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さえずりのなかにこっそり補完編)
(生々しいはれんち注意)








持てる愛情の全てをこめて、扉間さまのそれを口の中で愛す。顎を外さんばかりに大きく口を開け、出来る限りにそれを奥まで咥えると、彼はビクリと身体を跳ねあがらせた。その大きな身体を今わたしが征服しているのだと思うと嬉しくて、今にえづきそうな程苦しいながらも口の奥でそれの先端を挟んだ。口内に独特の味とにおいが満ちていき、麻薬のように頭を可笑しくしていく。

「口淫は要らぬと言っただろう」
「だって扉間さま…お好きでしょう…?」

口から出して上目使いにそう言うと、扉間さまは呆れたように顔を綻ばせた。反論できない自分に対する自嘲の笑みだろうか。しかしそんな笑顔ですら様になるのだから扉間さまはずるい。うっかり見惚れてしまった浮つく自分を振り払うかのように、再び彼のそれを口に含み快楽を差し上げることに専念する。

思いっきり伸ばした舌で裏側をじっとり舐め上げる。時折彼を煽るように舌を這わせたままその顔を見上げると、堪えるように軽く歯を食いしばる姿が目に入る。扉間さまは私の恥ずかしかる姿が堪らないと言ったけど、それなら私は扉間さまの悦ぶ姿が堪らなく好きだ。もちろん彼は快楽で大きな声を上げたり顔を大胆に歪ませることはないが、そんな扉間さまの口からたまに零れる吐息や、眉間による皺があまりにも愛おしい。その姿を見るだけで下半身が疼いてしまうんだから、私も淫らな女になってしまったものだ。

障子紙から透けて降り注ぐ朝日のせいか、二人の身体は尚更熱を帯びていく。屋敷の者たちが起きていてもおかしくない時間でありながら、いつにも増して濃密なまぐわいを行うその背徳感が私たちを煽るのだろう。

「もういい」
「…良いのですか?」
「我慢ならん。挿れさせてくれ」

包み隠さず伝えられた扉間さまの言葉に下半身がじんじんとしびれる。興奮のあまり荒くなる呼吸をどうにか隠そうとしながら、彼の身体にすがりつく。優しく数回頭を撫でられた後、その大きな手で肩を持たれ、布団にうつぶせの状態で倒された。敷布団のひんやりとした感触に頭の熱を冷まし、されるがままに身体を動かす。腰を高く持ち上げられ下半身を支えるようにひざをつけば、いよいよ迫る歓喜の時を待ちきれず胸が高鳴る。まだかまだかと眩暈を感じながら待ちわびると、彼の指でも性器でもない何か違うものが割れ目に宛がわれた。温かくて、ざらざらとしていながらもぬめって……ん?

「と、とびらまさま…ひゃっ」
「そのまま…動くなよ」

てっきりすぐに挿入されるのかと思っていたので、予想外の舌での愛撫に口から大きな喘ぎ声がこぼれた。今この時間では誰に聞かれるかもわからない。慌てて口元を手で押さえ声が漏れぬようにするが、扉間さまは舐陰をやめるつもりはないようだ。下から上へじっとりと舐め上げる、先ほど私が扉間さまにして差し上げた愛撫を彷彿とさせる舐り方に、快楽はどんどん湧きあがってくる。扉間さまが私の股ぐらに顔を押し当てているのだと思うと居ても立ってもいられない。羞恥のあまり目に涙を滲ませるが、ぴちゃぴちゃと水っ気の多い音は容赦なく部屋に響いていた。わたしの尻に食い込む彼の指が熱い。

「俺のを舐めていただけの割には随分な濡れ方だな」
「…言わないでください…」
「相変わらず淫らな奴だ…そんなところも愛おしいが」

扉間さまから愛の言葉を頂いた気がするが、もはや素直に喜べるような余裕は私にはなかった。だいたいそんなとこを舐められるだなんて、女からしてみれば気が気じゃない。指でなぞられるのとは比べものにならない快感だけど…恥ずかし過ぎて善がってる場合じゃないもの。早く先へ進みたい。扉間さまのそれで愛してほしい。恥を忍んで密やかに「早くいれて…」と呟いてみる。扉間さまがそこから口を離す気配を感じて、こっそり安堵のため息をついた。

