忍少年と碧血丹心 069

しかしその行為は思わぬ所で妨害される事となった。
それは薩摩が忍の陰部へ顔を寄せた時だ。
突然と熱気と静寂に包まれたその客間に、バイブ音が大きく鳴り響いたのである。
まさに今薩摩の吐息が内股に触れた瞬間の出来事に、喉を鳴らして上機嫌だった薩摩の顔に険が宿った。

「ちっ。誰だってんだ」

忌々しそうに舌打ちをして、露骨に憮然と眉間に皺を寄せると、テーブルに置かれていたそれに手を伸ばす。
忍も予想にしていなかった助けに強張っていた顔をおもむろに安堵へと変えた。
忍の上に居座ったまま、薩摩は独り言のように呟く。

「―――余計な邪魔が入ったもんだ」

仏帳面だった薩摩の顔だったが、誰からの連絡なのかとディスプレイを目視した途端、どこか愉快そうにその機嫌はあっという間に直ってしまう。
誰かお気に入りの愛人からか。それとも良い報告を持ってきた部下からか。
乱れたままの呼吸を正そうと、何度も肩を上下に動かす忍から眼を離さないまま、薩摩は黒の携帯に耳を当てた。

「―――よお。坊からの電話なんざ久しいな。随分珍しい事もあったもんだ。一体何の用だ」

俺は今お楽しみ中だ。

そう告げて、どこか茶化すような楽しささえ交えて薩摩は愉快そうに話す。
しかも『坊』などと、相手が格上者である事を裏付けるような物言いに、忍は怪訝に眉を寄せた。
彼との付き合いは無いにしろ、その事情や家柄を良く理解しているつもりだ。
たとえ格上の者に対しても、ここまで気安く話しかけるほど信頼している相手が薩摩にいる事が不思議でならなかった。
天下の極道様よりも上に立つ人間など、忍の知る限りでは本当に片手の五本指で数えられるぐらいである。
細かく数えればもっといるのだろうが、あくまでそれは薩摩が格上だと認知した者に限るとそれぐらいか…。

ふいに、薩摩が忍をじっと見下ろしていた。
眼と眼が合った瞬間―――薩摩の漆黒の瞳が、ぞくりと背中に戦慄が走り抜けるような威圧感を含んで笑んでいた。

「―――ほう…。こいつは面白い」

なんだ…?

忍から視線を逸らさぬまま、薩摩は最後に電話の相手に向かってこう締めくくる。

「そこまで来てるんだろう…?だったら来いよ」

再び携帯を無造作にテーブルに置いた薩摩は、やはり忍から眼を離すことは無かった。
まるで美味そうな獲物でも見つけたかのように、ぎらぎらと獲物を狙う眼が殺気さえ交えて忍を見下ろす。

忍の中で、何か嫌な予感が過ぎった。
気のせいだと何度も薙ぎ払おうとするが、決して払いきれない何かが胸元を騒がせる。

「可哀想になぁ。ここまでくりゃぁ、てめぇの運の無さに同情したくもなる」
「意味が、分かりまへん…」

「―――直に分かるだろうよ」
「…はっ…?」

どくどくと、胸を打つ嫌な鼓動。

彼は、何に対して『可哀想』だと言っている…?

「ぅっ!?」

忍が口を開く前に、それは悲鳴に近い嬌声へと変わった。
驚いて下を見れば、薩摩の手が無造作に急所を掴んでいたのだ。
忍とてそんな所を捕まれては動けるはずも無い。
痛みで萎えているそれを手の感触で確認した薩摩が、口を開かないままただ薄気味の悪い笑みを浮かべながら、それを指先で翻弄し始めた。

「なぁ…に、を…っ!」

両足を押さえつけられたまま、薩摩の手が怪しく動き出す。
袴で見えないが、くちゃりと恥ずかしい水音がした途端、忍は咄嗟に陰部を握る薩摩の手を両手で引き剥がしに掛かった。

「もう十分やろ…っ!!」
「邪魔だ。―――どけ」

「いややっ!!ほんまにやめい!!」

既に悲鳴だ。


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