プロローグ

「…そして、女神様は悪い人間を懲らしめ、人民(じんみん)と精民(せいみん)が幸せに暮らせる世界にしてくれたのです。」

小さい頃お母さんはそんな昔話をよくしてくれた。

人民と精民が仲が悪かったなんて話、本当か嘘かわからないけれど、お母さんが物心ついたばかりのころはそうだったらしい。
大王がいて、勇者がいて殺しあって…
そんな戦争が起きていただなんて正直信じられない。
私が生きてるのは人間もスライムもヒナガラスも優しい世界だ。

でも未だに人間を憎んでいる精民、エルフが存在するという話を聞いたことがある。
一生関わりがないだろう。でも、きっとこちらも出会わないようにと心掛ける必要があるのだろう。

旅人や街人でにぎわうこの城下町で私は代々受け継がれているこの薬屋を営んでいた。

話によるとここで販売されている薬のレシピは戦争中から人間と錬金術師と魔法使いで仲良く密かに研究を重ねていたそう。

薬の作り方は、私と母と父しか知らない。
魔法使いの力で、私たち薬屋の子孫は自動的に記憶に受け継がれていく、そんな魔法が掛かっているらしい。
確かに、物心ついた時から薬の作り方がわかり、そしてそれを家族以外に他言できない不思議な力。

そんな愛と優しさと秘密に溢れた薬は全国的にも話題で人気があり遠い国からも足を運んできてくれるお客様がいて誇らしい。


さあ、今日もお店を開きましょう。

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