「挿れるぞ」

彼の待望の台詞に、はやる気持ちを抑えて静かに頷く。扉間さまの手が腰に添えられるだけで不自由になる呼吸。蜜口に宛がわれたその先端の熱さに興奮を覚えて、枕を握る手に力を込めるが、彼はなかなか挿れてこようとしない。割れ目に挿し込み、なぞるように上下へ動かすだけ。お互いの体液で滑るようにうごめいて確かに気持ちいい…けど。焦らされることに限界を感じていた私は、すがる様な声音で扉間さまの名前を呼び懇願する。ククっと背後から聞こえる彼の笑い声に頬を膨らませた。

「もう…!」
「すまんな」

その台詞のすぐ後に、蜜口へ押し当てるような力強さを感じる。ついに、やっと。だんだんと中を押し広げられていく僅かな痛みを深呼吸で紛らわせながら、愛おしい旦那さまを受け入れる喜びに身体を震わす。やがて奥まで彼の性器が収まり、扉間さまは私に覆いかぶさるように背中に肌を重ねた。背後からのしかかる彼の重みですら愛おしくて、自然と彼のそれを締め付けてしまう。

「大丈夫か…?」
「……はい」
「動くぞ」

ついにはやる気持ちも自制できなくなり、飢えたように大きく頭を縦に振れば、すぐに扉間さまは腰をぶつけてくる。いつの間にか痛みはどこかへ消え去り、ただ目を閉じながら下半身の感覚に集中する。貪欲な速さで扉間さまが腰を動かす度に、肌と肌がぶつかる乾いた音と、お互いの粘っこい体液が絡み合う粘着質な音が耳を刺激した。男根の硬くふくれた先端で奥を突き上げられるその快楽は、気が狂いそうな程のものだ。揺さぶられる身体にうまく呼吸ができず口を開けるが、呑み込みきれなかった涎が端からこぼれて布団を汚していく。扉間さまの動きに合わせて喉から飛び出してくる母音の喘ぎ声。抑えなくてはと頭で理解しつつも、開いた口から勝手に漏れてしまうのだからしょうがない。

「…は、…コマチ…っ」

彼の口から私の名前が紡がれた瞬間、とてつもない快楽が背筋を震わす。冷静さを孕んだいつものそれとは違う、熱の籠った艶やかな声だけで気を遣りそうになってしまう。まだ終わりには早いと全身に力を込めなんとか持ちこたえるが、その拍子に男根を締め付けたのが扉間さまを煽ったのか、彼は尚更腰の動きを早くした。孔内の奥にある硬いところを執拗に力強く責められる。体勢的にも息がし辛く、酸欠なのかだんだんと頭がぼんやりしてきた。このままではあっという間に達してしまう。それはいや。もっともっと扉間さまの欲情を感じたい、まぐわっていたい。

「あ、ぁ、や、扉間さま…体勢を…!」

何とか喘ぎ声を押さえつけて言葉を発する。勢いは静まったものの未だゆるく腰を動かす扉間さまが「何だ」と呟いた。後背位は嫌いではない。まさに動物同士のまぐわいと言うか、本能的に求められる気がして確かにときめ……ひゃ、あぁん、なな、なんで話してる最中に背中舐めたりするんですか扉間さまっ!

「んうぅ」
「…それで…?」

真面目に私の話を聞く気が彼にあるのかは謎だが、いつだってされるがままなのだからこちらの意見だって取り入れてほしい。動きが緩まった今のうちにと、肘と腕で上半身を支える。圧迫感のなくなった胸元で何度か深呼吸を繰り返している間も扉間さまの吐息が背中を掠めた。

