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うちはイタチさんへ

拝啓 初夏の風に肌も汗ばむ季節となり、陽の光も尚一層と青くなってまいりました今日この頃…なんちゃって。
どう書きはじめたら良いかわからなくって、ちょっとふざけてしまいました。
こんな堅苦しい書きはじめですが、堅苦しい用件とかそんなんじゃないんですよ。何を書こうとか実はしっかりと考えてなくて、でも今日はあなたの誕生日でしょう。あなたのことを思い出して恋しくて恋しくてたまらない今日なので、手紙を書こうと思いました。どうしてもあなたへ手紙を書きたくて、ただただ文字を書くのです。
支離滅裂で大層見苦しい手紙かと思いますが、どうかわたしの思いを綴らせてください。

あなたがこの里を去って、いつの間にか随分と時間が経ってしまいました。ありきたりな台詞ですが、今思い返せばあっという間だったかもしれません。
ああでもすごくすごく辛かった。あなたのことを恋しく思い、憎く思い、毎晩布団の中で歯を食いしばって泣くのです。なんで涙が溢れるのかもわからなくて、しかしそれを堰き止めることもできず歯を食いしばって泣くのです。
あなたに、イタチにこの気持ちがわかるでしょうか。わたしばかりいつまでもこんな気持ちでいるのでしょうか。イタチにもこの苦しい気持ちが伝われば良いのに。イタチも苦しめば良いのに。あ、いや、いやいや。こんな嫌味を言うために手紙を書いたんじゃなかったわ。

そうそう。イタチは初めて二人っきりで出かけたデートを覚えていますか。
アカデミーを先に卒業したあなたから突然「今月空いてる日あるか?」なんて声をかけられたもんだから、私は早々と新しい恋の予感を感じて胸を高鳴らせたのです。
デート当日。公園の入り口に立つあなたを見つけて、妙に新鮮な不思議な気分を感じたのを覚えています。桜、きれいでしたね。「来年も再来年もそのまたずーと先もイタチと二人で桜を見にこれたら良いなあ」と、少女マンガのようにロマンチックで幼稚な、そして今となってはもう叶わぬことを願った私はまだまだお子様でした。
ご飯を食べた後、イタチと本屋さんに行ったわ。忍者史のこと、偉大な忍のこと、本を手に取りながら珍しくも熱く語るあなたの姿にドキドキしたのは決して忘れません。思えばあの時初めて、あなたに恋をしたのかもしれませんね。

そう。あれから何度も二人きりのデートを重ねて、ついにデートの帰りに告白されて、付き合い始めた私達。
イタチのことが本当に大好きで、いつだってあなたに会いたかった。わがままを言っても嫌な顔一つせず、優しく微笑み私のことを受け入れてくれましたね。落ち込む私に何も言わないでただ隣で一緒にいてくれたの、嬉しかった。喧嘩したのだって今思えば大切な、幸せな思い出なのです。

えっと、そうだ、そうそう。最後のデート。今でもよく布団の中で思い出します。
あなたの任務が終わって夕方、うちは邸の前で待ち合わせ。里の川辺でひらかれたお祭りへ行きました。
左手にあなたの手を握って、歩きながら甘くすっぱいあんず飴を食べた。お祭りに集まるたくさんの人々のせいで、いい年にもなって迷子になりかけたのは、今となっては良い思い出かもしれません。一通りお祭りを堪能した後、会場から離れて丘にのぼり、きらきらと輝くお祭り会場を二人座って遠くから眺めたのを覚えています。沢山の青い光が暗闇の中を儚く光る様はとても綺麗で幻想的で、一時間もそんな様子を二人ただただ眺めていたのです。
あの時ね、本当は恋人らしく肩を抱いたりとかしてほしかったんだ。友達が、彼氏に肩を抱かれながら夜景を見たの!と自慢してたのが羨ましくて、私たちもそんな感じにならないかしらと願ったりしました。シャイなイタチのことだからまあ叶わなかったわけですが。
帰り道、二人で暗がりの道を他愛もないことをしゃべりながらゆっくり歩きました。少し肌寒い中私は体を縮こませて、そっとばれないように歩きながらあなたに身を寄せたのです。あれ、ばれてたかなあ。
私の家の前に着き、二人して向かい合う。イタチとのお別れに少し切なくなる私に、「またな」とどこか寂しそうにイタチは言ったの。
「またな」…なんてさあ。それから6日後にあなたは里からいなくなってしまったのだから、「また」あなたと会うことはないはずなのに。なんであの時「また」なんて言ったのよ、イタチのバカ。バカバカ。

嗚呼わたしはあなたを恨んでいるのかもしれません。こうやってあなたに宛てる手紙を書くとどうしても嫌味が含まれてしまうのです。そんなつもりはなかったのになあ。

ここまで書いたことを読み直してみると、うん、本当に宣言通り支離滅裂な文章ですねこりゃ。
下書きも一切しないでただ思いついたことを書いてるだけだから当たり前なのだけれど、でもこれはこれでわたしらしさがよくにじみ出てると思うんです。
だからこれでいいんです。
知的で利口なあなたが読んだら、こんな稚拙な文章、笑うのでしょうね。

そんな最悪の類に入るこのお手紙ですが、そろそろ書くのにも疲れてきちゃいました。明日は早くから任務だし、何より手が痛い。
そろそろ締めくくりにしなくちゃいけません。

恋人が里を抜けたと知ったあの日、私は久しぶりに思いっきり声を出して、赤ん坊のように泣き喚きました。だってイタチのことが大好きだったの。ううん、今でも大好き。心から好き。正直今だってすごくすごく辛い。わたし、あれからずっと立ち直れてない。
早くあなたと過ごした日々忘れてしまいたいと思う一方で、あの幸せだった日々を忘れたくないと、駄々をこねる自分がいます。変ですね。
本当はね、今すぐあなたに逢いたい。逢って、とりあえずまあ平手打ちをしてさんざん嫌味を言った後、あなたの温かな身体を思いっきり抱きしめたい。
でもわたしってばあなたが暁のメンバーになったってことくらいしか知らなくて、あなたがどこにいるのかすら知らないのです。手紙を出そうにも出せるわけがない。それすらも叶わない。でもどうしてもこの思いをあなたに伝えたくてしょうがなかった。
だから今こうして、馬鹿げているとは身に沁みつつも、涙をひたすらに流しながらあなたに宛てるつもりで手紙を書いているのです。もちろん送れるはずがないので、書き終わったあとは…引き出しの奥にでも、誰にも見られないようにそっとしまっておきます。

えっと。あなたに伝えたいこと…あなたに伝えたいこと…。
ううんと、イタチと一緒に、また桜、見に行きたいです。イタチと一緒に甘味処にまた行きたいです。またイタチとちゅーがしたい。またデートがしたい。一緒にいたい。隣を歩きたい。
今日だってあなたの誕生日、一緒に祝いたかったです。

イタチに伝えたいことはいっぱいあるんだけど、どうにもうまく文字にできないや。

私と付き合ってくれてありがとう。いつでも里に戻ってきてね。わたし待ってます。
ちゃんと三食ご飯食べなきゃダメだよ。睡眠もちゃんととってね。無理はしすぎないでね。

どうかお体にお気をつけください。
さようなら。けいぐ。

コマチより


ついしん。お誕生日おめでとう。