(10000Hits Thanks! ミツさまへ) (コマチ、結婚しよう) (へ?) (だから、俺と結婚してくれ) 馬鹿みたい。あの時左手の薬指に嵌められた指輪は13歳の私たちに相応しい安っぽいものだった。それでもあの時の私は酷く喜んで毎日毎日欠かすことなく薬指に嵌めていた。もちろん13歳だった私たちが本当に結婚できるはずもない。ただ約束をして、結婚指輪ともいえないような質素な指輪をもらって。しかし私は将来イタチと結婚するのだと、このまま二人で一緒に大人になれるのだと信じてやまなかった。 「何しに、来たの?」 「さあな」 背も髪も伸びたんだね。8年前の彼の姿を頭に浮かべて今の彼と比べていると、イタチは私の部屋のベッドに静かに腰を下ろした。…少し、やせたかな。焦る気持ちを抑えようと必死に唇をかみしめる。今は何もつけていない左手の薬指を反対の手でそっと触れる、微かに震えているのがわかった。 「指輪、してないんだな」 「あ、たり前じゃん。犯罪者といつまでも婚約気分で浮かれてるほど馬鹿じゃない」 「俺もつけてないよ」 ほら、とかざし左手には確かに指輪はつけてなかった。たださっきちらっと見えた右手の薬指には、見知らぬ指輪があった。…ほかの誰かさんとの婚約指輪?まさかね。私は警戒を解くことなく、右手でクナイを握りしめたまま深呼吸を繰り返す。ドキドキとうるさく鳴る胸の鼓動と緊張であがった私の息の音だけが部屋に響いてるようで不愉快である。 イタチが里を抜けてすぐに、私は指輪をはずした。始めのうちは信じられずにわんわん泣きわめくだけだったが、日が経ち落ち着きと共に私の心にあふれたのは憎しみだった。どうしよもなく腹が立って指輪を思いっきり床に叩きつけた。壁にも叩きつけた。足で踏んでやったりもした。それなのに、さあ捨てようとなるとどうしても捨てることは出来なくて、一度ゴミ箱に投げ入れてはゴミを漁り拾い上げて、川に落とし捨てようとすれば身体が言うことを聞かない。 指輪を見る度にイタチのことが思い出されてたまらなく辛いはずのに、なんと女々しいことか、指輪を捨てて思い出を無きものにすることでさえ出来なかった。 「指輪は捨てたのか?」 今もズボンの右ポケットに入ってる、なんて言えるわけもなくて私は大声で「捨てちゃったよずっと前に!」と怒鳴り散らした。今まで我慢してたものが怒鳴り声とともにあふれてきて涙がこぼれそうになるのを必死にこらえる。泣くもんか、弱みをみせるもんか。もう私は8年前の私じゃないのイタチなんかがいなくたって一人で頑張れるしもう上忍だしそのうちイタチよりカッコいい男のひと見つけてその人と結婚するんだから! と、イタチの気配が消えた。突然現れて襲われるかもしれない、と気を張りつめ直し静かに身構える。カラン。何故か右手のクナイが私の手から滑り落ちた。部屋に響く乾いた落下音に視線を床にやれば、途端に左手をとらえられる。しまった。 「コマチ、結婚しよう」 このままきっと殺されるんだと覚悟した私に降り注いだのはイタチの慈悲深い声。慌ててイタチに目をやればふんわりと柔らに笑い、私の左手に指輪をはめようとしているところだった。その指輪はあの時の指輪で、8年前よりもいくらか色が剥げたようで、私がひとつ持っているということはそれはイタチが持っていたほうの指輪で。 腰が抜けるとともに涙がこぼれる。喜びたいのか怒りたいのかわからずに、ただただ涙を流し続けていると、イタチが私の前にそっとしゃがみこみ触れるだけのキスをしてきた。久しぶりのイタチの唇の温かさに目を閉じると、幸せになれよ、と幻とも現実ともつかないような儚げなイタチの声がぼんやりと部屋に響いた。 エンゲージリングはきっとあなたの愛 (目が覚めると、イタチはいなかった) (夢かと疑ったが、確かに左手の薬指にあるイタチの愛に私は、) |