「あの、…っ」
「…」
「……抱っこ、して欲しい…です」

恥を忍んで精一杯の甘えた声で呟いてみる。私と扉間さまとの間における暗黙の了解だが、わたしの言う「抱っこ」とはつまり対面座位のことである。彼に愛してもらえるのには変わりないのだから後背位も好きなのだが、なによりも顔が見えないのが難点。折角愛しい愛しい旦那さまと二人っきりで居られるのだから、少しでも長くその顔を見つめていたい。一つでも多く濃厚な口付けをして欲しい。息が絶え絶えで全部を伝えることはできなかったが、扉間さまなら私の意図を悟ってくれるはず。そんな期待に胸躍らせながら彼の方へ顔を向けるため首に力を込めた。

…が、その時。

「うわ、わっ」

扉間さまのそれが引き抜かれたとすぐ同時に身体を持ち上げられる。彼の逞しい腕の力を感じながら、胡坐をかく足の上に乗せられた。

「こう言うことか」
「とびらまさま…んぅ」

私を食べてしまうかのように大きな口を開けて接吻を降らせる扉間さま。迷いなく入れ込まれた彼の舌に翻弄されながら、嬉しさのあまり涙を零す。私も扉間さまにありったけの愛を伝えたい。そう思う一心で、稚拙ながらも舌を絡ませてみた。お互いの唾液にまみれ滑る舌が擦れあうその感触ですら、今の私には毒だ。自制が効かなくなりそうな気がして早々と口を離すが、顔を下に向けた拍子に目に飛び込んできたのは、扉間さまの屹立する性器だった。大きく、そして硬くなって天の指すそれを、生唾を飲みながら凝視する。何かに濡れてぬらぬらといやらしげに光る男根。その「何か」こそ、私の下半身からあふれ出た愛液なのだという事実に、背筋がぞくぞくと震える心地だった。

「何を見ておるのだ」
「え、そ…そんな、別に」
「淫乱な目つきよ…」

彼のそれを目の当たりにして、余計に下半身をしびれさせる私は紛れもなく淫乱だ。反論も出来ず、顔を火照らせて押し黙る。このままでは尚更彼にいじわるされるだけだと思い至った私は、なけなしの力を込めて膝立ちになる。彼の酷く熱いそれに軽く手を添え、位置を調節しながら腰を動かせば、尻に再び扉間さまの手が宛がわれた。私の身体を支えるような手つきに恥らいながら、唇を噛みしめ腰を下ろす。

「は、あぁ、」
「…っ」

二度目の挿入はいとも簡単で、あっと言う間に根元まで咥え終えてしまう。興奮で上がる息をなんとか深呼吸で紛らわせながら、扉間さまの顔を見つめた。じっとりと絡みつくような彼の視線は、普段では絶対に見ることのできない、卑猥な光が灯っている。先刻までは旦那様の顔を見ていたいとばかり思っていたが、いざこういう状況になってみると恥ずかしさのあまりとても見れたもんじゃない。ぎこちなく顔を背けながら腰を持ち上げてみるが、どうにも身体にうまく力が入らなくて。

「俺にしっかり掴まっていろ」

そう言うや否や私の腰を鷲掴んだ扉間さまは、その手で持ち上げるように私を揺さぶり始めた。自然と行われるピストン運動に、閉じた口からあっけなく吐息混じりの声が漏れだす。私は足も腕も扉間さまの身体に絡めて、快楽のされるがままになるだけだった。絶妙な力加減と角度で、男根の先端が奥に擦り付けられる。その屹立が硬いところを突き上げる度に足がガクガクと無意識に震えた。僅かながらにも休憩をはさんだのだから大丈夫だろうと思っていたが、結局余裕なんてない。限界を感じ始めたわたしは扉間さまの胸元に手を置き、何も言わず視線だけで身体の状態を訴えた。

「…もう、か?」

不敵に口元を歪ませながら微笑む扉間さま。それをいじわるだ、と責め立てる余裕はとっくに無く、恥も何もかも忘れてがむしゃらに首を縦に振った。そんな私の様子を目に収めた彼は腰を掴む手に尚更の力を込め、素早く激しく私の身体を動かす。どうしよもなくなって扉間さまの首元に顔を埋めてみるとふんわりと匂う雄の汗の香り。媚薬のように私の気を狂わせるそれがもっと欲しくなって舌で舐めてみれば、そのしょっぱさに興奮で眩暈がした。扉間さまの、汗。それすら愛おしくてたまらない。

