忍少年と隠忍自重 024


◇ ◇ ◇

「その人を俺が連れてきたら、空先輩を離して下さい!!」

そう叫んだのは、ここに来るきっかけを作ってしまった健太だった。
本当に悪いのは、藤堂と呼ばれる、自分の兄の友人なのだが、自分だけじゃなくて二人を巻き込むような真似をしてしまったのは、自分だという自覚が健太にはあった。

「約束して下さい!!」

顔を真っ青に、呂律さえ回っていないようなたどたどしさで、大声で訴える。
それに、健太を囲んでいた二人が顔を蒼白にさせた。

「お、おい。健太……」
「止めておけって…」

生々しい性行為も、今はもう熱が冷めつつある。
彼らはその行為に飽きが来るまでに空を犯しつくしたのだ。
まだ少女とも言える空に薬を飲ませ、乱れた所へ複数の男たちがそれに群がり。

さながら、腹を減らした肉食動物達が、仕留めた獲物を喰っているように―――

三人の後輩たちは、両足を地面に埋まれたように動く事が出来ず、しかし目を逸らす事も出来ず。
瞬きさえ忘れて、その行為を凝視していた。

ずっと。ずっとだ。

昼が過ぎ、夜が訪れ、朝が来ようと、ずっと三人はその場に立っていた。
空腹も眠気も、この場ではまるで時間が止まったように感じる事はなかった。

むろん拷問という名に相応しく、その行為は休みなく行われ続けた。
空の姿さえ見えないほど、男たちが群がり、グロテスクな男の凶器を出し、前からも後ろからも、『孔』があれば男たちは無慈悲にそれを突っ込んだ。
その間、空は乱れたように嬌声を上げ続けた。
甲高い、まるで動物の鳴き声にさえ聞こえてきそうなほどの、叫び。

三人の耳に、その声は今でさえ貼りついたまま。

欲情なんて、そんなもの出来やしなかった。
むしろ、殺人の現場でも見てしまったような恐ろしさに、体を震わせる。
比喩するならば、可愛らしい生き物から、生きたまま毛皮をはいでいく様を目撃した様な衝撃。
今はようやく薬が抜けてきたのか、空は惜しげもなく裸体を晒したまま、冷たい地面に放置されていた。
死んでいるように、空の体はぴくりとも動かない。

健太は、駆け寄って、自分の着ているブレザーを、彼女の体にかけてあげたかった。
ストーブがあるとは言え、やはり冬の工場内は冷えているのだから。
それから彼女を安全な所に連れて行き、彼女をこんな目に合わせた連中を一人残らず叩きのめしてしまいたい。
しかし、それが出来るような勇気が、なかった。

見放した罪に苛まれて、三人は空を直視できないまま。

健太は、唇をかみしめた。
握り拳には、爪が食い込んで血が出ている。

「藤堂先輩っ!!」

悲鳴のように。

健太の視線の先には、面倒くさそうな顔で藤堂が髪の毛をわしゃわしゃとかきむしっていた。
鍛え上げられた上半身を惜しげもなく晒したまま、先ほどまでの修羅場がなかったような落ち着きようだ。
藤堂は、今の今まで三人の存在を忘れていたように、「あぁ!?」と苛立ちげに三人を見る。
今まさに、テーブルゲームでもやろうと意気込んでいた藤堂は、邪魔をされたと思ったのだろう。
つくづく、自分の欲求に忠実な男である。
他の男達も、何か物珍しいものでも見るような、嫌な笑みを口元に浮かべて、こちらの様子をうかがっていた。

「あぁ!?お前ら、そう言って逃げんじゃねぇだろうなぁ?―――自分の罪が浅いとでも思ってんのか?許されると思ってんのか?確かに自首すればな、罪は軽くなるだろうよ。だがな、俺達を売ればどうなるか、そこんとこよ〜く分かっとけよ」

やんわりと、怒ってはいなかったが、容赦なく釘をさす。
三人は黙り込んだ。

もう自分たちは一体どうしたらいいのか―――それが分からくなっていた。

ただ、罪悪感だけが募る。
自分たちは不可抵抗だったから、しょうがないから空を見捨てたのだと言い聞かせる。
言い聞かせるのだが、それをすんなりと飲み込む事が出来ず、しかしそれを吐き出す事も出来ない。

―――誰か、助けてほしい

それが、三人に共通する想いだ。
一体何故こうなったのかと、自分の浅はかな行動を咎めて攻める以外、自分を保つ方法が分からない。

それでも、彼らは『男』だった。
まだ、救いようのある、男達だった。
本当はビビりで、虚勢を張っている部分も大きいが、それでも、まだ人として『情』が深く残っていた。
だから、目の前で憧れの人が傷つけられて、それを何としてでも救いたいと、そう思うのだ。

―――それが、空に対しての償いのつもりなのかもしれない……が

動機が何にしろ、三人は強くその方法を考える。

空を、解放してもらえる方法を。

目的を果たしたにも関わらず、いつまで経っても空を解放しようとしない連中。
もしかしたら空が誰かを庇って嘘をついているかもしれないと、そう危惧したからだそうだ。

それを言われて、三人は知った。

―――最初から解放する気など、彼らには無い。

空が自供しようとしまいと、彼女を性処理としてこれからも扱い続けようとする魂胆が丸見えだった。

それに、三人は深い怒りを覚えた。
頭の中で、ここにいる全員をぼこぼこに叩きのめした。
しかし、それはあくまで想像の中だけ。
実際この三人が拳を振り上げようとも、大人数なうえ、ただでさえ喧嘩には慣れている連中だ。
返り討ちが目に見える。

だから、自分達の出来る範囲で、精一杯空を助ける方法を考えた。
その結果が、最初の言葉通り―――

「俺達が、その人連れてくれば、空さんの言った事は嘘じゃないって分かるはずだ!!だから、そうしたら空さんを離して下さい!!」
「―――君達にそれが出来るのかな?」

やけに場違いな、優しい声が寂れた工場に響いた。

反射的に、三人は声の主の方へ首を回す。
微笑みさえ浮かべて、その男はこちらに向かって歩いてくる。
にこにこと笑って、それが随分不気味に思えた。
薬を与えるだけ与えて、空をむさぼる事もせず、しばらくどこかへ消えていたのだが、今ちょうどこの場所へ帰ってきたようだ。

「『シノ』と呼ばれる子の本名は『シラトリ シノブ』。珠子中学の3年生。空ちゃんの隣席の子だよ」

そう言って、片手に持っていた写真を直立不動の三人の前に放り投げた。
それは綺麗にコンクリートの床を滑り、真中の健太の靴先に接触して勢いを失う。

「彼は随分手ごわいと思うよ?―――それでも、連れてこれる?」

三人はその写真の主を見て、目を見開いた。

黒いぼさぼさの髪。黒ぶちの眼鏡をかけて、珠子中学の制服とその上から防寒対策にコートを着ていた。
マフラーに顎を埋めて、何かを見上げる横顔が、こちらに気づいた様に視線を流していた。
その写真の主の第一印象は、『優等生』。もしくは『根暗』だ。

そこには、昨日出会ったあの『先輩』が映っていた。


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