日常 | ナノ
70日目(土曜日)

今日はとても危険なことが起きた。昼過ぎくらいに店外から「あ!!!待てその店は!」「お届け物でーす!!!!」という男性と女性の元気な声が聞こえそちらに意識を向けた瞬間、店の窓が割れ、何かが店内に入って来て、品出しをしていた中島くんの背中にぶつかったのだ。「ぐはっ」という漫画でしか見たことない声を上げて倒れる中島くん。店長と一緒に慌てて駆け寄って怪我がないか確認すると「うう、何なんだよ背中痛い」とベソをかいていたが命に別状もなく出血もなかったのが不幸中の幸いだった。

店長は「何かのテロかもしれない」と神妙な顔をしていたので、もしや爆発物なのか?と思って中島くんにぶつかったものの正体を確認すると、それは店長宛の荷物だった。「割れ物注意」と大きく書かれたそれを見て「これはもうテロみたいなものかもしれません」と言いながら荷物を差し出すと、店長は「ああ。なんだ、ただの飛脚か。大丈夫大丈夫。これ自分へのお中元に頼んだ煎餅だから割れてもいいの」と笑った。荷物を持って「大事にならなくて良かった。こういうの自分史に書いといてね」と嬉しそうに裏に入る店長を見て、最近忘れてたけどやっぱりこの人ってかなり変な人だよなとしみじみ思った。

中島くんはしばらく痛む背中をさすりながら「なぁ、これ大事だよな…?俺完全に被害者だよな…?ただの飛脚か…で済む問題じゃないよな…?!」と嘆いていてなんだか可哀想になってきたので「そうだね。今日はもう帰りなよ」と言うと「いやこの後混むだろうし働くけど人来るまで愚痴らせて!」と返ってきた。店長も裏にいるし客もいなかったので了承すると「そもそも普通の飛脚はあんな荷物の届け方しないよな?!ていうか煎餅が割れ物注意ってかかれてるのもおかしいし自分へのお中元ってのも変だし届け先がここなのも変だし俺はどこからつっこめばいいんだ…」と頭を抱えてしまった。退勤するときに湿布と珈琲を渡すと「夕崎さんこういうときは本当まともだよな…ありがとう…」と涙ぐんでいてこんなに弱っている中島くんを見るのは初めてだなと少し感慨深かった。(さりげなく失礼なことを言われていた気もするがまぁいいだろう)背中、何事もないといいけど。

仕事帰りに「生きてる!私、生きてる!」と言いながら何かを窓に向かって投げているお姉さんを見かけて中島くんの身に起きたことの全てを理解した。坂田さんがげんなりした顔でそのお姉さんを後ろに乗せてバイクを走らせていたのでまた何か厄介な事に巻き込まれてしまっていたのだろう。万事屋も大変な仕事だよな。

さ、沢山書いて疲れたしもう寝よう。あ、そうだ。今日は楽しみにしていたギンタさんのフィギュアが家にやってきたんだ。そのお姉さんと銀さんを見かけたときにハッとして「あの少しいいですか?」と声をかけ私宛の荷物を直接もらったのだ。「無理です、私止まったら死ぬんです」とマグロのようなことを言うお姉さんを坂田さんが宥めてくれたのでお礼を言うと「それよりさっきオタクの店の窓割っちまったけど大丈ってオイィィ!!!離せえええ!!」と話の途中にお姉さんがバイクを発進させてしまって猛スピードで視界から消えてしまったので最後まで聞けなかった。はーーフィギュアが無事でよかった。今度こそ寝る。おやすみなさい。




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