忍少年と碧血丹心 064

「―――さぁて、てめぇをどう可愛がってやろうか…」

脳に直接響き渡るような―――事実、彼の吐息、音の響き全てが耳元で感じる。
体力を大いに奪い取った薩摩は行動を次に移した。
大きく上下に動く胸元―――きっちりと着込んだ襟元を、器用に歯を立てて摘んでは、肉を引き千切るようにしてそれを左右に引っ張り、開いていく。
その様は野獣が獲物の皮を剥いでいっているようで、動作も思いのほかゆっくりと、まるで忍を焦らして弄んでいるようにも見える。
それを証拠に、薩摩は一度も忍の目線から視線を反らす事無く、睥睨にも似た上目遣いで剥いていった。

このような羞恥プレイ、恥ずかしいどころか、これ以上にない屈辱感に顔が熱くなる。

「この…っ!!悪趣味な…っ!!こないな事してなんが楽しいっ!!」

元々暖色の明かりで灯された部屋だ。
忍の開発されていない肌の白さが、肌着を剥かれる毎に、段々と大きく広がっていく。
まるで忍の体自体、発光しているような―――けれどそれは病的とは言わない、健康的な肌色は羞恥で仄かな桃色に染まった。
隠れていたはずの、雪辱の赤い跡を多数見つけて、驚きはしなかったものの、面白いものでも見つけたように薩摩は笑みを浮かべる。

「ほう…これはまた」

薩摩のそれは、相手の弱点を見つけた、悪者の強みを含んだ冷笑だ。

「―――随分跡を残されたな…。男の体など知らないと白々しい態度なんか取りやがって…ん?随分可愛がられたんじゃないのか?」
「離しぃ…っ!!うちは、あんさんに可愛がられるつもりなんかあらへんわ…っ!!」

「男に尻掘られて善がるのが楽しいんだろう?こんだけ跡を付けておきながら今更だろうが」

忍は悔しげに唇を噛み締めた。
これまでの経緯を話す必要も無い。
話したところでどうこうなる問題でも無い。
黙って睨む以外の最善が、忍には見つけられなかった。
すっかり冷えていたはずの体も、薩摩が密着している影響と部屋に暖房が入っているせいか―――少しばかり汗ばんできたようだ。
しっかりと閉まっていたはずの襟は獰猛に貪る薩摩が一枚一枚ゆっくりと、それでも手際よく剥いでいく。

ようやく彼がその行為を止めたのは胸辺りまで白い衣を広げた時だった。

首から鎖骨まであった跡も、胸元に無い事を目視してから、何か意味を含んだような眼で忍を凝視する。
不自然な痕跡の残し方を見て、忍の身に起こった出来事を全て理解したようだった。

「―――相変わらず誘惑する事には長けているって訳か…。てめぇは天性のタラシだからなぁ」

『昔』からそうだ…。

言いながら薩摩は忍の両手を離して、少し開けただけだった前を大胆に左右へ裂いた。
忍の両手を解放したのは、彼の小さな抵抗など痛くも痒くもないという余裕からだろうか。
どんな軽んじた理由があったにしても、忍が自由になった両手を今、使わないはずが無い。
体を全力で捻らせて、上半身をくねらせると畳みに両手をついて、薩摩を上に乗せたまま大いに暴れる。

「おう」

たとえ真っ向から殴ろうとしても力の差が違う。
ならばここは逃げるが手だろう。

苦労の甲斐があってか、忍の体は仰向けから90度反転し、うつ伏せに近い状態へと転じる事に成功した。
そのまま小さな体がホフク全身で逃れようとするが、必死とも言えるその姿が逆に薩摩の欲情に拍車を駆ける事となる。

そう―――例えば猫は獲物を捕まえてはわざと逃がし、それを甚振るように捕まえる事を、遊戯として楽しむ残虐性があるように、薩摩もまた同じような興奮を覚えていたのだ。
こんな華奢な体がこれほどの力を持っているのかと、最初こそ薩摩も純粋な驚きを露にしていたが、それもすぐ笑みへと―――まるで楽しい玩具を見つけたように嬉しげなものへと変わった。

「―――こうでなけりゃぁ楽しくねぇ」

それこそ根こそぎ叩きつけるような圧力で。

「あぐぅ…っ!!」

忍の首元を片手で鷲掴み、そのまま畳みに押し付けた。
どうにか顔面から畳みに衝突する事は免れたが、頬の骨がめきりと悲鳴のような音を立てる。

痣にでもなったらどうしてくれようか。

尚も暴れようとする忍の首元に、今度は戒めるようにしてがりっと噛み付く。
一瞬こそ体を硬直させてしまったが、まだ穏やかなそれに何の躊躇いも無く振り切ろうと首を捻った。

しかし―――

肉を食いちぎるほどの力に、忍の喉下から押し殺した悲鳴が漏れる。

「あっぅぅうう…っ!!」

目の前に白い光がちらつき、ぷっつりと、皮膚が噛み切られたと、そう意識の底で知らずに知った。

本気で、噛み付いたのだ!!

痙攣するように震える白い首筋からは血が流れ、薩摩がそれを美味そうに舌で綺麗に舐め取る。
その内、それは執着するように大胆且つ色濃くなり、まるで血を抜かれているような錯覚。

「ああ…。こいつは美味い…」

人の血を啜って、それを美味と甘く吐息を零すなど、狂気の沙汰である。
これほどまで低く欲情に濡れた声音を聞くのは、これが二回目だ。

「さぁて、次はどこを味見してやろうか…。てめぇはどこを啜っても美味そうだ」


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