
「ぁ…あっあっ…だめッ」

いよいよ我慢できなくなったのであろう扉間から、激しい突き上げを寄越される。何度も何度も出ては入る性器の動きに、とてつもない快感が体中を包む。足はガクガクと震え、口からはいやに甘ったるい嬌声が次々と飛び出したが、それを気にする余裕なんて微塵も存在しない。扉間の熱い先端に一突き一突きされるたびに子宮がしびれるような感覚だ。私の上で懸命に腰を振る扉間は相変わらず堪えるような苦悶の表情。そんな扉間の額から汗がぽたりと胸元に落ちた感触ですら、私の快楽を高めていく。

あまりにも甘く強すぎる気持ちよさに手の置き場がわからず、私は喘ぎ声を漏らし続けたまま扉間の頭を腕に抱え込む。指の間で輝く銀色の髪は少し湿っぽくて、もう少年ではない大人の男としての艶やかさを感じてしまうのだった。

「お前のことが好きだ、コマチ…ッ」
「と、とびらまぁ…んぁ!」
「積もり積もったこの恋慕の情を、お前に、受け止めてほしい…!」

扉間の告白は悲痛な物言いだった。今まで幼馴染で強く逞しい男としか意識してなかった人に、こんな淫らなことをされながら思いを告げられるだなんて夢にも思わなかったし、色恋沙汰には微塵も興味がなさそうな扉間に、こんなにも甘く熱っぽく求められる日が来るだなんて思いもしなかった。しかし情熱的な愛の告白も、懸命に私を求める必死な扉間の様も、今私の膣をぐちゅぐちゅと掻き回す熱い性器の感覚も、何もかもが現実。

その刹那、私の中で何かがパンと弾けた。

「あああっ扉間、ん、んん!」

脈拍が高まる。指の先がしびれる。子宮から身体中に一瞬で広まる、大きな快楽の波。

びくんびくんと私の身体が大きく跳ねると共に、熟れた膣は扉間の性器を強く何度も締め付けた。私の絶頂に飲み込まれた扉間は小さくうめき声を漏らした後性急に性器を引き抜いた。どこか遠いところに飛んでいた私の意識が戻ってくるころには、私の腹の上にはおびただしい量の白濁が散らばっていた。

「(まだ中がビクビクしてる…)」

ただただひたすらに気持ちいい交わりだった。男女の情事がこんなに気持ちのいいことだなんて知らなかった。そもそもかつての夫とは経験した回数も少なく、痛みばかりが目立つこの行為がどちらかと言えば苦手だったのだ。経験だけで言えば私のほうが上のはずなのに、情けなくも初体験の扉間に絶頂まで導かれてしまった事実が信じられない。二人の荒い呼吸をぼうっと聞きながら、何故こんなに扉間との房事が気持ちよかったのか考える。身体の相性がいい?それとも忍として優秀な扉間に夜の才能もあった?馬鹿げた可能性を一通り考えたところでふと浮かぶ、扉間の甘く情熱的な眼差し。

ああそうか。彼に愛されていたからだ。

私の様子を把握し、どうすれば私が善がるのか的確に判断して行動する扉間。その行動は独りよがりとは正反対、私に気持ちよくなってほしいと願ったが故のものだったんだ。扉間は私を心の底から好いていてくれるんだ。

はっと我に返ればいつの間にか身体を起こしていた扉間に腹を拭かれていた。何だか気恥ずかしくて自分でやろうと手を伸ばしかけた瞬間、彼が顔を上げて二人の視線は絡み合う。先刻まで甘ったるかったその瞳は、今はもういつも通りに落ち着きを取り戻していて、私は気まずさにすぐさま逃げるように目線を反らした。

私も扉間も一言も発さないまま後処理を終えて、今更裸でいるのが恥ずかしくなった私はそこらへんに投げ捨てられていた自分の着物を手繰り寄せ前を隠す。布団の上で未だ立ち上がれない私を他所に、扉間は布団から立って下着を身に着けている。閨事の最中の情欲と恋情に満ち満ちた雰囲気はどこへやら。もしかして何もかも幻術だったのかと私が本気で不安になってきたころ、着物を整え終えた扉間は私の目前にしゃがみこんだ。

「まだ返事を聞いていない」

返事というのはもちろん、先程の告白についてのものだろう。夢幻だったのかという疑念は一瞬で消え去ったが、新たに生まれる困惑。最近疎遠だった幼馴染としてしか今まで認識していなかった男からの突然の好意。扉間は若さと釣り合わないほどに厳格な人柄だが優しく思いやりに溢れた一面もあり、見目もいい。こんなに私を慈しんでくれるそんな男にこれから先も愛されるのであれば、女としてこれほど幸せなことはないだろう。

しかし私は未亡人だ。他人の手垢がついてしまったこの私が、将来千手一族を率いる存在になるであろう男の側にいてしまっては世間からどんな目を向けられることか。許されるはずがない。

答えに困り果て狼狽の目で沈黙を貫く私の様に察したのか、扉間はふうと一つため息をついた。しかし、彼を拒絶してしまった申し訳無さに顔を上げると同時、扉間はこちらに手を伸ばし包み込むように穏やかな抱擁を寄越した。背中の素肌で感じる扉間の手のひらは、先刻の情事の熱を未だ失っていなかった。

「覚悟していろ。必ずお前を手に入れてみせる」

ひそやかだが力強い扉間の台詞に胸のうちで期待と戸惑いと憂いが膨らんで、私はただただ静かに赤面しているしかなかった。




当然私がこの男から逃げきれるはずもなく、数年後には私が白旗を揚げ、うちは一族との戦いに終わりが見えてきた頃には夫婦として彼を支えるようになってしまっていたというのだから、扉間という男は年下のくせして恐ろしい人間だ。