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(ヤマト隊長の背中に、爪跡がついてたってばよ)

ニシシといたずらっぽい笑顔を浮かべながら私に耳打ちしてきたお昼のナルトの言葉を思い出す。正直焦った。だって、私とヤマト隊長がそういう仲であることをナルトが知ってるはずないもの。とりあえず咄嗟に驚いたフリをしたは良いが、もちろん内心ヒヤヒヤ。結局のところナルトは、ヤマト隊長と一緒に着替えた時たまたま発見したことを、本当に何も知らないで単純におもしろいネタとして私に言いふらしていただけなのだったが。まさか爪痕をつけた張本人が私だなんて、ナルトは夢にも思ってないんだろうなあ。

「本当にどうしようかと思ったんですから」
「でも、ナルトは全然気づいてないんだろう?」
「一応は、」

ヤマト隊長の腕の中で目を瞑りながら、はあとため息をついてみた。彼がそんな私を慰めるかのようにポンポンと背中をさすってくれるのが心地よくて、目を開けるのが億劫だとぼんやり思う。静かに彼の背中に腕を回し、この前つけた爪跡のあたりにツツッと指を滑らせば、隊長はくすぐったいとクスクス笑っていた。

「それにしてもナルトったら本当に楽しそうな顔してたんですよ」
「なんでだろうね」
「だってヤマト隊長って真面目一筋で浮ついた噂なんてなさそうですもん。そんな隊長が女の人と寝たとなったら、そりゃあもう」
「僕だって、立派な男なのに」

楽しそうな笑い声が聞こえてきたかと思うと、いきなり唇を奪われる。ちゅっちゅっと啄ばむような柔らかいキスに触れ合う唇がしだいに熱くなった。唇を合わせている間も絶え間なく私を包むヤマト隊長の香りを胸いっぱいに吸い込んで彼の舌に応える。ああもう、どうしよ。すごく幸せだわたし、と彼の背中に回す手に力が入ってしまう。

「じゃあナルトの前で思いっきりイチャイチャしちゃいましょうか」
「僕は別に良いけど、コマチが良いのかい?」
「…冗談ですー」

結局いつもヤマト隊長のほうが一枚上手なのが少し悔しくて、ちょっといたずらしてみようと思った。彼の腕の中で胸を押し返して、どさり。つまり私が彼を押し倒して上に乗っかっている状態だ。隊長は私の下で驚いたように目を見開いていて、自然と優越感が込み上げる。しかし。してっやたり、と鼻を鳴らす私だったが、別にこれから隊長を襲おうだなんて大それたことはもちろん考えていなくて。こ、これからどうしよう…。不自然に笑みを凍らせて一向に次の行動を起こさない私にしびれを切らしたのか、ヤマト隊長はニヤリと任務中に見せないような怪しい笑みを浮かべた。

「なんだ、コマチからしてくれるのかと思って楽しみにしてたのに」

どさりと、いとも簡単に形勢逆転。
不思議ですね隊長、そんないじわるな隊長に押し倒されると初めてあなたとひとつになったあの時みたいにドキドキしちゃうんですよ。次第に近づいてくるヤマト隊長の顔にそっと目を閉じるのに、胸の鼓動がどうにもうるさい。途端に静まり返った部屋の中で彼のキスを待つ時間は酷く長いように感じた。どうやら今度は私が待ちきれない番のようだ。小さく口を開いて、誰かに愛される喜びを存分に胸に満たす。

「テンゾウ、」




(彼の名前を呼んで愛に変わるのだ、と)