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「#エロ」のBL小説を読む
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戸を引いたその先に仁王立ちする腰タオル姿のイタチ。
しまった!と慌てて脱衣所から逃げようと背を向ければ、あっという間に身体を捉えられ、そのまま浴場に引きずり込まれるのだった。

お風呂場で襲われるって何回目なのわたし…!






気を抜いてた私も私だが、わざわざ蒸し暑い浴場で気配を消して待っていたイタチも相当アレである。骨の折れる任務も終わり、一人でのんびりお風呂に入ろうと思っていた。外蓑も忍装束も下着も何もかも洗濯籠に放り投げて、全裸で戸に手を掛けた自分が心底悔やまれる。タオルの一枚でも巻きつけておけば良かった…!

――しかし。
胸の内でやきもきしていた私だったが、イタチに見事、意表を突かれてしまうこととなる。


バスチェアーに座り、身体中を良い香りで包み込む泡を洗い流す。ちらりと湯船に浸かるイタチを盗み見れば、縁に頭を傾け、ただ静かに天井を見上げていた。その目にギラギラとした欲情の光は灯っていない。私の裸を凝視することもなく、のんびり湯につかっているだけ。風呂場に引きずりこまれたからには、てっきりそのまま襲われるのだと身構えていたので拍子抜けである。私なんて素っ裸だし、もちろん二人っきりの空間だし、情事を致すには持って来いのシチュエーションのはずなのに…なぜ?どうにも腑に落ちず、じっとシャワーヘッドを見つめた。うまく言い表せない気持ちを振り払うかのようにもう一度頭からお湯を浴びて立ち上がる。

「私も一緒に入っていい…?」
「ああ」

その目はこちらに向けられない。尚更疑念が募り、一人小首を傾げた。しかしこのまま立ち尽くすわけにもいかず、私は上と下のどちらを隠すか悩んだ末、どちらも隠さないで湯船へとゆっくり歩く。色々と丸見えになるであろう、湯船の縁を跨ぐその瞬間でさえもイタチは視線を向けようとしなかった。胸元までお湯に沈めながら、包み隠さず訝しげに眉をひそめる。

「イタチ」
「ん?」
「…え、あ、別に…」

一瞬向けられた視線も、またすぐに逸らされてしまうなんて。一体どうしたというのだ。いつもみたいにとんでもない発言をかましながら野獣のように襲い掛かればいいじゃない…!あまりの張り合いの無さにそれ以上掛ける言葉も見つからず、私は不貞腐れたように口元をお湯に沈めて、ぶくぶくと音を立てた。

一般家庭に取り付けられたそれよりも大きめの湯船。大の大人が二人で入っても全く窮屈ではない。釈然としない気分ではあるが、やはり風呂というのは安らぎのある空間だ。イタチから少し離れた位置を陣取り、むしむしと漂う熱い空気に独特の心地良さを感じた。程よい温度のお湯、石鹸の香り。そして目の前に端正な顔立ちをした恋人。平素でさえ見惚れるほど美しい黒髪は水っ気を含み尚一層艶やかにきらめく。鼻筋の通った横顔、濡れた唇、何もかも見目良いのだ。悩ましげに閉じかかった瞼の奥で存在感を放つ黒い瞳を、無言でじっと見つめた。ただ湯に浸かる姿でさえ画になるのだからイタチはずるい。しかもこれでいつもの変態な気質も隠れているときた。――まさに私が常日頃から望む、理想の恋人のようだ。

「視線、」
「え!」
「さっきからずっと俺を見てるだろ」

不敵に口端を持ち上げたイタチの顔に、胸が高鳴る。流すように私を見遣る彼の眼がどうにも照れくさくて、ふいと顔を背けた。

「そんなにジロジロ見るくらいなら、こっちにおいで」

彼の綻んだ頬。ざばん、と音を立てて彼の右腕はお湯から飛び出し、そのまま縁の上に乗った。この腕のところに来い、ということだろうか。いや間違いなくそういうことなのだろうけれど、いつもの癖でどうにも身構えてしまう。イタチの傍に近寄ったが最後、そのまま手籠めにされちゃう、とか。思わず胸元を腕で隠し、彼から逃れるように身を捩った。何も答えず、ただ不審そうな目で睨みつける私に、イタチは可笑しそうに柔らかく笑った。そしてもう一度、「おいで」と。ああああ女の子ってそういう言葉弱いんだよなあ…!まして、水も滴る良い男状態のイケメンからそんな甘い声で言われちゃうと、その、なんていうか。性懲りもなく単純な性格だと反省しつつも、私は胸元の腕を下し、ゆっくりゆっくり彼へと近づいた。私の動きに合わせてお湯が音を立てて波打つ。イタチの胸板に当たっては跳ね返る水のうねりから目がそらせない自分が無性に憎い。