それからはと言うとあまりにも無我夢中で思考が保てるような状態ではなかった。腰に添えられた手の動きに合わせて私もひたすらに腰を振る。自分で自分のいいところに扉間さまの先端が擦れるように動いて、絶頂へと貪欲に突き進んだ。滅多にない扉間さまの荒立った呼吸を片耳で十分に堪能しながら、その身体にはしたなく涎を垂らす。意味もなくお互いがお互いの名前を情熱的に呼び合い貪る快楽。部屋に立ち込める大人だけの特別な雰囲気に、朝早い時間であることを忘れるほどだ。そしてついに、身体のどこか奥からせり上がってくる、得体のしれない感覚。

ああ、もう、くる。

そう思った瞬間には得体のしれないそれが身体の中で大きくはじけ、孔内を酷く淫らに痙攣させた。下半身のみならず指の先、そして頭の先までも快楽はいきわたり、全身が大きく震えてしまう。身体の中で循環しては行き場のない感覚がじれったくて、扉間さまの頭を抱えるように腕で包み、精一杯の力をこめた。銀灰色の髪の毛が私の指の隙間で輝く。私が絶頂を迎えたことに気づいたのか、扉間さまは尚いっそう腰の動きを激しくし、私の後を追うように中で性器をビクリと震わせた。合わせるように震える彼の背中に喜びを覚えながら、奥深くで温かい何かが広がるぼんやりとした感覚に吐息を零した。




「……コマチ、」

扉間さまに名前を呼ばれて、はっと我に返る。気を失っていたわけではないが余韻に溺れるあまり時間の感覚を失っていたようだ。彼に預けていた上半身に力を込め、改めて扉間さまと向かい合う。挿入前にしたものと同じような濃密な口付けを味わった後、唾液のにおいに目を眩ませながら深呼吸を繰り返す。扉間さまに私の全体重が乗るこの体勢は頭の冴えた今となると妙に申し訳なく思えて、ひとまず立ち上がらねばと足に力を込める。のだが。

「う…」
「…どうした?」
「ち、力が…」

激しいまぐわいのせいかどうにも足腰に力が入らず、立ち上がろうにも立ち上がれる状態でなくなってしまっていた。苦笑いを浮かべながら謝罪の言葉をつぶやくと、扉間さまは表情も変えず、すんなりとその腕で私の身体を持ち上げた。中からそれが抜かれる感触に若干の疼きを感じつつも、あっという間に布団に寝かせられる。少しの間の後、蜜口からとろりとこぼれてくる熱い液体。見なくたってそれがなんなのか分かる。と、とびらまさまの、精液、が…。どうにも慣れることのできないその感覚に私がどぎまぎと身を固まらせている一方で、扉間さまはじっと黙りつつ障子のほうを見ていた。

「如何なさいました…?」
「気配が」
「え!」

幸せな気分もすぐに散り消え、慌てて身体を起こす。背筋に嫌な汗が伝った。

「誰かが覗いていた、とか?」
「…否、気配は遠くだ。最中にこの部屋の近くで感じた気配はない」
「……なら、なぜ?」
「あえて言うなら嫌な予感…」
「…?」
「……まさかな…杞憂であろう」

独り言のようにそう呟いた後、扉間さまは私のすぐ傍で身体を横たえた。とりあえず彼の胸に手を置き、隙間もなく身を摺り寄せてみる。汗で湿ったお互いの肌と肌がぺたりとくっついた。気配がどうの杞憂がどうのなんてなかったかのように、また熱の籠った表情でわたしを真っ直ぐに見つめてくる旦那様。今さっきの台詞がどうにもうまく消化できない私は眉間にしわを寄せて身体を縮めるが、次の瞬間に胸元へ伸びてきた扉間さまの手により、あっという間に快楽の世界へ再び引きずりこまれてしまうのだった。




ちなみに。
一連の台詞の意味をようやく理解したのは数日後、二人っきりの寝室で「つかれまら」について尋ね、何も言おうとしない扉間さまに帯を解かれた時である。