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(100000Hits Thanks! 孔明さまへ)







すごくこわい顔をした、青い肌のでっかい男の人がテーブルに置くカレーライス。どうしよう、とっても良いにおいがする。ぐう、と鳴るお腹をおさえて今すぐ食べたいとは思うけれど目の前のサメみたいな男の人はやっぱり信用できない。

「…これ、オジサンが作ったんですか」
「あなた今の今までずっと台所に張りついててそれはないでしょう。当たり前じゃないですか」

そりゃ確かにこの人がそのゴツゴツした手で料理をするところを、私は見ていたけれど…こんな恐ろしいオジサンが、料理って。箸に手をつけずじっと料理を見つめ続けていると、となりから白くやわらかそうな手が伸びてくる。ふんわりと、お母さんと同じにおいがして自然と笑顔になってしまいそうだった。

「鬼鮫が作る料理、すっごく美味しいのよ。ほら」

あーんしてあげようか、と満面の笑みで聞いてくるその顔が、私の知ってる、シワでくしゃくしゃのあのおばあちゃんの笑顔何ひとつ違わなくて、たまらないほどのその懐かしさに思わず甘えたくなった。でも私もう11歳、だし。うなずきかけたところですごく恥ずかしくなって慌てて首を振ると、その女の人はまゆ毛を八の字にして残念と苦笑いを浮かべた。

「なんて言うか、可愛げのないところはイタチさん似ですねェ」
「ふふ、そうかな」
「お顔はコマチさんに似てお綺麗なのに…実に惜しい」

そう言われて照れたようにはにかむ女の人。髪の毛はちょっとぴょんぴょんしててお肌はまあお化粧でごまかしてるんだろうなって感じで、だけど、目はまぶしいほどキラキラとかがやいている、キレイな人。そして何よりも驚くことに、この人は私のお母さんのお母さん、つまりおばあちゃんなんだ。目の前で微笑むおばあちゃんは私のお母さんよりもずっと若いようで、それってなんか、すごく変な感じがする。



おばあちゃんに会いたいおばあちゃんに会いたいと、布団の中で一生懸命おいのりしたせいなのか何なのかはしらない。けれど私はお昼寝から目をさましたらうす暗い部屋の中にぽつり横たわっていて、女の人と長い黒髪の男の人が少し離れたところで目をまんまるにしてわたしを見ていた。何が起こったのかはさっぱりだったけど、それだけは一目でわかってしまったんだ。目の前にいる人たちは、家んちの寝室にこっそりとかざられた、男の人と女の人が寄りそい合う写真の、あの二人なんだと。

(これはね、若い時のおばあちゃんと、おじいちゃんだよ)

しわくちゃの顔で目を細めて教えてくれたおばあちゃんの幸せそうな笑顔をよく覚えてる。おばあちゃんがそんな顔をするもんだから私ってばすごく興味深々で、だれもいない時にこっそり手に取っては写真の二人に思いを寄せていたの。ああ、今目の前にいるのは若い時のおばあちゃんとおじいちゃんなんだ。だけど、何でかな。あんなにも思いをはせていたはずのご対面の瞬間なのに、わたしはちっともうれしくなくてむしろ得体の知れない恐怖で体がゾクゾクとした。

夢かもしれないとは思いつつも、いったい何が起こったのか全然理解できなかった。金魚のようにまぬけに口をパクパクさせていると、あっという間に身体をしばり上げられて身動きはとれなくなっちゃうし、こわそうな大人がいっぱいいるところに連れてかれてしつこいくらい質問ばっかりされるし。質問したいのはこっちだよ!と大声を出して、それから精一杯、わたしは未来から来た、おばあちゃんの孫なんだと説明した。口をあんぐり開けるおばあちゃんとおじいちゃんと知らない人たちに必死にうったえかけたおかげで、今は監視つきってことでなんとか動き回れるようになっていくらか気は晴れたけど、でも、本当は心細くてしょうがない。

確かにおばあちゃんに会いたいと思ってはいたけど、今目の前にいるのは私の知らないうーんと昔のおばあちゃんで、いくら同じ人だと分かってはいてもこうなってはもはや他人みたいなものだ。おばあちゃん以外の人はなんて言うか、とてもとても人じゃないような怖そうな人たちばっかりだし、私は箸をにぎりしめながら早く帰りたい、お母さんに会いたいと一生懸命願った。



