雨模様 | ナノ
第12話

いやいやスシが作れないから全員不合格って。告げられた瞬間からわかりやすく落ち込むハルに「さすがに救済策ぐらい設けるだろ」と声をかける。案の定ハンター協会の会長だっていうジーサンが現れて、再試験を行うことになった。

飛行船で山の頂まで連れてこられたオレたちはそこで再試験の説明を受ける。谷の間にあるクモワシの卵を1つだけ取り岩壁をよじ登って戻って来て、その卵を使ってゆで卵を作れば良いそうだ。

「あーよかった!」

「こーゆーのを待ってたんだよね」

「走るのやら民族料理よりよっぽど早くてわかりやすいぜ」

躊躇なく谷に飛び込んでクモワシの卵を回収する。それを巨大な鍋に入れて茹で上がるのを待っている最中にふとハルの姿が見えないことに気がついた。

「あれ?ハルどこいった?」

嫌でも目立つフードと黒マントを探したが見当たらなかった。まさかあいつに限ってこんな簡単な課題に躓くとは思えない。

「あっいたいた!鍋に隠れてるよ!」

ゴンの指差す方を見ると鍋の後ろから風に靡いている黒マントがちらちらと見え隠れしていた。ハルっていつも気配感じないんだよなぁ。気配で探せないって結構厄介かも。

「ゴン、オレたちもあっち行こうぜ」

「そうだね。ちょうど茹で上がったみたいだし」

出来上がったゆで卵を持ってハルが隠れている鍋に移動する。ハルの側にはクラピカやおっさんがいて、3人で卵が茹で上がるのを眺めていた。

「!、キルアだ」

いち早くオレの存在に気がついたハルがこちらに駆けてくる。

「オイオイ随分懐いてんな。俺のことはいまだに怖がってんのに。クラピカのことはそうでもないのによ」

「レオリオは最初から距離が近すぎるんだ。怖がられて当然だろう」

たしかにハルのオレへの態度は「懐く」という言葉が一番しっくりくる。すっかり心を許されていて逆に戸惑ってしまう。オレの側が安心するって……ほんと物好きなやつ。

「そろそろ頃合いだな」

「っし、湯からあげるか。ハルも出すぞ」

「うん。っ、うわ、わ…」

3人が卵を鍋から出そうとした瞬間、狙ったかのように谷底から突風が吹いた。背伸びをしていたハルがバランスを崩して風に煽られたのを見て咄嗟にその肩を支えると、手に生地以外の何かが触れる。

「(髪…?)」

色素の薄い肩くらいまで伸びた髪が風になびいているのを見て、ようやく気が付いた。

「お前、女だったのか!?」

「男の子だと思ってたの!?」

今頃気がついたオレに対して「信じられない」と言わんばかりの表情を向けるゴン。いやいやいや普通わかんねーって。見た目から性別に関する情報何も入って来ねーじゃん。

ざわつくオレたちを他所に当の本人は「留め具…飛んでった…」と呟きながら呆然と空を仰いでいた。




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