雨模様 | ナノ
第10話

二次試験会場の扉はいつまで経っても開かずオレたちはすっかり待ちぼうけをくらっている。戻ってきたゴンたちと合流して他愛のない話をしながら時間を潰す。

「そういえばハルと一緒じゃないの?」

「ああ、ハルならその辺散策してる」

興味津々といった様子でその辺に咲いてる花や飛んでる虫を見ていたハルに「近くで見てくれば?」と声をかけたら「…行ってくる」と頷いて森の中に駆けて行ってしまった。さっきまではオレと一緒にいたいとか言ってたくせに自由なやつ。なんとなく面白くなかったので後は追わずに一人で待つことにした。

「キルア」

「っ、うわ!」

背後の茂みから突然声がして慌てて振り向くとハルが立っていた。うそだろ…気が緩んでいたとはいえ全然気が付かなかった。何度か思っていたけどこいつの気配の消し方は完璧すぎる。ぜってー素人じゃない。

「…猫、みつけた。キルアに…似てる…」

「はー?どこがだよ。毛色だけじゃん」

「いや目も似てるよ!その辺にいたの?」

隣にいたゴンがやりとりに気が付いて会話に加わるとハルがわずかに強張った。ゴンもそれに気がついたみたいで「急に混ざってごめんね」と頭を下げる。それを見てハルも「ち、ちが…ごめ…慣れてなくて…」と言いながらさらに深く頭を下げる。

「なんでお前ら頭下げあってんの?」

「おい。不躾に混ざるな」

そこにハルにとっては初対面のオッサンとクラピカまで加わってしまい、ハルが目に見えて落ち着かなくなる。オレと話している時のハルも最初はこうだった。こうして見るとオレって大分懐かれてるよなあ。

「もうすぐだね」

「うん」

正午ちょうど。閉ざされていた扉がゆっくりと開く。

大柄な男と小柄な女が立っていて、二次試験の説明を始めた。そいつらの話によると試験は二段階に分かれているようだ。一段階目はこの森に生息している豚を捕まえて丸焼きにすること。楽勝だな。

「二次試験スタート!」

その言葉と同時に視界の端を黒マントが過った。

「やる気満々だな」

「…受からないと…だから…」

ハルは隣に並んだオレを一瞥して、そう呟く。今にも泣き出しそうな声色に驚いてその横顔をまじまじと見てみたが、表情からは何も読み取れなかった。

「父親のためだっけ?」

「……。…キルア、豚いた」

意図的に無視したのか、豚を見つけたタイミングと被ったから答えられなかったのか、どちらかはわからない。ただ父親の話題を振った瞬間にハルの空気が張り詰めたのは確かだ。ハルにとって父親の話題はタブーなのかもしれない。

「ハル終わった?」

「…ん、終わった」

あまりにも簡単に豚を捕らえられて拍子抜けする。ハルも隣で細い腕をいっぱいに伸ばして豚を持ち上げていた。オレにとっては簡単だけど周りには苦戦を強いられてる参加者も少なからずいる。ハルってこんなに弱そーなのに結構強いんだよな。

「終ー了ー!」

結果的に70名の受験者が合格したようだ。ゴンやクラピカたちも問題なく合格している。さ、次はあの女の方の試験か。

「二次試験後半。あたしの試験は…スシよ!」

試験官の言葉に首を傾げる。…スシってなんだ?




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