乙なアイス(消火後)

(これ、意外と美味しいかも)
 アイスの中でも当たりを引いたようだ。一口掬ってみる。「食べる?」と聞いてみれば、ゲーラが反応した。「おう」といって、こっちに身体を屈めてくる。パクッと、こちらがいう間も与えずに食べ終えた。スプーンの上が空になる。ゲーラは体勢を元に戻した。メイスの方を見れば、目が合った。「えーっと」まぁ、気にしてないだろうと思う。スプーンでアイスを掬う真似をしてみた。「食べる? アイス」と単純に聞くと、メイスが目を逸らした。ゲーラは関わる気も一切ないらしく、映画のラインナップを眺めている。なにかを考え込むような間を残したあと、メイスが「そうだな」と頷いた。とりあえず、気にしてはないのらしい。スプーンでアイスを掬って、メイスに渡す。ゲーラと同じようにパクっと食べた。これで両脇にいる分は食べ終えた。残るは、とリオを見る。リオとパチッと目が合った。
「食べる?」
「やめてくれ。間接キスにもなってしまうだろ」
 断られた。どうやら、ボスは気にするようである。居心地の悪そうなリオに、ゲーラとメイスが笑う。朗らかに、というよりは『やれやれ』といいたい感じである。
「なにをいってるんだか。バーニッシュだった頃は散々したでしょうに」
「それを気にするとは、お若いことで」
「あのなぁ。物資が乏しいあの頃ならともかく、今は豊富だろ。わざわざ、回し飲みとかこういう必要がないという話だ」
「確かに」
「まぁ、ななしの場合は食べきれるかって問題はあるが」
「ちゃんと食べきるよ」
「本当か?」
「話半分に聞いた方がいいぜ」
「どうせ、あとでギブアップをする」
 散々ないいようだ。ムッとしてしまう。アイスをスプーンで一口掬って、口に運ぶ。うん、相変わらずクリーミーだ。ミルクの味も濃い。
「それ、どこで買ったんだ?」
「ちょっと遠くに行ったところの、街角」
「街角ぉ? それじゃぁ、わかんねぇだろ」
「こう、地下鉄に乗って地上に出た先にある、箱」
「『ボデガ』か。当たり外れは、確かにあるだろうな」
 あれ、ボデガっていうんだ。当たり外れとはなんだろう。「まさか、アイスを売っているとは」「よく溶けなかったな」と好き勝手いう二人に、リオが首を傾げる。
「なんだそれ」
 どうやら知らないようだ。メイスが丁寧に説明を始めた。
「プロメポリスの、旧市街にあるような箱型の店ですよ。俺たちは、あの頃フォーサイト財団のビルが建つ新市街に走っていたので、まぁ気付くのも無理な話ですが」
「地下鉄沿いとかには走らなかったからな」
「俺たちだけの頃は、まぁその辺りも燃やしてたんで、気付くっちゃ気付くって話っすよ」
「気持ちはわからないでもないが、狙うなら元凶に焦点を当てた方が」
「はいはい。それと、ワンポイントアドバイスのように、地図にあった」
「ワンポイントアドバイスぅ?」
「ちょっとした伝手で、地図の入手もできたんですよ」
「企業秘密だけどな。口外は、できませんぜ」
「ろくでもないことだろうな。よーっく、わかった」
「流石です、ボス」
「相変わらず勘の働く」
「やめろ。で、そこの小さい店で買ったのか?」
「そう。住人だったら、もしかしたら知ってるかもね。全員」
「ふーん」
 そう頷いて、バッと足を組む。腕も組んで、少し考え始めた。視線を向こうへやる。リオから視線を離して、アイスをもう一口食べた。
「安くなかったか?」
「安い」
「やはりな」
 勝手に納得する二人を無視して、裏のラベルを眺めた。製造元は、どこかわからない。シールが水滴で、ベロベロに剥がれかけている。
「他の店だと、買えない感じかな」
「さぁな。個人商店みたいなもんだろ、あそこ」
「まぁ、露店巡りみたいに歩き回るのも乙なものもある」
「いいな、それ。暇潰しにはピッタリだ」
 リオが口を挟んだ。独り言みたいにいいおえて、スッとスマートフォンを出す。リオ自身のものだ。どうやら、それで会話は終わったのらしい。誰かと連絡を取り合うのを横に、アイスをもう一口食べる。
「ちょうどいいサイズ」
「物足りなくねぇか?」
「コイツにとっては、だろう。チェーン店で買った方がいいだろうな」
「それだと多すぎる」
「四人で分ける分だと、ちょうどいいオヤツにはなるだろう?」
 意外とリオが参戦してくる。四人で、店の話をした。


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