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(貧乳ヒロイン)
(お下品です)






「む…」

マダラが眉根を寄せて私の身体を愛撫している。な、なんだ…?何か気に入らないことでもあるのだろうか。布団の上、素っ裸のままマダラに組み敷かれながらも懸命に頭を働かせて冷や汗を流す。ムダ毛処理が甘かったのか、あるいは臭いでもあるのか…。愛しい男性に自分の身体が原因で幻滅されてしまうだなんて、女性にしてみれば最悪の結末だろう。しかしいくら頭を働かせても一向に思い当たる節はなく、私はとりあえずマダラの様子を観察し続けてみることにした。

彼の大きく武骨な手。私の腹の肉をグッと持ち上げつつも上へ上へと上るそれは、ついには乳房を両脇から寄せるように――

「…一応聞くけど、何やってるの…?」
「はさんでみようと何とか寄せ集めてはみたんだが…」

はさんでみたいとは、アレか。アレなのか。アレをはさみたいということなのか。私が呆れるあまり何も言えないのを良いことに、彼はその珍妙な手の動きを止めようとしない。今一度腹に這わせた手を乳房に向かい這い上がらせるその様に、私の中でついに何かがプツリと音を立てた。






とまあそんなわけで私はマダラを寝室から追い出し、部屋の中一人、般若顔でいるわけなのだ。

「色茶屋に行っておっぱい大きいお姉ちゃんにでもしてもらえ!」

障子の向こうで許しを請おうと声を掛けてくるマダラに乱暴な一言を返す。我ながらなんとも下品な言葉づかいではあるが、こうでもしなければこの怒りの遣りようがない。まったく腹立たしいったらありゃしない!激しい憤りに身を任せてマダラの脱ぎ捨てた襦袢を強く強く握りしめる。怒り狂っていて気づかなかったが、ここに彼の襦袢があると言うことは廊下のマダラは褌一丁なのか…。何というか、得も言われぬ気分である。

「すまんコマチ、さすがにはしたない行為だった」
「はしたないとかはしたなくないとか、そんなこと言いたいわけじゃない…!」
「……そうか…」

いつもは余裕綽々の声音で一族の指揮を執っているあのマダラが、女性一人を相手にこんなにも狼狽しているとは。滅多にない状況を頭の隅でどこか他人事のように捉えながらも、私は未だ歯ぎしりを繰り返す。確かに大きいとは言えない乳房だし、寝っ転がれば重力に負けて大分平らになっちゃうし、そういうことは自分でもちゃんと認めているけど、でも大好きな男性にこんなふうに扱われるだなんて…!うちは一族の頭領の伴侶として日々強気に振る舞っているさすがの私も、女としての自尊心がズタボロだ。

「そりゃ私のおっぱいじゃ無理かもしれないけどさ、お腹の肉まで集めて何とか質量増やそうだなんて、そんなの、あんまりだよ…っ」

怒りのあまりついに目頭まで熱くなってきた。涙声で必死にマダラに思いの丈をぶつけてみれば、障子の向こうの彼の雰囲気が変わったことがわかる。泣きはじめてしまった私に対して、尚更焦りを隠せなくなっているのだろう。

「マダラのばか…」
「コマチ…」

私の名前を呼ぶ彼の声がなんとも悲愴感に満ちていて、なけなしの良心がちくりと痛んだ。いや、いやいや!そうそう簡単に許してなるものか…!自分の身体を、コンプレックスのど真ん中を突っつくような方法で扱われて私は傷ついたんだ。今後の夫婦生活のためにも、うやむやになんかしちゃいけない…!何とか揺らぐ心を押さえつけて、力強く歯を食いしばる。

「ひとまず障子を開けてほしい」
「…褌一丁の姿だから…?」
「そうではない。障子越しではどんなに頑張ろうとも誠意は伝わらんだろう。面と向かって今一度謝罪したいのだ」
「うっ…」
「まあ、障子紙を突き破ることは簡単なことだが…」
「…」
「…」
「それはちょっと…」

マダラがその気になれば障子を無理やり開けることも突き破ることも簡単だろうが、それをしないで私の許可を得ようとしているあたりは律儀である。私は胸に溜まった淀む空気をめいっぱい吐き出して障子の前から退いてみた。僅かな間の後、そろりそろりとらしくもないような慎重さで障子を開け部屋に入ってくるマダラ。彼と共に部屋の中へ飛び込んだ秋の夜の冷気に思わずぶるりと身体は震えた。マダラを外に放り出してしまったことをちょっとだけ後悔して、ひとまず彼へ襦袢を返す。

