日常 | ナノ
81日目(水曜日)

かぶき町での勤務にも慣れてきて、もう余程のことでは驚かないだろうと思っていたけれどまだまだ甘かった。びっくりした。

今日は神楽ちゃんが昼過ぎに来店してきて「みてみて!卵割り器拾ったアル!」と満面の笑顔で生首を持ってきたのだ。品出しをしていた私は驚きすぎて手に持っていた卵のパックを落としてすべて割ってしまった。中島くんが「ぎゃぁぁああ!!」と叫ぶ声で我に帰った私は慌てて「か、かわいいね」と笑顔を作った。口の端がピクピクするのが自分でもわかったから多分全然うまく笑えていなかったとおもう。

神楽ちゃんは生首をレジに置いて「実はこいつちょっと喋れるアル」と自慢げに鼻を鳴らした。生首をたまと名付けて可愛がっているらしい神楽ちゃん。たまに話しかけてほしいという神楽ちゃんのかわいいお願いを断ることができず「夕崎さん…まじ…?声かけんの…やめといた方が…呪われる…」と私の背後で怯えている中島くんの制止を無視して「は、はじめまして」と声をかけた。反応はなかった。ふと額の真ん中にゴミがついているのが気になって触ってみるとたまは突然開眼して「ドウルルルル ドウルルルル ドウルルルル ドゥーン 」と抑揚のない声で喋り出したのだ。危うく白目を剥きかけた。

中島くんが「うわぁぁぁ!!!」と私の肩を思いきり掴み、その痛みで冷静になった私はもう一度「こんにちは」と声をかける。「残念ながらあなたの冒険の書1 冒険の書2 冒険の書3は消えました」と、した記憶のない冒険の記録が消されてしまって、やばい神楽ちゃんの冒険の記録消した!?と慌てて神楽ちゃんを見ると「叩けば直るネ」と思いきり殴打したせいで吹っ飛ぶたま。店外にまで転がってしまったたまを追いかけ「また来るアル!」と店を去っていく神楽ちゃん。取り残された私と中島くん。そのあとはお互い仕事に身が入らなかった。

「……俺、夢にみそう」という中島くんの言葉を今思い出してしまったせいで私まで夢にみそうだ。どうしよう寝る前に書くんじゃなかった。たま、完全に人間の生首だったけど、どういう原理で存在してるんだろう。昼間にも対応できる新手のおばけ…?今日のところはもうどうしようもないけど、明日境内隅々まで掃除して身を清めよう。寝るか……。




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