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笑いたくもなるさ、なんて俺は馬鹿なのかと。こんな生業をしていては死と隣り合わせであることなど解りきっている。死ぬのは明日か明後日か、いや、どんなに生き長らえても里に残した弟のために死ぬ運命だ。死ぬことに恐怖はない、ないはずなのに。お前といるとどうしてもその運命を紡ぎなおしたくなる。…なんて、恰好をつけてこんなことをしたところでその未来が確かなものになるわけではないのだが。

「イタチ…」

コマチは左手の薬指を見つめるその眼差しに十分潤いを含ませ、呟くように小さく俺の名を呼んだ。その慈しみを孕んだ声色が空気を震わせた瞬間、胸に溢れかえるような温かさ。思わず手を伸ばし、彼女の髪を撫でるように胸に抱いた。

コマチの誕生日だからと、柄にもなく随分意気込んだのは事実だ。女性の喜ぶようなプレゼントなんて、女性との関わりが少ない俺にとっては自然とため息もこぼれてしまうほどに難解であった。無難に食べ物だとか口につける紅だとか、それとも新しい忍具…いやいやそれはないだろう。食事の間も手を止めては自問自答の繰り返し。鬼鮫から心配されるほど悩み抜いたのだが、それでも苦に感じることがなかったのは、彼女のことを唯一無二の存在としてあまりにも愛おしく思うからだろう。

長い時期を経てようやく思いついたプレゼントを探し回るのも一苦労だった。犯罪者という不自由な身の上であんなものを買おうとすることに多少の無理はあるのだが、それでもなんとかと思い、雨の日の任務終わりにこそこそと人ごみを避けるように店を回り続けた。

コマチの左手薬指の指輪。薬指にはめるなんて、幼稚なカップルがよくすることだと自分に呆れ返ってしまう。ああでも、衝動だったんだ。


「気に入ってくれたか?」
「もちろんだよ!」
「きつくはないか?」
「ぴったり!なんで指のサイズわかったの?」
「さあな」

彼女の唇に触れるだけの口付けを落として誤魔化すと、さすがイタチだねとコマチは目元を紅く色づかせながら嬉しそうに言う。彼女の薬指でひっそり静かにキラキラと光る指輪は残念ながらそんなに値がはるものではない。それをわざわざ薬指にはめてしまうなんて…コマチを酷く失望させてしまうのではないかと不安に思いはしたが、杞憂だったようだ。

そうだな。確かに、値段は関係ないかもしれない。左手の薬指、世間一般に知られるその意味に、彼女は夢をみるかのようにうっとりとしているのかもしれない。嬉しそうな彼女を見て素直に喜ぶこともできず、たまらなく罪悪感に苛まれる。近い将来儚く消えゆく男と婚約まがいのことなんて。コマチが知らないにしても、やはりあまりにも無責任だったのではないかとここまできてすっかり逃げ腰になってしまう。そうこんな行為、ただの気休めに過ぎないのに。

「本当に、ありがとう」
「…」
「すごく、嬉しい」

俺の腕の中、胸に顔を押し付けて恥じらうような彼女から放たれた言葉は、恐ろしいほどに俺の心に沁みこんでいく。沁みこんで、身体中を蝕んでいくかのようなそんな心地だった。あぁ、そうか。コマチの言葉に単純にも幸せだと思った俺。自分とコマチの将来に光なんてないことを知っていながら、それでもこうしたのは、





(どうやら俺も大概子供のようだ)


title by hence


2011/08/04 修正