負けたくない!
「君は気付かないけど」の続編っぽい感じです
こんなにもぐったりとした彼の表情を見たことがある者は、どのくらいいるだろうか。
「セシル、大丈夫…?」
「…ああティナ、大丈夫だよ」
そう彼は告げても、いや、その告げた言葉すら、どこか暗さと疲れが滲んでいた。
理由は、今この状態が物語っている。ティナがバッツから借りた上物の赤いドレスに身を包んでいることは、さほど関係ない。問題は、彼女の視線の先。これまたバッツが持ってきた水色のドレスを着た、美しいこの人は…セシルであるということ。
(私が悪かったのかな…)
先程まで女装した二人に目を輝かせていた自分を、侮蔑するわけではないが、少なくとも彼には悪かったろうと反省する。
「ごめんなさい、私がセシルとバッツのことをうらやましいって言ったから…」
「ティナは悪くないよ。君を元気付けてあげたかったのは本心なんだし。まあこの格好には抵抗があるけどね」
「ううん、すごく似合ってるわ。私より…綺麗だし」
う、とセシルは言葉に詰まった。実は、少し傷ついてもいた。
綺麗、と言われても自分は男であるし、望んでこの格好をしているわけでもない。だが彼女が必死で探した励ましの言葉は、彼の男らしさよりも美しさが際立っている現実を突きつけるものだった。
「僕より、君の方が綺麗であるべきだよ」
「でもきっと、セシルには敵わないもの」
「じゃあ、これなら?」
優しい手が、ティナの頬を包む。
そしてお互いの額を触れ合わせ、セシルは語りかけるような口調で唱える。
「ティナが僕よりも美しく、綺麗でありますように…」
「…セシル、これは?」
「おまじないさ。信じ続けていれば、きっと叶うんだよ」
その微笑みは眩しく、声は胸に染み渡り、触れた手は心地よかった。そのひとつひとつが彼女を潤していくように。
そうか、あなたは、心も美しいのね。
「セシル、私…負けないから。あなたにも、自分にも!」
越えたい、あなたの美しさを。