日常 | ナノ
66日目(火曜日)

夜勤のパートさんが寝坊してしまったので日付が変わるまで働いていた。これを書いてる今はもう夜の2時だ。眠い。ただ時間が変わればお客さんも変わるもので、今日は例の妖しいお兄さんが来店してきた。そのことを書いてから寝る。

お兄さんが来店した時の私はもう眠くて仕方がなくて、半分寝ながらレジを打っていた。正直その前に接客したお客さんのタバコの銘柄を間違えずに渡していたか危うい。クレームになっていたら店長ごめん。明日の朝番の中島くんもごめん。話が逸れた。そう、その例のお兄さんが来た時の私は半分寝かけていたので「いらっしゃいませ」と言いながらお客さんの顔自体は全く見ていなかったのだ。

にも関わらず、なぜお兄さんだと気がついたかというと、お兄さんはレジ横の機械でいれる温かいコーヒーと肉まんを注文して、支払いを終えた後に、それを受け取らずに去ろうとしたおっちょこちょいな人だったからだ。流石に覚醒した私は「あっ商品…」と品物を持って店を半歩出て、そこで初めて彼がたまに会うお兄さんだということに気がついた。

そういやお兄さん、今日もやたら色気のある着物を着ていたな。何着もってるんだ、私の10倍はもっていそうだ。続けよう。

お兄さんはゆっくり振り向くと「相変わらず、こんな時間まで働いてんだな」と少し呆れた声でそう言った。そういえば前に辻斬りから救ってもらった時もこのくらいの時間になっていたっけ。「ここ24時間営業なので…」「…目、半開きだぜ」「眠くて…」「子供は寝る時間だしなァ」何回かやり取りをすると、お兄さんはからかうように喉を鳴らして笑った。

勘違いしているようなので自分が成人していることを伝える。お兄さんは少しだけ驚いた顔をして「そらァ失礼したな。コーヒーより酒の方が良かったか?」と言ったが仕事中にそんなもの飲めるわけがない。そう伝えると「じゃ、これでいいな」とよくわからない反応が返ってくる。なにがこれで良いのかその時の私にはさっぱりわからなかったので、はぁ…と適当に流して、忘れていった袋を彼に差し出した。しかしお兄さんはそれを受け取ろうとはせず「やるよ」と踵を返す。

やるよ?これを?私に?と予想外の言動に呆けてしまって反応が遅れてしまった。勿論受け取れるわけがなく後を追ったのだが、お兄さんの姿は既に闇に溶け込んでいて。無駄にするのも勿体ないので肉まんとコーヒーはそのあと美味しくいただいた。荒んだ心に染みた。あと目も醒めた。

お兄さん…最初から私に差し入れするつもりでコーヒーと肉まん買っていったのかな…そうだとしたらなんて神対応…!本当にあの人のお世話になりっぱなしだな。なにか恩返しを…って思って色々渡してはいるけど、いつも私が渡した以上のものを貰っちゃって、結局恩ばかりが増えていくんだよね。どうしたものか。ちょっと、明日以降ちゃんと考えよう。今日はもうダメ、眠い。寝よう。おやすみなさい。




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