忍少年と碧血丹心 021

「わー。すっごい重い空気ー」

それは同性とは思えない、可愛らしい声だった。
飛び跳ねて転がりまわりそうな、活発的な印象すら抱く。
忍がゆるりとその軌跡を辿るように頭を上げると、そこには予想を裏切らない、庇護欲を煽りそうな少年が立っていた。
こげ茶色の髪は首に巻きつけられるぐらい長く、目が合うなり、人懐っこそうな茶色の瞳がにっこりと微笑む。
けれどそれを裏切って、服装は攻撃的な印象が強い黒で統一されている。
それは先ほど『幹部席』と称していた場所でソファに跨っていた少年だった。
その小さい子を見て、忍の隣でセクハラ紛いの事をしていた男がほっと息をついた。
まるで救世主にでも出会ったかのように、安堵の表情を浮かべている。

「ナオさんっ!!」
「―――ねぇ、そこ譲ってよ。俺そこに座りたい」

『ナオ』と呼ばれた少年が指差したその先には、例のセクハラ男が座っていた。

「どうぞどうぞ!!お座り下さい!!『ナオ』さん!!」

それこそマッハ並みの速さで男が席を立てば、「やったぁ」と歓声を上げて『ナオ』は忍に抱きついた。
しかし馴れ馴れしく密着されても、先ほどの男のような嫌悪は抱かない。
これがナオにとっては普通の事なのだと、甘えてくる彼を見て、忍は素直にそう思ったのだ。
ナオは子供がぬいぐるみを抱くように嬉々と頬を染めながら―――

「やっとお話しが出来そうだねっ、しのぶ!!」
「え、えっと…あなたは?」

「あっ!!俺『ナオ』って言うの!!ここの幹部やってるんだぁ〜。よろしくね☆」
「…こちらこそ」

小さな手を差し出してきた相手に返すように忍も左手を差し出せば、それこそ花が咲き綻ぶような笑顔をナオは見せた。

「―――分かるよ分かる〜。俺もさ、こんな容姿だからよって集って来る男達に言い寄られるんだよねぇ。『女になってくれ』って。…―――あ、悪いけどさっきの話聞いちゃった☆本当にうざいよねぇ。なんか俺達気が合いそうだ」

ナオの無邪気な笑みを見て、先ほどの積み上がった怒りが崩れていくのを忍は自覚して、息をつく。
その瞳の炎は和らぎ、おろおろと困ったように眉を下げる忍に、ナオは更に抱擁を強くした。

「この初心な反応、なんか新鮮!!」
「はぁ…」

「―――けどさぁ、ここの連中って口でいくらどう説明しても分かってくれないんだよねぇ。だから、こういう時は行動で証明しなくちゃ。徹底的な証拠を見せ付けるんだよ。『俺は男だぁ』ってねっ」
「…行動…ですか…?」

忍の腕に絡みつき、猫のように顔を摺り寄せているナオが一瞬、その笑みに邪心を宿したが、それも直ぐに可愛らしいベビーフェイスの中に隠れてしまった。
顔を上げて、目を輝かせながら忍を見上げるのである。

「そうそう。行動。結構さ、ほら吹き野郎とかいるでしょ?ここではそういう奴は信用しないんだよ。精々笑ってスルーしちゃうかな。だから『俺はすごい奴だ』って証明するには口よりまず行動で示すもんなのよ」
「ええ。確かに、そちらの方が信用性もあっていいですね…」

どこと無くぎこちなさそうに忍が相槌を打てば、そうでしょ、そうでしょ、と益々ナオの機嫌は上昇した。

「忍に理解力があって良かったぁ」

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