雨模様 | ナノ
第14話
あーもー最悪。何でこんなタイミングでハルに会っちゃうかなー
目の前に散らばる無惨な死体の欠片とその死体の向こうから歩いて来たオレとをハルは交互に見ていた。
「キルア…これ…」
「見てたろ。オレが殺ったんだ」
こいつらに何かされたわけじゃない。ただ単にオレの機嫌が悪かっただけ。世間一般でいう殺人の動機に全く当て嵌まらない事は分かっているけどオレの中ではこんな些細な理由で出来てしまうくらい日常的なことだった。
「オレさ、こーゆーことすんのに何の抵抗もないんだよね。大した理由がなくても人殺せんの。イカれてんだろ」
「………」
「あーあ。誰も居ないと思ったんだけどなあ。お前全然気配ねーから気付かなかった」
オレがどれだけ喋ってもハルからは何も返ってこない。
「逃げなくていいの?オレ今すげー機嫌悪いからハルのことも殺しちゃうかもよ」
沈黙に耐えられなくて言わなくて良い事まで言ってしまう。それでもハルは何も言わなかった。怯えた様子もなければ逃げる気配もなくただただまっすぐにオレを見ている。言葉とは違う本当の気持ちを見透かされそうでこちらから視線を逸らした。
「…あ、あの、…私は…」
ハルが慎重に言葉を選びながら話し出す。面と向かって拒絶されるくらいならあのまま怯えて逃げて欲しかった。全部知った上で受け入れてほしいなんて、虫のいい話すぎて願う気にもならない。
「良かった、と、思って…る」
「………はあ?」
良かった???想像すらしていなかった台詞を一度では理解出来なくて間の抜けた声を出してしまった。
「その…キルアが…無事で…」
こいつ…本気で言ってんのか…?こんなの目の前で人が理由なく殺されて、これから自分も殺されるかもしれないって状況で選ぶ台詞じゃない。
「お前なぁ!そこはフツー怖がったり怒ったりするだろ!?オレの心配してる場合かっつーの!」
「……?」
全くわかっていなそうな態度に目眩がする。こいつ、やばい。見た目以外は普通のやつかと思っていたけど善悪の感覚が完全に狂ってやがる。
「お前、やっぱり変なやつ」
「……ええと、…その、…ごめん」
「謝んなくていーよ。褒めてんの」
「褒め……?」
もしかしたらハンターになろうなんて考える人間にまともなやつなんていないのかもしれない。ハルがいいなら普通に接しよう。
「オレこれからシャワー浴びて飯食うけどお前も一緒に来るか?」
「…いきたい」
「ん、早く行こうぜ」
そのあとそれぞれシャワーを浴びて一緒に飯を食いながら自分の生い立ちや家業について話をした。暗殺を生業にしている一族がいるという初めて聞く事実に驚いた様子は見せたもののオレへの態度が変わることはなかった。ハルがもしまともな感覚を持っていたら間違いなくオレから距離を置いていただろう。
「あーそうだ。さっきのアレ、嘘な。お前のこと理由もなく殺したりしねーよ」
「!、…ありがとう。うれしい」
今までと変わらない遠慮がちな笑顔を向けられたことにホッとした自分に驚いた。なんだ。オレってハルのこと結構気に入ってたんだな。
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