美味しいそうなご飯は確かにおいしくて、膨れたお腹にひとまず満足しながら大して明かりもない廊下をおばあちゃんと歩く。なんでおばあちゃんはこんなうす気味悪いところに暮らしてるんだろうと前も見ずキョロキョロしていると、手にも口があるちょんまげのおにいさんから声をかけられた。ただただ怖くて何もいわず縮こまっていると、おばあちゃんは笑顔でお兄さんに断りを入れて、つないだその手で私を引っ張ってくれた。おばあちゃんってけっこう怖いもの知らずなんだなあ。そしておばあちゃんに連れられたのは、わたしがはじめに横たわっていた部屋。私たちが部屋に入ると、ベッドに座り巻物を読んでいた男の人…おじいちゃんは顔を上げ微笑む。そのきれいな顔に何故だかドキドキしてしまって、照れ隠しにそっぽを向きおばあちゃんの手を力強く握った。

「鬼鮫の飯は美味しかっただろう?」

上手く声が出なくて無言のままうなずく。おばあちゃんと一緒にベッドにこしかけた。

「鬼鮫がね、無愛想なところはイタチさん似ですねえ、だって」
「俺のことはともかく、この子のことまで悪く言われるのはいい気がしないな」

そう言ってひかえめに笑いあうおばあちゃんとおじいちゃんの姿はあの写真の様子そのまんまだ。未だ私の手を握りしめたままのおばあちゃんの手が少し熱くなったのに気づいて見上げると、おばあちゃんはとんでもなく優しい眼差しでおじいちゃんを見つめている。そして次におじいちゃんを見上げればおじいちゃんも同じようにとんでもなく優しい眼差しでおばあちゃんを見ているのだ。うわあうわあ!たぶん二人ともすっごくラブラブなんだなあ、と思うとお尻の辺りがたまらずムズムズとくすぐったい。

「アカデミーには通ってるの?」
「…うん」
「どこの里のアカデミーだ?」
「あ、えと、木の葉の里です」
「…」
「そうか…木の葉に戻ることができたのか…」

私の言葉に急に引きしまる二人の顔。訳ありげな二人の様子に私は頭をかしげるしかないけど、そう言えばおばあちゃんは昔のことを全然教えてくれなかったことを思い出した。なんど聞いてもやわらかく笑ってごまかすだけで私はいつも残念に思っていたけれど、これは、ついに過去を知れるチャンスなのかもしれない。

「あ、あの!」
「なあに?」
「わたし、おじいちゃんはお母さんが生まれてすぐに死んじゃったってのをお母さん教えてもらっただけで、その、昔のことぜんぜん知らなくて、」
「…」
「二人は、忍者なんですか?何か、あったんですか…?」

二人は何も答えてくれなかった。少し間があったあとおばあちゃんは鼻をすすり、手を目元へとやる。よくよく見るとそれは涙をぬぐう動作でわたしは心臓がとまるほどびっくりしてしまった、おばあちゃんが…泣いてる。
ああ!おじいちゃんが死んだということを言ってしまったのはまずかったんだ…!必死に泣き止もうとしているおばあちゃんの姿に、後悔はするもののどうしようもない。ティッシュそうだティッシュだとあたふたしてまわりを見渡し、立ち上がろうとすると私の手を握るおばあちゃんの手に力が入る。いかないで、とも言うようなその力に私はもう一度おばあちゃんを見上げると、おばあちゃんは涙目でにへらと笑みを浮かべた。

「ごめんね、大丈夫だから」

その言葉に私もあわてて謝る。ごめんなさい、と二度目に口に出した瞬間、頭にあたたかな重みを感じそちらを向けばおじいちゃんが寂しそうにほほえみながらの頭をなでていた。お父さんに頭をなでなでされるときと一緒でとってもあったかくて、でも何だか違う、ふしぎな安心感だ。

「あのね、実はね」
「…うん」
「今わたしのお腹の中には、あなたのお母さんがいるの」

うそ。にわかには信じられなくて身動きもせず固まっていると、おばあちゃんはいたずらっぽく笑って私の手を取り、そのお腹にあてがった。服の上からじゃ全然わからなかったけど、少しふくれたお腹にハッとして思わず手を引っ込めた。へ、へんなの。私はもう11歳なのに私のお母さんはまだ生まれてきてすらいなくて、今はおばあちゃんのお腹の中にいるなんて。あまりのことに口を閉じるのも忘れてポカンとしたまんまだったけど、そのうちお母さんのあの言葉を思い出して、おじいちゃんの服をぎゅっとにぎった。

「じゃあおじいちゃんは、もうすぐ死んじゃうの…?」

何も言おうとしないおじいちゃんの視線の先を恐る恐るたどれば机におかれたたくさんの薬。そしてすぐに私に視線をうつしおじいちゃんは目を細めて何も言わずうなずいた。とたんに胸が苦しいくらい締めつけられる心地がして鼻のおくがツンとなる。つい数時間前に始めて会ったばかりだけど、でも。そりゃさっきは早く帰りたいとか、おじいちゃんもおばあちゃんもしょせん他人で知らない人だと思ってはいたけれど。とんでもない事実を知らされた後とは思えないような、すごくおだやかなその顔。なんか寂しいよ、そんなのイヤだよおじいちゃん。