「お前の気持ちを配慮することが出来ない、酷くみっともない行為だった。すまないコマチ」
「…」

私がへたり込む布団の傍に膝をついて、手渡された襦袢も着ずに素直な謝罪を述べるマダラ。いつもは偉そうな彼にこうもしおらしくされてしまうと、再度心は揺らぐ。いやしかし、あんな屈辱的なことをされて易々と許すのも何だか釈然としない。妙な自尊心で意固地になり悶々としてみれば、目の前のマダラは凛とした表情を崩さずに、ただひたすら私を見つめて返事を待っているようだった。相変わらず凛々しい様だが、所詮は褌一丁の姿なのでなんとも、あー、間抜けだ。あまり凝視しているとそのうちうっかり吹き出してしまいそうなので、私は大慌てで視線を逸らす。

とにかく、どうしよう。いつまでも頑固でいるわけにはいかないし、まずはとりあえず何か胸の内をさらけ出すべきではないのか。何とかして言葉を紡ごうと考え抜き、金魚のように口をぱくぱく開けたり閉じたりした末で飛び出した台詞は、

「色茶屋にいっちゃうのは、ヤダ…」

あああ…。数分前にヤケとは言え自分で提案したことをひっくりかえすようなそんな台詞しか出てこない自分が情けない…。突拍子もなくとんでもない掌返しに、マダラは拍子抜けと言わんばかりに目の前で顔をしかめていた。

「病気もらってこられても困るし、こっちにうつされて子供産めない身体になっちゃたりしたら大変だもん…。私は、マダラの跡取りを生まなきゃいけないわけだし…」

妙に生々しい話題へと脱線しているし、つまりどういうことを伝えたいのかもちょっとよく分からなくなってしまったし…。私は言葉に詰まってしょんぼりと背を丸める。簡単に身にまとっていた襦袢の端をいじいじと弄りまわしつつ沈黙に冷や汗をかいていると、マダラは目の前でひとつ大きな咳払いをした。私の背中をそっと押すような、あるいは性急に急かすようなその仕草に反射的に丸めた背を伸ばし、彼を見据える。いつの間にか立場が逆になっているような気がして、私は声を張らねばと大きく息を吸い込んだ。

「まあ、その、私以外の女の人とそういうことされるのは癪だし、今回はそんな感じで水に流してあげないことも」

なんとも可愛げのない偉そうな物言いにすぐさま内心で頭を抱えながらも、とりあえず、許してみた。彼はいったいどういう反応をするのだろうと、顔を背けたい気持ちを抑え込みまじまじと見つめてみれば、持ち上げられるマダラの口角。そして「フン…」と鼻を鳴らしたマダラが何とも自信に満ちあふれたような表情をしていて、私はさっぱりわけが分からず、ぽかんと間抜けに口を開け放った。

「コマチ以外の女と寝るなど、全くもって有り得ん。ただ欲を処理するだけの性行為に一体何の価値がある?これは子供を作る行為だ。心から信頼を寄せる異性が相手であってこそだろう」

まさに当然!といった雰囲気がむんむんに溢れるその台詞にしばし言葉を失ってしまう。先刻までのやや焦っているような声音とは全く違ういつも通りのその声。頭の中でぐるぐるとマダラの台詞を繰り返してみては、性懲りもなく己の顔をにやけさせた。

「だからこそ、先程の非礼を今一度詫びよう。俺はお前と良好な夫婦関係を築いていきたい」

「もちろん性行為だけでなく、全般的な意味でだ」と付け足すように言うマダラを見つめていると、無性にこっ恥ずかしくなってつい視線を逸らしてしまう。常日頃から性に対してちょっとアレな――有体に言えば、変態的な言動が目立つ彼だが、そもそも彼は異性との関係を築くことに疎い一面があるのだ。幼いころから戦いに明け暮れていた彼の、その行き過ぎた接触に悪気がないことは重々承知している。さすがに毎度毎度コンプレックスを刺激するようなことをされては堪らないが、元来マダラは賢い男だし、理解して反省してくれるのなら何も問題はないだろう。

――なんてもっともらしいことを考えてみながらも、実際は単純にマダラから「心から信頼を寄せる異性」だとか「良好な夫婦関係」だとか言ってもらえたことが嬉しいだけだったりする。ある意味こんなにも難ありな男を結局は易々許してしまうあたり、惚れた弱みというか、あばたもえくぼである。


「もうあんなことしないでね」
「分かった」
「でもまあ、そうだよなあ、やっぱりおっぱいは大きいほうが良いよねえ…」

小さいよりは大きいほうが良いし、それで夫が喜んでくれるのなら私も嬉しいし、とりあえず大豆でも沢山食べてみようかな…。と、己の胸元に視線を向けながらどうしたものかと考えているところに、突としてマダラの手が伸びる。私の肩をがっちりと掴み、こちらを射抜かんばかりに見つめる彼。何だ何だと驚いて小首を傾げてみれば、マダラは何故か穏やかな笑みを浮かべて口を開いた。




「そもそも大きさはそこまで重要ではない。一番大切なのは、触らせてくれるか否かだ」





いやその、なんだ。もしかしたら彼なりの励ましの言葉なのかもしれないが…ドヤ顔褌一丁でそんなことを言われましても…。