曲がりの無い忠誠心を持つ者は珍しい。

軽はずみな行動を慎む。

口をつぐみ、耐え忍ぶ。

苦しみも怒りも悲しみも―――全て丸めて飲み込んでしまえ。

己が我慢すれば、周りに不快を与える事はない。

・・・しかしそれは異物である。
異物を処理するには吐き出すしかない。

―――人は元より、負の感情を隠して生きる事は出来ないのだから。



忍少年と隠忍自重 001


「へぇ〜。そりゃぁ興味深いねぇ」

感心したように声を上げて、男は明朗に答えた。
携帯電話の相手もまた、同意してくれた事に機嫌を良くし、ペラペラと話し始める。

場所は高校の廊下。

昼休み時間とはいえ、学校の公共の場で堂々携帯を使うなど、校則違反だと教師に咎められるかもしれない。
しかし、この学校の生徒はほとんどが背徳を軸にして生きる、いわゆる不良高校だった。
服装は乱れるに乱れ果て。もはや私服に似た格好の者もいる。
廊下の壁にはスプレーで色取り取りのアートがほどこされ、床も埃被って掃除を怠っている事がよく分かる。
蛍光灯の一部は破損し、それが回収され新しいものに変わる事もない。

―――たとえそんな事をしたとしても、直ぐにまた壊れると分かっているからだ。

ならば最初から変えなければいいと、そう開き直っている…そんな事が当たり前のその学校―――公立鬼ヶ原高校。
偏差値など底辺に近い、行く気があれば誰でもはいれる、そんな高校である。

「…はぁ!?仲間の内8人がやられたって?…愛人とやらに?―――こりゃぁもう笑い話に出来ないだろうよ…」

どこか感心した風に、男はにやりと口角を釣り上げた。
その獰猛な笑い方は心底楽しいとでも物語っていそうだった。

「…京都弁?しかも和服に長髪だろう…そりゃお前、直ぐ見つかるんじゃないか?―――それだけ目立つ外見をしているのならよ」

しかし相手は言った。
もしかしたら変装しているかもしれないと。

族の中だと公と私生活を分けるため、大まかな変装をする者も多い。
それを踏まえての予想だった。

「確かにそりゃ一理あるな。…おい、見つけたら、直ぐ俺に知らせろよ?その面、是非とも拝ませてもらいてぇ」

電話越しに笑いを押し殺した声。

―――元よりそのつもりだと…

男が電話を切ると、そのタイミングに合わせて男達が集まって来た。
どの顔も、一般人だったら思わず尻ごみしてしまいそうな強面で、しかし今は憧れの男を前にして、輝いているように見える。

―――事実。この鬼ヶ原高校は大きな喧嘩一つで、全権交代をしたばかり。

そして、先代を表舞台から引きずり下ろしたこの男を、鬼ヶ原高校の生徒たちは敬愛を込めて『兄貴』と慕っていた。
今や、この男こそが鬼ヶ原高校の頂点に立っていると言っても過言ではなかったのだ。

一人が男に尋ねる。

「兄貴。随分機嫌いいみたいですけど…?」
「なんかいい事でもあったんすか?」

口ぐちにそう声を揃えて、男達は気になるのだと訴える。
男は少し考えるような素振りを見せてから、にやりと笑って、心底嬉しそうにそれに答えた。

「『キングの愛人』について、お前ら何か知らないか?」

line
-1-

[back] [next]

[top] >[menu]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -