忍少年と隠忍自重 075

「考えて考えて、俺の事だけを考えまくれよ。…お前もそうやって、俺の存在に悩み苦しめばいい」

ああ…本気なのだと気付いた時、不覚にも、本当に少しだけ、ちょっぴりだけドキリとした。
よくよく考えれば『キング』とは同性である。恋だの愛だの、考えられない。
しかし、『キング』が欲情以外にも、執着に似た激しい情を抱いていると言われ、初めて『その対象』として意識した。

実は忍自身、同性に欲情される身体と容姿である事を、自覚している。
変装といっても、やはり眼鏡と桂だけでは隠しきれない部分はあり、それに気付いた男達は忍の端整な顔立ちと、女らしさは無くても男らしくも無い中性的な身体に性的な興奮を覚えるらしい。
『らしい』というのも実際に痴漢された時や、前に告白された男子生徒から教わったもので、忍は客観的に「なるほど」と納得したまでだ。
だから、『キング』も例外なく忍自身ではなく、この身体に興味を持っただけだろうと考えていた。
外の世界で、この美しい『器』が好きと言う同性はいる。―――だが、『中身付きの器』が好ましいと言われた事は未だ嘗てない。
なのに、こんなプライドの塊のような忍を、あの男は、惚れたと…。

いつも変化球を寄こす癖に、なんで今直球を投げるんだ!実はお前、キングになり済ました偽物だろ!?

しかし、そう叫べばまた睨まれる事は分かっている。
もうこれ以上、その話を引きずられるのは困るというものだ。
忍は大きく振り下ろされた木の棒を避けるために身体を傾け、そのままその首と腹に一撃ずつ与えた。

「分かった。ちゃんと考えるわ」
「―――だったらとっとと決着つけて、その返事を聞かせてもらおうじゃねぇか…」

二人の会話はそこで途切れた。

「がはっ…!!」

張り飛ばした頬から白い歯が零れて、『キング』にかすり傷負わせる事無く男は倒れる。
さっきまでは子供のように、喜怒の激しい感情を見せていた『キング』は、まるでスイッチを切り替えたように、雰囲気が容易には近づけない気迫のオーラを漂わせていた。

忍と会話していたのが『翔』だとすれば、今は間違いなく『孤高の獅子』と畏怖された慈悲なき王様が降臨している。

追いつめられた男達の必死な応戦で『キング』も忍も沈黙し、黙々と処理していく。
しかし、本当にいつまでこんな茶番に付き合わなければいけないのだ。
少しずつ息が荒くなる『キング』の様子に、忍の集中力も奪われる。
決して強くは無いけれど、積もった塵の山を撤去するのは本当に気骨が折れるのだ。

「応援はまだなのかよ!!」
「連絡はした!!もうそろそろ来るはずだ!!」
「そうなりゃ、こいつらだって―――」

ふと、若者たちのやり取りを聞いて、忍の表情は険しくなった。
この後に及んで、まだ手間を増やすというのか。
その苛立ちは『キング』も同じだったらしく、小さく舌打ちする音が聞こえる。

だが二人は、哀れな行く末を辿る犠牲者達に向かってぞっとするような嘲笑を浮かべた。

「―――ええわ……。そんなら徹底的に排除させてもらいましょ…。生憎ゴミ掃除は得意なんよ」
「作業はまとめてやるのが楽だな。とっとと片付けちまうぞ」

残虐な光を宿した二匹の獣は顔色一つ変えなかった。
その余裕な態度と第六感で反応する恐怖心が、残った数少ない男達の輪をじりじりと広げていく。

その時、外から足音を拾って、視線が扉へ向かう。
一人じゃない。複数だ。恐らく男達が言っていた『応援』とやらなのだろう。
何人湧いて出てくるのか―――それをじっと凝視する中、暗闇から扉を潜って足が出て来た。
それから胴体…顔…。
しかし薄暗い視界の中、その顔立ちを見て、戦闘モードだった忍の顔は素に戻った。
眼を真丸くしている姿は、間違いなく中学生の白取 忍そのものだ。

―――もしや…

刈り上げられた短い黒髪に黒いバンダナを瞼辺りまで深く巻いているため、深く落ちた影から覗く三白眼には凄味があった。
頬骨のそげ落ちた肉や、180cm以上はある身長とがっしりとした体躯は成熟しきった大人のそれで、中学生が纏う雰囲気にしては威圧的である。
中学の制服を着なければ、その筋の者に間違われなくもないだろう。
現に、光沢を放つワイン色のダウンブルゾン、その中には赤チェックのYシャツと黒いネクタイを引っかけている姿から、堅気には見えにくい。
紺色に近いジーパンは脚の形に合ってなく、ぶかぶかだったが、そのダラしなさが全体的な服装とマッチしているようだ。

変装をしている忍とは違い、学校でもプライベートでも服装以外なんら変わりのないその男を、忍は1年前から知っていた。

(―――木内君……?)


酷く嫌な予感がする。

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