(もか様に捧げます) 「んふふーこのあんだんごすごーく甘テラス!」 「…お前、俺の天照を何だと思ってるんだ」 なんて言うイタチはもそもそと三色団子を頬張る、威厳なんて皆無ね。 私は最後の一口を口に含み、懐紙を口元に軽くあてた。 「ご馳走さま!おいしかったぁ」 「それは良かった」 ことの発端はお花見だった。 今年も清らかな色で咲き誇る桜を見上げては、イタチと一緒に見たいと願うものの、お互いあまりに多忙でもちろん予定が合うはずもなく。あっという間に桜の木は花を散らした。 (わかってる、わかってるけどさ) そもそも犯罪者の癖して恋人とお花見がしたいだなんて思ったのがいけない。 それでも毎日毎日少しずつ散っていく桜の花びらを見る度に、イタチへの愛しさが止めどなく溢れたのだ。そしてついに、久々にイタチに会った今日、たまらなくやるせない気持ちになり、大人げないとわかってはいるのに、私は拗ねてしまった。 (お菓子で餌付けされたけどね) ご機嫌を取ろうとしたイタチに連れて行かれた甘味処のお団子で、すっかり上機嫌になる私って本当に単純。 隣でそっと串を置くイタチを眺めながら、そんな自分に苦笑いを浮かべた。 「花見、すまなかったな」 「え、あ、私こそ拗ねちゃったりしてごめんなさい…」 別に約束してたわけじゃないんだからイタチは悪くないよ!焦ってそう口にすると、イタチはふわりと微笑む。途端に太ももの上に置いていた手に温もりが広がった。重ねられたイタチの手が嬉しくて何も言えなくなった私に、イタチは突然立ち上がる。 「いくぞコマチ」 「え」 私の手を握ったまま強引に歩み出すイタチ。彼が近くにいた店の人にお代を手渡しするのを後ろから眺め、ふと思う。もしかしたら、どこか素敵なところに連れていってくれるのかも。そう、まだ桜が咲いているところとか! なかなか粋なことをしてくれるじゃないかと緩む頬もそこそこに、素直にイタチに引きずられようと決意した瞬間、イタチがピタリと立ち止まった。 「あれ?」 桜はない。それどころか店を出て数歩歩いたすぐのところ。桜はどこ?とキョロキョロしていると、急にイタチに肩を抱かれビックリした。 「綺麗な牡丹の花だろ?」 「わあ!」 肩を抱くためにイタチが目の前からいなくなった瞬間、すぐに気づいた。桜よりもいくらか鮮やかな桃色で可憐に存在を主張する牡丹の花は、思わずため息をついてしまうほど綺麗で。 「桜はもう咲いてないから、代わりに牡丹ってこと?」 「…」 「えへへ」 埋め合わせとして代わりに、なんてなんとも有りがちな話だが、拗ねた恋人を気遣ってくれるその不器用な優しさも、こんなところに咲く牡丹の花を知っているその繊細さも、全部引っくるめて胸が痛くなるほどいとおしい。 あまりの美しさに惹き付けられたのだろうか、伸ばした手でゆっくりと牡丹の花びらに触れてから、甘えるようにイタチの肩に頭を預ける。 「俺は、牡丹の花が好きだ」 「私も好きだよ」 ふと、お互いに告白し合っているような錯覚に陥る。ちらりと隣を見てみれば、イタチも同じことを考えていたのかな、彼の顔が赤い。 2人で顔を見合わせてクスクス笑ってみせた。 桃色に彩った (桜と牡丹と、わたしたち) |