忍少年と一期一会 14



「お前一体何者だ…」

「何者かと尋ねられて、答えられる人の方が少ないんじゃないんですか?―――あえて答えるとしたら、そうですねぇ……俺は善良な一般人の一人です」
「……善良な一般人が、咄嗟に自分の手首の関節を外して、回し蹴りなんかしねぇよ。…お前、荒っぽい喧嘩初めてじゃないだろう?」

「まさかっ!!俺は事なかれ主義なんです。喧嘩なんて嫌いですよ。自慢じゃありませんけど、俺は兄弟とも喧嘩らしい喧嘩をした事が無いんです」
「お前それ冗談だろ……?」

「あなたに冗談を飛ばせるほど親密な仲じゃありませんよ」
「…。正直に言え。お前、何か格技やってたな…?」

食い入るように隣で正座をする忍を見上げるが、お茶をすする彼は涼しげに微笑を零すだけだった。

「―――さぁ、どうでしょうね」
「聞くだけ無駄って訳か…」

はぁと重々しく溜め息をつく男は、大人しく布団に寝かされていた。
せっかく腫れが引いたはずの頬も、再び打撃を受ければ赤くもなる。
しかも昨日受けた拳よりも強烈な―――男が受けたのは忍の蹴りだった。
あれだけがっちりと関節技を決めたというのに、事もあろうか忍は己の関節を外して男に対抗してきたのである。
骨がパキポキと音を立てて外れていく様を目の当たりにし、しかも朝飯前とばかりに手馴れているのだと知って、驚愕したほどだ。

根暗の文系少年としか思えない容姿に騙されれはいけない。

その中身はとんでもない『何か』を潜ませているのだと、男はますます忍という少年が分からなくなっていた。
男が忍に『何者』であるのかと聞かずにはいられないほど、忍の動きは人離れしていたのだから、気になるのも仕方が無い話だ。
終いには束縛から逃れた忍が今度は背を向ける事無く足を振り上げて思いっきりのカウンターである。
それをもろに食らった男は倒れはしなかったものの、強烈な痛みに目を回す始末だ。
今ではすっかり警戒心を宿してしまった忍がいつでも構えている状態のため、下手に襲い掛かる事は困難となった。
最初で最後だったのだろう、おいしいチャンスを逃してしまった事に男は深い溜め息を零す。

「―――つれねぇなぁ…。『抱いてくれ』と懇願してくる奴は山ほどいるってのによ…」
「このど変態。年中盛っている雄犬じゃあるまい。そういう事は是非とも同意した人とやって下さい。俺はごめんですよ、あなたみたいな人」
「玉に瑕とはまさにこの事だな…。せっかくオレ好みのイイ顔と体つきだってのに、肝心の愛想の欠片もねぇ…。お前みたいな生意気タイプはいつか周りの連中に袋叩きにされちまうぜ?―――ま…その見て呉れだとお前の場合、殴る蹴るの暴力だけじゃ済まされないだろうがな…」

にやりと笑い、不吉な事を言う男―――けれど忍はそれを涼しげに受け流した。

「…俺はそういった力任せで何でも解決しようって連中とお付き合いする予定は無いので、特に問題はありませんよ。―――それはそうと、もし貴方が本調子で俺を問答無用で組み敷くような事があれば、今度は本気でその尻蹴飛ばして追い出しますからね」
「ほんと可愛くねぇなぁ。こんなに可愛げがないと憎らしくもなるぜ。―――だが燃えてくるんだなぁ、これが…」

ぎらぎらと揺れる金の色―――極上の獲物を前に狙いを定めた獣の目を、男は楽しそうに細めた。

「どんな手段を駆使してでも、お前を組み敷いて屈伏させてやりたくなる」

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