日常 | ナノ
86日目(月曜日)

今日は仕事後にミツバさんとお茶をしたのだけどそこで衝撃的な話を聞いてしまった。日記に書こう思う。

私と会った日、ミツバさんは急に体調を崩して緊急入院し、しばらくの間生死の境をさまよっていたらしい。「お医者様から「助かったのは奇跡だ」って言われたの。大袈裟よね」と穏やかではない話を穏やか話すミツバさん。この話を聞いて、先日沖田が憔悴していた理由にようやく察しがついた。そうとは知らず色々と失礼なことを思ってしまった。今日はできなかったけど、今度改めてお詫びをしなきゃいけない。

ミツバさんは「私の話、聞いてくれる?」と小首を傾げ(その所作が物凄く美しかった)、頷いた私を見て微笑むと、色んなことを話してくれた。沖田や真選組の一部の方と武州にいたときのこと。皆と別れた時のこと。結婚が決まっていたこと。それが破棄になったこと。「これまで沢山の人に迷惑を掛けながら生きてきたから、これでようやく安心させられると思ってたのにな。また振り出しに戻っちゃった」と悲しそうに笑うミツバさんになんて声をかけていいかわからなかった。その言葉と笑顔の中に生き延びてしまったことへの後悔の念を感じて、せめてそこだけは否定しなきゃと思ってここ数日の沖田の様子、昨日見た真選組の方々の様子を話してしまった。

あのときは普段険しい顔をしている彼らが揃ってはしゃいでいる理由がわからなかったけど、多分みんなミツバさんの容態が安定して嬉しかったんだと思う。「きっとお姉さんは生きてるだけでたくさんの人を幸せにできるんです。私も今、幸せです」と伝えると、ミツバさんの目が潤み、はらはらと涙を流し始めてしまった。予想していなかった反応に慌てた私は鞄の中にあったいつのものかもわからない包帯を差し出してしまって本当にどうかしていたと思う。これぐらいしか水分を吸収できそうなものがなかったとはいえ泣いてる女性に包帯って。

しかし結果としてこの包帯がミツバさんの手に渡ることはなかった。どこからか現れた沖田が「姉上、これ使ってくだせェ」と綺麗な手拭いを手渡し、私の手から包帯をぶん取ったからだ。姉上に訳のわからないものを渡すなという尤もすぎる言葉に頭を下げることしかできなかった。聞けば、沖田は今日一日ずっとミツバさんを尾行していて、あの時も店内にいたらしい。私が包帯を差し出したのを見て堪らず乱入したようだ。

別れ際にミツバさんに「お姉さんじゃなくて名前で呼んでほしいな」と言われて、その可愛さに激しく胸を打たれた。「またお茶してください。ミツバさん」と返すと「うれしい。ありがとう」と微笑まれて今日1日の疲れが全て吹っ飛んだ。

武州よりも江戸の方が設備が整った病院があるということ、家族の近くにいた方が安心ということでミツバさんは今後、屯所の近くで暮らすらしい。せっかく出会えたのに何も知らないままお別れにならなくて良かった。沖田も、本当に良かったね。また発作が起こる可能性はゼロじゃないけれど、少しずつ良くなればいいな。さ、寝よう!




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