雨模様 | ナノ
第38話

私たち全員が試しの門を開けられるようになるまでにそう長い時間はかからなかった。修行を終えた私たちはキルアを迎えに行くために山の中へ入っていく。しばらく歩いていると遠くの方に女の子の姿が見えて来た。彼女はどうやらここから先に侵入者を入れないために配置されている使用人らしい。

「オレたち君と争う気は全然ないんだ。キルアに会いたいだけだから」

「理由が何であれ関係ないの。私は雇い主の命令に従うだけよ」

その子はステッキで地面を叩いて「ここを超えたら容赦しない」と冷たく言い放った。言葉通りゴンが指定した敷居を超えた途端にステッキで攻撃を仕掛けてくる。

向こうがその気ならと臨戦態勢に入った私たちをゴンが制し、再び彼女の方に向かっていく。敷居を超えては殴られそれでも彼女に近づくことを止めないゴンに彼女の方が動揺していた。

「いい加減にして!無駄なの!わかるでしょ!あんた達も止めてよ!」

彼女はきっと優しい人だ。ゴンを殴るたびに自分が殴られているかのような辛い顔をする。

「なんでかな。友達に会いにきただけなのに…キルアに会いたいだけなのに…なんでこんなことしなきゃいけなんだ!」

ゴンの言葉が彼女の胸を打ったのか彼女はステッキを地に落とし小さく呟いた。

「お願い…キルア様を助けてあげて」

その言葉とほぼ同時にどこかから銃声が響き目の前にいた彼女が突然頭から血を出して倒れてしまった。慌てて駆け寄って安否を確認する。良かった。息してる。

弾が飛んで来た方を見るとそこに居たのは目に不思議な機械を嵌めた女の人とおかっぱの子供だった。

「全く使用人が何を言ってるのかしらまるで私達がキルをいじめてるみたいに。ただのクソ見習いのくせして。あなたがゴンね。イルミから話は聞いています。三週間位前からあなた方が庭内に来ていることもキルに言ってありますよ」

聞き覚えのない名前に首を傾げる。文脈からしてイルミというのはキルアのお兄さんのことだろうか。ギタラクルは偽名だったのかもしれない。

「キルからのメッセージをそのまま伝えましょう。”来てくれてありがとう。すげーうれしいよ。でも今は会えない。ごめんな”紹介が遅れましたね。私キルアの母です。この子はカルト」

キルアに会えない理由を訊ねてみると「今キルアが独房にいるから」と返ってきた。益々心配だ。色々情報を聞きたかったけど遠回しに帰れと言われてしまってそれも出来ず、途方に暮れる。

二人の後を尾行ければ会えるのかもしれないけどそれがバレれば使用人の彼女が責任を取らされてしまうだろう。彼女に目線を移すと頭に怪我を負っているのに起き上がろうとしていた。

「っ、あ、怪我…」

「これくらい大丈夫。私が執事室まで案内するわ。そこなら屋敷に繋がる電話があるからゼノ様がお出になられればあるいは…」

「まだ…歩くのは…私が抱えて」

「それは貴女が大丈夫じゃないでしょう」

頭に怪我をしているというのにしっかりとした足取りで歩く彼女はやはり只者ではないのだろう。私たちは彼女の厚意に甘えて執事室まで連れていって貰うことにした。




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