忍少年と隠忍自重 073

あの男はどこに。
捕まえて…捕まえて…。―――どうするかはまだ決めていない。
ただ、聞かなければいけない事は数多くある。

忙しなくキョロキョロと首を動かす忍に、『キング』はアッパーカットで相手を潰しながら大声を張り上げた。

「何探してやがる!!」
「―――あの男や…!!あの男がおらん…!!」

視線が彷徨う。襲いかかってくる男をハイキックで返り討ちにしていた時、ようやくその影を捕えた。
朝倉は乱闘の外側で、傍観者のように立っていた。
この熱気立つ空間から切り離されたように、気配も感じられない。
きっと意識的に執念深く探さなければ、その存在にも気付かなかっただろう。
朝倉は忍が見つけるよりも早く、じっとこちらを観察していたようで、互いの視線が交わったと直感する。
俯き加減である朝倉の表情は伺えない。ただ唇に弧を描いていたが、それが笑っているとはどうしても思えない。

しばらく見つめ合っていたが、生憎と手足目共に忙しい忍だ。
視界を遮ってまた若者が襲いかかって来たタイミングで、朝倉の姿は見えなくなった。
しかし、その一秒…瞬いた目が、顔を上げた朝倉の双眼を捕えた。
忍に殴られて、赤くなった頬と目元……そして―――

あの目のを確かに見たのだ。

男の腹に拳を打ちこむ。鈍い悲鳴を上げて倒れる男。その先にいるはずの朝倉は、もういなかった。
忍は動揺を抑えようと息を吸った。
『キング』の真横から同時に拳を振り上げた男達を、忍は手刀で捌く。

酷い動悸に肩を揺らしていると、背中にずっしりとした重みが乗りかかる。

「な、なんや…!?」
「―――ちょっとした休息だ。ほれ、お前も俺に寄りかかれよ。倒れちまうだろうが」

慌てて後ろへ体重を掛けると、ちょうどよくバランスが取れて、互いに囁かな休息が取れた。
少し乱れた呼吸音を背中から感じる。
頼られていると分かる『キング』の行動に驚きつつも、複雑でくすぐったいような感情が湧き、嫌味の一つも言えない。
ただ、荒れ果てた波が静まるような心地よさがあった。

(今はあの男の事考えてる場合やない)

無意識の内に、囲い込む敵を睨んで牽制する。
忍の凄味に充てられて、若者たちが怯む。―――血の海を作った忍の姿は、男達にトラウマを植え付けていたようだ。
『キング』の休息を誰にも妨害はさせない。

(それにしても…ほんま、よーこれだけ集められたもんや…)

倒れた男達が邪魔で、少しずつ場所をずらしながら相手をしていたため、軌跡に沿って人間が落ちていた。
減らした数の方が圧倒的に多いので、もしかしたらこれは有利な方向に動いて来たかもしれない。

「『キング』……あと半分だけ任せても―――…お前…!!」


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