日常 | ナノ
28日目(土曜日)

私は事件が起きても当事者になることは滅多にない。事件に遭遇しても大変だなあなんて呑気に傍観していることの方が圧倒的に多いのだ。そんな私が今日は珍しく事件に巻き込まれた。しかも結構ヘビーな。

あれはバイトを終えてとぼとぼと家路を歩いていたときのことだった。今日は長谷川さんと二人だった上に夜中に入るバイトさんが中々来なくて遅くまで働いていたせいでもうかなり遅い時間だったと思う。少しでも早く家に帰りたくて近道を使ったのがいけなかった。

背後から奇声が聞こえたので驚いて振り返ると、こちらに向かって誰かが何かを振りかぶっていたのだ。その何かが月明かりに反射したのを見て刀の類いであることはわかったが避けるなんてことが出来るわけがなく、今までの人生が頭を巡ってあーこれが走馬灯かーなんて考えもした。降り下ろされた刀が妙にスローに見えて、その間に死を覚悟したりもした。だけどそれは私に届くことはなかった。なぜか犯人が地面に倒れ込んだから。

もうめちゃくちゃ吃驚して逃げることも忘れて倒れた犯人をガン見していたらいつの間にか今まで犯人が立っていたところに人が立っていてしかもその人から「よォ、また会ったな」なんて声をかけられて益々吃驚した。だけどよく見てみると彼の顔には見覚えがあった。この間祭りで会った眼帯のお兄さんだ。お兄さんは戸惑う私に「こいつァ辻斬りだ。危うく殺られるとこだったな」と状況をわかりやすく教えてくれた。恐らく何らかの方法で私を助けてくれたであろうお兄さんにお礼を言うとお兄さんはふっと笑って私の頭に手を置いた。そしてそのままの状態で「たこ焼き、中々美味かったぜ」と微かに口角をあげたお兄さんに不覚にもときめいた。格好良すぎるよお兄さん。とまあこんな感じで私の濃い一日は終わった。めちゃくちゃ疲れた。もう寝よう。




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