雨模様 | ナノ
第23話
受験者を探すために森の中を歩き回っていたら、戦闘中のキルアを発見した。
「おっ、ハルじゃん」
加勢するために近づいたのだがどう見ても必要なさそうだった。「ちょっと待ってろ。すぐ終わるから」という言葉通り楽々と相手を倒したキルアに思わず拍手を送る。三体一でこれって…本気を出したらどれだけ強いんだろう。
「お前今何点持ってる?」
「…5点…。自分のも入れて…」
「んじゃこれで6点目だな」
プレートを差し出してニッと笑うキルア。その意味を理解して、慌てて首を横に振って拒否の意を示す。加勢をしたならともかく、見ていただけの私が受け取れるわけがない。
「なんで?お前まだ合格基準まで行ってないじゃん。切羽詰まった時にオレのプレートを狙われるよりずっと良いんだけど」
「っ、そんなこと絶対…しない…!」
なるべく避けたいけれど試験に受かるためには仲間のプレートを狙わないといけない時もあるだろう。クラピカの誘いを断ったのも切羽詰まった時に自分が彼を狙ってしまう可能性を否定できなかったからだ。
でもキルアだけは違う。合格する手段が彼を狙うことしかないなら、私は不合格でも構わない。必死に否定するとキルアは「ん、ごめん。わかってて言った」と悪戯ぽく笑った。
「んじゃあとは捨てちまうか」
キルアはプレートを持ったまま振り被ると一つを西の方へ、そしてもう一つを私に向けて投げた。理解するより先に目の前に迫っていたものを受け止める。しまった、受け取ってしまった。
「ナイスキャッチ」
満足そうに笑うキルアを見て、わざと避けられないくらいのスピードで投げたのだと察する。
「ついてるなーお前。オレが捨てたプレートを偶然拾うなんて」
「こんなの、…ずるい」
「ズルくねーよ。運も実力のうち、だろ?」
それは間違っていないと思うけどこの状況を運が良かったという一言で片付けていいのだろうか。私が集めたのは1枚だけ。それもクラピカとの共闘でほとんど苦労していない。
「それに試験はまだ終わってねーよ。試験終了まで守り抜いてようやく合格だからな。しっかり守れよ。オレは助けてやんねーからな!」
「…え、あ、私たち…これでお別れ…?」
キルアを発見した時、当たり前のようにこの先も一緒に居ていいものだと思っていたから別行動を感じさせるキルアの言葉に驚いて思っていたことが全部口に出てしまった。自惚れていた自分に恥ずかしくなる。キルアほどの実力者だったら足手まといの私がいるより独りで行動した方が合格する可能性も上がるだろうし、何より残り数日とはいえ私と2人でいるのってよく考えたら苦行でしかないじゃないか。
ーーでも、私はキルアと一緒にいたい。悪足掻きかもしれないけど聞くだけ聞いてみよう。
「あの、敵が来た時…私が戦うし…なるべく迷惑かけないようにする…から、残り時間一緒に居させてほしい…だめ、かな…」
「〜〜〜っ、」
露骨に嫌な顔をされてしまったら落ち込みそうだったので俯きながら話す。「はぁ…ずるいのはどっちだよ…」とため息まじりの言葉が聞こえて来て、慌てて顔を上げた。キルアを利用するつもりなのだと思わせてしまったかもしれない。早く訂正しないと。
「あ、あの、私キルアと一緒にいたい」
「あーー何度も言わなくていいっつの!ていうかオレ、こっから別行動なんて言ったか?そんなつもり全くねーけど」
「…そう、なの?」
「当然だろ」
この当然は「一緒に居ること」にかかっているのだろうか。本人に確認してもいないのにそう考えるだけで嬉しくてつい口元が緩んでしまう。「なにニヤニヤしてんだよ」と頬を摘まれても痛くも痒くもなかった。しつこいようだけど誰かと一緒に過ごすことを許されるのは奇跡みたいなことなんだ。それを何度も許してくれるキルアに私はまた甘えてしまう。この人への恩を返しきれる気がしない。
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