雨模様 | ナノ
第5話

神様のような人だとおもった。

困っているときに颯爽と現れ何の見返りもなく助けてくれた彼に御礼を言えていないことに気がついて慌ててその背中を追いかける。

「あの…あ、りがと…」

たったこれだけのことを言うのに緊張してしまう自分が情けない。神様は白銀の髪と大きな猫目が特徴的な私と同い年くらいの男の子。堂々としていて、私とは大違いだ。

「べつにいいよ。つーかお前毒入ってんの気付いてたろ?あのまま飲んでたらけっこーヤバかったぜ」

「そ…のことなんだけど、だ、大丈夫…?毒、たくさん飲んで…水とかで、中和…できないかな」

「ぶはっ、水で中和!?無理無理!それに、んなことしなくてもオレは毒じゃ死なない。さっきもそう言ったろ」

たしかに彼は先ほどもそう言っていた。俄には信じられない言葉だけど何か特別な事情があるのだろう。現に彼は強がる様子もなく普通に笑っている。本当に大丈夫そうで安心した。

ケラケラと明るく笑う彼を見て、心が温かくなる。そういえば自分の言葉で誰かが笑うのを見るのは初めてだ。

「はー笑った。お前さ、その完全防備どうにかなんねーの?それのせいですげー不気味。最初冗談抜きでゴミ袋かと思ったっつーの」

「ゴ、ゴミ袋……」

ゴミ袋に見えていたのは予想外だったけど、それはそれでいいかもしれない。不気味に見えているなら人が近寄ってくることもないだろうし好都合だ。

私には身体的な特徴がほとんどない。これらを外してしまえばただの子どもなのだ。興味本意で話し掛けられても私にはそれに応える術がない。視線は泳ぐし、吃ってしまう。それならいっそのこと無機物に見えていた方が幾らかマシだ。

「……ごめん…むり…」

「ふーん。変なやつ」

普通じゃない自覚はあったけど改めて言葉にされると少しだけ悲しくなった。




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