雨模様 | ナノ
第19話

キルアを見送ってすぐにハンゾーと別れた私は隅の方でこっそりと引いた番号を確認した。誰かと一緒に見るのが嫌で一人になったけどそうして正解だった。ゴツンと壁に頭を打ち付けて、そのままズルズルと座り込む。

バカ。バカ。やってしまった。大分絞られてるとはいえ合格者は他にもたくさんいるのにどうしてこの番号を引いてしまうんだ。

「すげー音したな!大丈夫か!?」

「キ…ルア…」

「あーあ、赤くなってんじゃん」

見上げるといつの間にかキルアが近くまで来ていた。目線を合わせるようにしゃがんで私の前髪をかき上げ赤くなっているらしい箇所を軽くさする。顔が近くて思わず息を呑む。こんなに近くで誰かの顔を見たことがなかった。

固まる私を見てどう思ったのか「っ、あーーーあとで冷やしとけよ」と突然手を離しそっぽを向くキルア。その耳が赤くなっているのを見て「キルア、怪我…?耳…」と言うと「オレのはちげーの!」と返ってきて怪我でもないのに赤くなるなんてどこが悪いんじゃ…と心配になってきた。

「で?どうしたんだよ」

「……くじの、番号が」

誤魔化そうと思ったけど察しの良いキルア相手に隠し通せる気がしなくて引いたカードを手渡した。

「お前、これ…」

404と書かれたカードを見てキルアが目を見開く。

「クラピカに言ったか?」

「い、わない…考えた、けど、クラピカと戦いたく…ない…避けられるなら、避け、たい…」

今回の試験は仮にターゲットからプレートを奪えなくても他の人から奪えば合格することができる。大変かもしれないけど他に道があるならそれを選びたかった。

「ふーん。お前はクラピカ相手でもそういう方法選ぶんだな」

「……?あ、そうだ…ええと、…キルアのターゲットって…だれ…?あの、も、もし私…だったらプレート…あげる」

キルアにはお世話になりっぱなしで恩ばかりが積もっていく。どこかで返したいけれどこのままだと返さないまま試験が終わってしまいそうだ。即物的なもので申し訳ないけど、これなら少しだけ恩返しになるかもしれない。つっかえながらそう続けると「バーカ!」と額を小突かれた。

「恩返しなんて試験終わってからでも遅くねーだろ」

「……それだと、…間に合わない」

「間に合わない?なんで?」

私の身の上なんて話すべきじゃない。面白くもないし上手く話せる自信もない。それでも聞いてほしいと思うのはどうしてなんだろう。

「…な、長くなる…し、つまらないし…き、聞きづらい喋り方…しか、できないけど、…話しても、いい…かな…」

「当たり前だろ!」

その言葉と態度に背中を押され、ゆっくりと自分の身の上を話し始めた。

私は今の家族の誰とも血の繋がりがない。義父と義母はそんな私を娘とは認めてくれず家の裏にある小さな倉庫で一人で暮らしていた。食事は時間になると入り口に置いてあったけど、それは決められたお金を渡さないと貰えなかった。

中々勤め先が見つからなくて困っているところを助けてくれたのが骨董屋の主人だった。主人は店を空けていることがほとんどだったけど、たまにふらりと新しい商品を持って帰ってきては裏で本ばかり読んでいる不思議な人だった。私に身を守る術を教えてくれたのも彼だ。

『ハンター試験というのがあるらしい。それに受かれば莫大な金が手に入る。受かるまで帰って来るな』

義父は私が力を得たことを知ると、それだけ言って私を家から追い出した。私はハンター試験に受かったらハンター証を売って得たお金を義父に渡し、それから先は今までと同じ生活をしなければならない。そこに自由はない。だから今のうちにキルアに恩返しをしておきたいのだ。




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