「コマチ」

そう囁いたのちに私の肩を抱く。イタチから香り立つ良い匂い。無駄にお高いシャンプーやらボディーソープを使う私とは違い、彼は備えつけの質素なものだけを使っているはず。それなのに何故、こんなにも良い匂いが立ち込めるのか。

「イタチ、すごく良いにおい…」
「お前こそ」
「んー」

清潔感の中で確かに匂い立つ甘い香りに身体が引き寄せられる。そのままイタチの首元へ顔を埋めようとすると、途端に頬を捉えられた。熱を帯びたイタチの指が、お湯でわずかに頬を滑る。その感触の心地よさにとろんと顔をあげれば、額にイタチの唇が近づく。ちゅっと間抜けな小さな音が、浴場の壁に当たって鼓膜を刺激するように大きく響いた。

「甘えたがりか?」
「違うよ、良い匂いだから気になっただけ」
「どうだかな」

フッと笑い声を零すイタチに見とれながら、再び彼の名を呼ぶ。イタチの肩を掴む私の手は先ほどよりもずっと熱い。

「もう一回、ちゅーしてよ」
「どこに?」
「おでこ」
「本当におでこで良いのか?」
「どういうこと…?」
「もっと他に…あるだろう」

意地悪く焦らし始めるイタチを、「いいから」と甘ったれた声で急かした。自然と私の腕は彼の首へ巻きつく。お湯の奥底で妙な浮遊感を持つ二人の足が遠慮もなく触れ合った。ベッドの上では感じることのできない、独特の感覚と温度に尚更気分は盛り上がる。もう一度私の額に唇を落とした後、じっとりと絡みつくような瞳を寄越すイタチ。無意識に背筋は震え、腰が痺れる。お湯にのぼせつつあるのか、それともイタチの醸し出す雰囲気にあてられてしまったのか。頭がぼんやりとして何も言えないままでいると、ついに唇と唇の口づけが始まってしまった。ただ味わうように啄み、何度も角度を変えてはまた啄み、零れる吐息の合間に啄む。舌を入れないキスはこの状況において妙に艶めかしく、魅惑的である。二人の唇が触れ合う音がよく響いた。とびっきりの眩暈に、このまま蝕まれていたい。

「コマチ…」

そうして彼はふんわりと私の首元に顔をうずめた。何一つ可笑しくもない、自然な流れだった。まるで恋愛映画のワンシーンのように当たり前に進行していく愛の営みに、私は恍惚のため息を零した。官能的な幸せ。大好きな彼に、こんなロマンチックに求められるならこれ以上の喜びはないだろう。いつもと違う雰囲気のせいなのか、段違いに高揚する気分に自制が利きそうにない。理性を手放すように瞼をおろし、あとはされるがままと身体から力を抜いた。


…む?


あ、いや…そんな、ね!こんな官能的な状況なんだからそうなってて当り前よね!私の内股に当たる熱くて硬いそれは紛れもなく彼のそれなわけだけど、それがそうなるのは当然の摂理であって全くおかしいことではないのだ。……ないのだ…。

「イタチ…なんか息荒くなるの早くない…?」
「…」
「………イタチ…?」

ああ神様、極上の幸せをどうかこのま――


「コマチ…!」


突然大きな声で顔をあげたイタチ。なんと見知ったその表情。イタチの手はいつの間にか私の乳房を遠慮なく弄んでいる。その手つきに艶やかなゆとりはない。そして私の足を性急に割り、その間に膝をついた彼。まだ始まったばかりだというのにぐいぐいと力強く私の股ぐらに押し当てるそれは、現在進行形で段々と硬度を高めつつあるような気がした。

ああ、ああ。私は唇をとじ合わせ、何かを訴えるようにただ涙目で首を振り続ける、のだが。



「いつもむやみやたらに求めていたって芸がない。俺から一方的に求めるのではなく、お互いが乗り気で求め合うことに最高の悦びがある、そう思わないか?お前の裸を目の前に平常心を保つのはなかなか骨折りだったが、あんな扇情的なコマチが見れたのだから十分価値はあった。悩ましげな目つきで俺を射抜くその様は、息をのむ艶やかさだったぞ」


さて、と呟いて浴槽の縁に私を座らせるイタチの力強さ。悲しめばいいのか、ときめけばいいのか。





(ああ…やはり浴場での情事は音が良い)
(は、はずかし…っ)