忍少年と一期一会 13
眼が合うと、吸い込まれるようにして男は忍の唇に触れた。
「ぅ……ん……」
相手の不安を取り除くように優しく、けれど時折奪うような獰猛さを見せながら貪るように唇を覆う。
接吻などの行為に奥手である忍は酸素不足に耐えかね、噛みしめていた唇はうっすらと開いた。
「…っ…ぁ…っ!!」
それを待ちかねたように、逃げ惑う忍の舌を乱暴に男が捕らえた。
絡み合い、互いの唾液すら混ぜ合わせ、一つとなる。
くちゃくちゃと聞いてて恥ずかしい水音が響く。
「はっ……ぅんっ……!!」
苦しげに呻く自分の吐息すらどこか自分のものとは思えない艶を、忍は己自身でも自覚した。
まるで風船を針で刺すように、男は的確に接吻がどれだけ性欲を促すかを嫌というほど教えていく。
それも忍に実感させるように、ゆっくりとゆっくりと―――それでも性急に。
「…っ…や…め…っ!!」
辛そうに眉を寄せて顔を赤くし、息を喘がせる忍の姿に、男は名残惜しそうに口内から出る。
酸素不足に今だしゃべれない忍の唇は吸われすぎて赤く腫れ、飲みきれなかった唾液が口角から顎に掛けて流れていた。
両手を捕捉され、両足すら固められ、忍が唯一できる拒絶の意を示すように顔を背ける。
「こ……の……!!」
その眼は怒りと羞恥で燃え上がり、けれど生理的に目尻に溜まった涙がせっかくの睥睨をも裏切っている。
先ほどの熱烈な接吻で、欲情の火が飛び移り、忍の下半身は少し興奮していた。
それを密着した体から感じ取ったのだろう―――男は自分の熱を忍のとを絡めるように押し付けて、嬉しげに笑んだ。
「―――案外可愛いとこあるんじゃねぇかよ」
「…」
忍はそれこそ血が出そうなほど強く握りこぶしを作ったなどと男が知るわけも無い。
男が忍の鎖骨を甘噛みした時だ。
すっかり忍の『警告』を忘れてる男は脱力している忍に抵抗の意思は無いと判断し、力を緩めて油断したのが全ての運のつきとなった。
「あんさん、うちはしっかり『忠告』はしてやったん。これは正当防衛や…」
さかいに、うらまんといてなぁ……?
にんまりと―――陰を含んだ妖艶な微笑を浮かべて。
しかしその笑顔とは裏腹に、地を這い蹲るような低い忍の声が、明らかな激昂を含んでそんな事を呟いた。
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