忍少年と碧血丹心 023

「―――『キング』<王様>。どうかな…?」

誰もが期待に目を輝かせる中、その男はスポットライトにでも当たっているかのように注目されている。
『キング』はずっとこの事の成り行きを見ていたのか、椅子を半回転させて、カウンターに背中を預けた姿勢でグラスを呷っていた。
長い足を組んでいる様は本当に絵になっているから憎たらしい。
それも思わず感嘆がもれるほどに。
どこか澄ましたような笑みをうっすらと唇に乗せ、忍をそこから見下ろす。

それが今の忍と男の距離だった。

この場所は男のテリトリーであり、縄張りであり王国。
この男の言葉一つで彼らは動き、実行する。
それも善悪関係なく、疑問も抱く事無くどんな事でもするに違いない。
いわば、この状況の命運はこの男が握っているのである。

「忍さん…」

後ろのカウンターでは、顔を曇らせ、苦虫を潰したような顔をした『ユウジ』が痛々しそうに事を見守っていた。
しばらく沈黙が流れる中、男が揺らすたびにグラスと氷がぶつかり合う涼しい音だけが響く。

ただ口を一の字に曲げて、忍はその男を―――『キング』を睨むように凝視した。
男の黄金色と忍の緋色がぶつかり合う。

「―――忍、お前どうするよ。男の面子掛かってるぞ」
「俺はやりません。後ろ指刺されて笑われる屈辱を味わう方がよっぽどいい…」

「勘違いされたままでも、か…?」
「―――馬鹿にせんといてください…。ウチはなんも悪い事はしとりません。毅然としている事のなんがおかしいん……?」

そこに見栄も何も無い。
己の存在は己で肯定するとばかりに、忍の態度は気持ちが良いほど据わっていた。
対立する龍と虎のように、じりじりと火花が散っているような雰囲気の中―――先に目線を逸らしたのは男だった。

ふっと笑みを零し、グラスをカウンターに置く。

「―――そうだな……。ソイツが女抱けるのか、興味はある」
「おい、『キング』!!冗談にもほどがあるだろ!?止めさせろよ!!」

鋭くユウジが啖呵を飛ばしたが、その声を上乗せするだけの狂喜の声が、手笛と共に響いた。
好奇心から見て見ぬふりを決め込んだ『キング』から許可を得たと、周りは認識したようだ。

展開は間違いなく『最悪』へと向かっている。

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