忍少年と碧血丹心 038
明日は普通に学校もあるし、疲労困憊―――というよりも精神的疲労で体が休息を求めている。
家までの長い道のりを、この下駄靴で歩かなければならないため、それを考えるとどうしても彷徨い歩くこの時間が惜しいと思ってしまった。
「…俺、今本当に困ってるんです。あなたの言う通り、誰かを頼らないと本当に今夜は一歩もここを動けそうに無い…」
「だろう?だから俺達を頼っちゃった方が得策だって」
「―――大丈夫大丈夫、ちゃんと責任持って駅までは送るから」
「…。ほんまですか?」
「ああ!!本当だよ!!」
「ほんまの、ほんまですか?」
「本当の本当!!」
念に念を押して、ようやく忍の表情が柔らかくなった。
「―――ああ、そら助かりますわ…」
安堵した忍はほうと息をつき、冬が終わり、春が訪れたかのように、忍は顔を綻ばせて笑顔を咲かせる。
「ほんま、おおきに…」
それは心の底からの感謝。
深々とお辞儀をする姿は、今にも地べたに正座して三つ指をつきそうな勢いだ。
目の前でその礼を受け取った男達は惚けたように硬直した。
ただ圧巻されたように忍をじっと凝視していたが、我に返ったのか―――大慌てになる。
「い、いいって、いいって…!!」
「そうそう!!なんか押し売りみたいになっちゃったしさ…!!」
二人とも頭と両手を左右に振って、同じ動作をロボットのように繰り返していた。
「―――いいえ、お陰さんで助かりますわ」
「…。相当困ってたんだな…君…」
「で、でもさ、俺達が言うのもなんなんだけど、そう簡単に信用しちゃって大丈夫?」
まさかこんなにもあっさり頷かれるとは思っていなかったのか、拍子ぬけしたように茶髪男は忍に尋ねた。
「え?信用したらあかんのですかぇ?」
「いやっ!!そんな事はねぇんだけどよっ!!この辺りってさっきも話した通り、物騒な場所だろ?――――あんま信用し過ぎない方が、いいぜ……?」
もし俺達が騙そうとしていたらどうするんだ―――そう金髪の男が忍を戒める。
「ふふ……おたくらウチを騙そうとしとるん?―――それはえらい困りますわぁ。ほんまウチ、おたくらだけが頼りなんよ……」
金髪の男と茶髪のピアス男は互いに顔を見合わせて目を丸くすると、肩を竦めたり、苦笑を零したりとそれぞれの反応を見せる。
ふいに金髪の男が、閉めた筈の蛇口から水が一滴零れてしまったかのように、小さく吐息を零した。
「…弱ったなぁ。これじゃ、ほんと見捨てるなんて出来やしねぇよ……」
しかし、それは忍の耳に入る事は無く、人気の無い寂しい裏路地に白い吐息と共に隠れて消えてしまった。
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