忍少年と碧血丹心 007

◇ ◇ ◇

忍の住む地域は、都心に近いとあってか、数多くの有名店が駅を中心に集まっていた。
日の明るい内はサラリーマンなど忙しく働く者達の本拠地となるが、夜になればがらりと治安の良いイメージは変わり、チンピラさえ慄く無法地帯となる。
特に中心となるのは若い者。
夜はサラリーマンが労わりあう場所としてはあまり適さない。
それこそ喧嘩や違法は当たり前。
そのせいで警察は常に目を光らせているが、底の無い闇の深さに、その光も届かない事が多い。
無知な人間が歩けば、次の朝には丸裸で放置されている事だってありうる。それが表ざたになる事なんてほとんどない。
一昔こそ平和だけが取り柄の田舎だったが、数十年前より始まった都会化計画により、繁栄と混沌―――両方のイメージを背負う事となった。

「…おお。寒ぃ…」

慣れない環境に絶句しながら、忍は着物姿のまま立ち尽くすばかり。
白い牡丹の刺繍が施された茶色の羽織を着物の上に重ねているが、寒い事に変わりはない。
忍を強引にここまで連れてきたのは、憮然と忍の横に並んでいるこの男で、忍の怯んだ様子を見て、口元を緩ませた。

「…なにを笑ってるんですか…」
「―――いや。……寒いのは苦手か」

「…。暑いのと寒いのでは、寒い方が苦手ですよ」
「まるで猫だな」

男は自分のバイクに腰掛けたまま、自分のヘルメットをハンドルに引っかけた。
男の愛車とあってか、赤が主体としたそれは誰もが羨望しそうなほど格好良い。
忍派レースを得意としたレプリカ型のそれに乗せられ、峠を登ってここまで来た。
しかも乗り物にはほとほと弱い忍を苛めるように、振り落とさんばかりの速度を出されたせいで、忍の神経はすり減って今にもぷっつり切れそうだ。
生も根も尽き果てるとはまさにこの事だと、気だるそうに持っていたヘルメットを男に投げつけてやる。

「まったく、家で倉庫からコタツを出す準備をしていた方がよっぽどいいですよ…」
「なに冷めた事言ってやがる」

街中ではさぞや目立つであろう忍が深々と溜め息をつけば、その寒さを物語るように白息が漏れた。
辿り着いた場所は人気の無い街中から少しだけ離れた、貨物を保管しておく倉庫群だった。
港が近いため、海外輸送するものを置いてある地区で、規則性のある並びで小さな工場に似た建物が並んでいる。
あれだけ賑やかな場所に、このように物静かな場所があるのかと思うほど、そこはひっそりしていた。
忍としては華やかな場所は苦手の類なため、目立つ場所に降ろされなかった事に胸を撫で下ろすが、むしろこの静さは聊か不気味だ。

「俺をこんなところに連れてきて、一体なにがしたいんですか…?」


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