「だから、このおじいちゃんに一つだけ教えてくれないか」
「…」
「未来の世界は、…平和か?」

おじいちゃんは私を軽々持ち上げて自分のひざに乗せた。わたしはもう小さい子供じゃないから、ひざにのせるにはきっとだいぶ重たいだろうけど、…心地よい。お父さんに昔だっこされたような懐かしいその温もりに私は少し目をふせて口を閉じた後、ゆっくり息を吸う。おじいちゃんはおばあちゃんのこととか、お腹の中のお母さんのことを聞いたわけではない。ただ、世界が平和かどうか聞いたのだ。少しずれたようなおじいちゃんの質問に見上げると、まっすぐつき刺さるようなおじいちゃんの視線。並々じゃあないその真剣さにその意味を少し考えてから、私は口のはじをあげた。

「あのね、アカデミーの授業でならったみたいな戦争は全然なくて、他の里の人たちともすっごく仲良いんだよ。今は中忍試験の時期だから、里中いろんな額宛つけた人たちで騒がしくてなんだかおもしろいんだあ。アカデミーだとたまに休み時間にケンカしてる男子とかいるけど、でも、友だちも先生もみんないっつもニコニコしてるの」
「…そうか」
「火影さまもいっつも笑ってるんだ。そうそう、火影さまって変なおじいちゃんなの、いっつもね、だってばよー、って言うんだよ」
「ふふ、そっかあ」

火影さまの話をしたとたんおかしくてたまらないように笑い始めるおばあちゃんと、優しい笑みを浮かべたまま、ただ遠くを見つめるような眼差しのおじいちゃん。おじいちゃんの身体へ少しだけ身体をかたむけると、おばあちゃんとおんなじ匂いがして、ふしぎと落ち着いた気持ちになる。もっともっと二人に未来のことを、わたしのことを知って欲しいと心から思った。

「それでね、わたし、成績良くてクラスでトップなんだ!分身の術だって変化の術だって出来るんだよ。目を赤くすることもできるの…えと、シャリンガン、だっけ?おばあちゃんもお母さんもできないんだって!でも人に知られたら駄目だから、使っちゃだめっておばあちゃんが言うんだあ」
「イタチ!隔世遺伝だ!すごいすごい!」

二人は本当に楽しそうに私の話をきいてくれるので、とてもいい気分だった。こっそり写真を眺めてまであこがれ続けた、わかき日の写真の二人。夢にまで見た瞬間がいまこの時なんだと思うと胸がいっぱいでいっぱいで幸せだ。うす暗くてジメジメした部屋の中だけど、そんなのも吹き飛んじゃうくらいおばあちゃんとおじいちゃんはあったかい。おじいちゃんのひざの上で、おばあちゃんの手を握る。わたしはもうおっきいから誰かが見たらへんな光景かもしれないけど、どうしよもなく幸せにみちあふれた私は、上機嫌で未来のことを話しつづける。おばあちゃんとおじいちゃんと、わたしの3人。あ、いや、おばあちゃんのお腹の中にお母さんもいるから4人かな。もっともっとみんなと、こうやってお話出来れば、と願わずにはいられないんだ。



うああ。

そう願ったとたんにこんなことになるなんて、神さまはホントにいじわるだと思うの。今までに経験したことがないようなひどいめまいが急にして、身体からがくんと力が抜けてしまった。おじいちゃんに身体を支えられたけれど頭がぐるんぐるんしてて、しだいにまぶたが重くなってくる。わたしの顔をのぞき込むおばあちゃんが、私の知ってるしわくちゃのおばあちゃんの姿とダブった瞬間、わたしはしょうがないので未来へもどる覚悟を決めた。おばあちゃんおじいちゃん。おばあちゃんは目になみだを浮かべて泣きそうな顔になった後、満面の笑みを浮かべる。泣きそうなのを我慢しての笑顔のせいで、顔は引きつってるし口元はゆがんでるしでお世辞にもキレイと言えるような笑顔じゃなかったけど、それでも私にとってはキラキラとまぶしい笑顔だった。ほんとにほんのちょっとの時間だったけど、会えてほんとうに、よかった。

「また後で、会おうね」

おばあちゃんのなみだが私のほっぺに落ちたその時、おばあちゃんがそう言った、…気がした。うん、また後で会おうよおばあちゃん。だから未来にもどったら、


お母さんとお父さんといっしょに、おばあちゃんのお墓に、会いに行くね。