雨模様 | ナノ
第8話

ハンター試験が始まってからどのくらい経っただろう。何百人もの受験者を抜き去ったオレとゴンはいつの間にか先頭集団に混ざっていた。数メートル前に試験官の姿が見える。そのすぐ後ろに物凄く見覚えのある真っ黒な塊を発見したオレは、そいつに声をかけるために更に速度を上げた。

「よ、さっきぶり!いねーと思ったらちゃっかり先頭走ってんのかよ。意外とやるじゃん」

「…っ、あ、さっきの…え、先頭…?周りにもたくさん…あ、あれ…?だれも、いない…?なんで…」

ゴミ袋はまずオレに声をかけられたことに驚き、次に先頭という事実に驚いて、さらに周りに誰もいないことに焦りだした。さっき会った時は全然わかんねぇと思った感情がなぜか今は筒抜けで、そこで初めてこいつがマスクを外していることに気が付く。

「お前マスクは?」

「……あ、ええと…あ、のあと…とっ…た…」

声ちっさ!最後の方は消えかけていてほとんど聞こえなかった。マスクがないから口の動きでなんとなくわかるけど、こいつとの会話って難易度高いよなぁ。

「追いついた!」

少し会話をしている間にゴンが追いついてきて、オレたちの隣に並ぶ。ゴンは怪しすぎるゴミ袋の装いに驚く様子もなく「初めまして」と人懐っこく笑った。

「オレはゴン!君の名前は?」

「…っ、あ…な、名前…。…ハル」

名前を呟いたその声もすげー小さくて危うく聞き流しそうになった。どうやらハルというのがこいつの名前らしい。

「よろしくね!ハル」

「あ、オレはキルア。よろしく」

「…う、ん…キル、アと…ゴン…」

ゴミ袋改めハルはオレたちの名前を復唱しながら小さく微笑んだ。

「いつの間にか一番前に来ちゃったね」

「うん、ペース遅いんだもん。こんなんじゃ逆に疲れちゃうよなー。ハルは?結構追い抜いた?」

「…さ、最初から…試験官のすぐ側…に、いて…そのまま…追いかけ、てる…」

「ふーん。ずっと先頭ってわけね」

こいつって一番謎かも。試験官は大人が全力で走っても着いていけないくらいの速さで進んでいる。先頭集団も息を切らしていたのにこいつはまだまだ元気そうだ。まぁゴンも元気そうだしオレも元気だからこいつだけが飛び抜けているわけではないけど。つーかむしろ他が疲れすぎ。先陣を切っているのが全員子どもって……

「ハンター試験も楽勝かもな。つまんねーの」

少しは暇潰しになるかと思ったのになぁ。

「2人は何でハンターになりたいの?」

「オレ?別にハンターになんかなりたくないよ。ものすごい難関だって言われてるから面白そうだと思っただけさ。でも拍子抜けだな。ハルは?」

「……義父に、言われた…から」

ハルはそれだけしか言わなかった。あまり触れられたくない話題だったのかもしれない。ゴンもそれを感じ取ったのかそれ以上は聞かなかった。

「ゴンは?」

「オレの親父がハンターをやってるんだ。親父みたいなハンターになるのが目標だよ」

それから他愛のないことを話しながら試験官のあとを追いかけていると、あっという間に出口が見えてきた。敵とか出てくるのかと思ってたのにもう終わり?やっぱハンター試験楽勝かも。




×
- ナノ -