怠さと濡れタオル

 普通の人間に戻ってからというものの、なにかと不都合だ。傷もすぐに治らないし、寒ければ薄着で外出なんてできない。部屋でもエアコンとかで、気温を上げないと出られない。布団から。現に、急な寒さでこうして体調を崩している。
「それは、お前の身体が付いていけていないだけだろう」
 とリオがいった。上手く身体を動かせない私に対する一言である。
「僕はこうしてピンピンしているぞ?」
「あー、身体の造りっつぅか。なんつーか」
「リオ。それはいってはならないというか、なんというか」
「なんだ」
 あー、頭が痛い。ゲーラもメイスも動いてるし、なんだ。この差は。布団に潜り直す。
「男と女だとな、頑丈さが違うんだよ。頑丈さが」
「はぁ? なにをいっている? そんなの当たり前じゃないか」
「身体の柔らかさと硬さのことをいっているんじゃないぞ?」
「メイスまで、なにを。そりゃぁ、女の人の身体は触ると柔らか、って! なにをいわせてるんだ!! お前たちは!?」
「って、そういいだしたのはリオの方じゃねぇか。確かに、コイツがそう誘導させるようなことはいったけどよぉ」
「確かに、身体の柔軟性は男と女とでは解し方が違うもんな」
「お、お、お前らなぁ」
 はぁ、と今度は大きく溜息を吐く音が聞こえる。頭の痛さが変わらない。ちょっと、温めた方がいいんだろうか? ほっとあいますく、ちょっとあの蒸気で、首元を温めた方がいいかもしれない。もぞもぞと布団から出る。
「あっ、おい。もう大丈夫なのか?」
「寒いね」
 本当に寒い。ずびっと鼻を鳴らして、キッチンに向かう。電子レンジは、よし。なにも入ってない。あとはタオルを濡らすだけだけど、なにかあったっけ? タオルごと入れていいんだろうか? ウロウロしてたら、メイスが清潔なタオルを渡してくる。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして、だ。新しい皿に入れて温めろよ」
「うん」
「ヒュー、準備がいいねぇ。って、ちげぇだろ!?」
「え」
 突然ゲーラが止めてきた。さっきまで口笛を吹いてたのに、なぜ。「乾かしたまま入れるんじゃねぇ。濡らしてから入れるんだよ!」「えっ」「どうやって作れると思ったんだ!? えぇ!?」「いや、スチーム蒸気で」「ほう。しかし、そこに水を入れない限りできないぞ」「えっ」「ボス! んな『その手があったか!!』みたいに頷かないでくだせぇ!!」あっ、ゲーラが元の呼び方に戻った。敬語も戻ってた。なるほど、と頷いていたリオが顔を上げる。「できないのか?」と、そんな顔を曇らされても。少し困る。
 メイスが私の手からタオルを取る。シンクでタオルを濡れタオルにチェンジしたあと、新しい皿を取り出した。それに乗せて、渡してくる。
「ほらよ」
「ショートさせればいいのかな」
「テメェ。もしや、昨日夜遅くまでゲームしていやがったな!?」
「謎解きが難問で。あれを探すのに時間かかっちゃった」
「夜更かしは天敵だぞ? ちゃんと寝るようにしろ。あぁ、ゲーラ。ジャーキーは残っているか?」
「へいへい。どーぞですぜ」
「ありがとう」
 あっ、茶化した風なのは別にいいんだ。メイスが濡れタオルの一品を奪って、電子レンジに入れる。レンジの前に立つ私を無視して、ピッとスイッチを押した。ブォンとオレンジ色に赤くなる中身。加熱される濡れタオル。
「タオルって、食べれたっけ?」
「食うなよ? 絶対に食うなよ!?」
「タオルは、布製品だからな。水を絞らせる以外に使い道はないだろう。タオルより雑草の方がマシだぞ」
「懐かしいな。食う物に困って、そこら辺に生えている草を食べていたな」
「当たったときがヤバかったっすねぇ」
「俺たちの炎でどうにかなったが、今食うと危ないな。最悪食中毒起こして死ぬぞ」
「やれやれ。バーニッシュだった頃の恩恵だな。流石の僕でも、今はしないさ」
「おい。待て、リオ。今、なんっつーた?」
「切り詰めているときに食べているのか? それならそうと、俺たちを頼ればいいものを」
「いや。流石にそこまでは。それにしても、美味いな。これ」
「犬用のジャーキーとか骨って、出汁を取るのとかにも使えるかな」
「やめろ。デスクッキングを始めるな!!」
「もう人間の食うモンを食べられる生活になったんだぜ!? 俺たちはよ!!」
「お前たち。まさか、もう既に?」
「やってねぇよ!!」
「寧ろ実行する前に止めている!」
 なんか、すごいことをいわれているような気がする。なんとか被害というか。チンと音がする。電子レンジの扉を開けて、中を取り出す。熱い。あっちち、と空中でお手玉をした。
「なぁにやってんだ。テメェはよ、って! アッチィ!!」
「お前こそなにをしているんだ、ゲーラ。って、アツッ!」
「お前たちこそなにをしているんだ? コントか? 貸してみろ」
 三人のお手玉を経たからか、リオの手に渡る頃には良い感じになっていた。いや、そもそもリオの耐熱度が高い? 加熱した濡れタオルを握った状態で「熱いな」といわれても。私たちが感じた熱より、そこまで熱くないような気がする。
「で、これをどうするんだ? 額に被せるのか?」
「違う。ちょっと、目とか首をかを温めるだけ」
「ふぅん。温めてどうするんだ?」
「あのよ、リオ。そいつぁ、血行を良くする働きがあってだなぁ」
「俺たちみたいに目や肩を凝る人間には、ちょうどいいんだ。過酷に扱っているからな」
「ふーん。なら、もう少し手厚く労わってやったらどうだ? 休みを入れるとか」
「そうは問屋が卸さない」
「時間の流れは残酷だってことだ」
「コイツら、飯食い忘れて集中することもザラだからな」
「おいおい。ちゃんと食べておけよ」
 そういって、リオが首に温めたタオルをかけてくれた。あ、ちょうどいい。首の痛いところから、ジィンと温かくなってくる。ついでに、リオがなんか少年みたいな顔をしたような気がした。
「眠い」
「寝たらどうだ」
「といって、コイツほぼ一日中寝てたぜ」
「どこか具合が悪いんだろう」
「お前たちに原因があるんじゃないのか?」
 タオルを首に押し付ける。ボーッとしてたけど、二人は黙ったままだった。


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