Spring | ナノ
第47球
合宿三日目。
連日の疲れが残っているのか、大好きなバッティング練習で思うような結果が出なくなってきた。
「(あーダメだ…)」
俺はあんまりごちゃごちゃ考えながら打つのは得意ではない。
高校に入ってからは挑戦も兼ねてコースや球種も考えるようにはしているけど、練習ではいつものように来た球を好きなコースにひたすら打ち返しているだけだ。
「(っ、またボテボテ…)」
だからこそ、反射というか…反応が全てなところがある。今日は頭に靄がかかっていて、きた!打つ!といういつもの流れが上手くいかなかった。
「おい氷上!さっきから全然内野抜けてねーぞ!!」
「わ、わかってます!…ぐ、」
「振り遅れてんだよ!代われ!」
「…っ、…え」
ぐいっと背中を引っ張られ、打席から追い出されてしまった。俺に代わり、先輩が打席に入る。
自信満々だけど、合宿も中盤に差し掛かってるんだ。いくらこの人だって流石に疲れが溜まって…
「らっしゃぁぁ!」
「…は、はは」
ーーなんて、考えた俺がバカだった。
今までの俺のボテボテ具合を嘲笑うようなホームランを放たれて、乾いた笑いが漏れた。
「(すげー…かっけー…)」
小学生のような感想だけど、素直にそう思った。
俺は今後この人と同じポジションで、この人の隣で、試合をするんだ。それはすごく心強いし嬉しいけど、でも、今の俺には力不足のように思えた。
「(今は、だけどな…)」
不思議と、この間のように不安な気持ちにはならなかった。そのことに関して思い切り悩んだ結果、腹を括ったのが良かったのかもしれない。
ふと耳を済ますと快音を響かせているのが伊佐敷先輩だけではないことに気がつく。
「(やっぱここ…レベル高え…)」
青道には自分に出来ないことを簡単にこなしてしまう人たちが山程いる。なんだここ。化け物ばっかじゃん。すげー楽しい。
「お前何ニヤニヤしてんの…」
「っ、(やべ…顔に出てたか…)」
倉持先輩に指摘されて、慌てて真顔に戻す。
もっともっと上手く。
まずは、この人たちの足を引っ張らないレベルまで。大きく深呼吸をして気合を入れ直す。
「もう一回お願いします!」
「ヒャハっ、お前次盗塁練だろ」
「早く行きなよ。壊滅的に下手なんだから」
「…はい」
疲れが溜まってからのバッティングに盗塁。守備だってまだまだだし、肩もしっかり作りたい。
山積みの課題を抱えて、合宿三日目を終えた。
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