拗ねられて、逃げられる

「あれ。珍しいな。お前たち二人が、ぶっきらぼうにそこへ座っているなんて」
 帰宅したリオが発した一言が、それだった。楽しい時間を過ごしたリオとは違い、ゲーラとメイスは不機嫌そのものである。二人ともソファの両端に座り、距離を取っている。ちょうど、真ん中に人が一人分、座れる距離だ。だが、そこに馴染みの顔がいない。それが、ゲーラとメイスの機嫌を悪くさせているものだろう。元凶に気付いたリオが、容赦なく聞く。
「どうした? ななしはいないようだが」
「リオよ。そいつぁ聞き捨てならねぇなぁ?」
「生憎と、俺たちの機嫌は悪いんでな」
「それは見ればわかる。で、ななしとなにがあったんだ? 僕でよければ、聞くぞ? どうせ、相談する相手も限られている」
 このような奇妙な関係性を知る者こそ少ない。それこそ、リオとマッドバーニッシュの古株だけである。しかも、この場で相談できる者はリオしかない。解決策も思いつかない二人は、渋々と口を開く。
「それがよ」
 ゲーラの口が重い。代わりに、メイスが続きを話す。
「一緒に映画を見ようとしたが、それが本人の地雷に当たった」
「あぁ、なるほど。なんとなく見当は付いた。それで? 本人はどっちに?」
「部屋ン中に入っちまったよ。あれから出てこねぇ」
「ついでに、俺たちの顔も見たくないとさ」
「なるほど。重症だな」
(それなら、放っておいた方がいいと思うんだが)
 そう思うものの、二人の様子を見る限りいえない。いってしまえば「けどよ」「とはいうがな」と批難の嵐がやってくる。それだけは、勘弁ならない。リオは口を塞ぎ、キッチンに入る。喉が乾いたのだ。冷蔵庫を開き、中のミネラルウォーターをグラスに注ぐ。
「はぁ。で? 慰めてやったのか?」
「その前に逃げられたって話だよ」
「まぁ、それどころじゃなさそうだったから、こうして放置しているわけなんだが」
「そうか。意外と優しいんだな、お前たちって」
「『意外』ってなんだ、意外って!」
「俺たちは『優しい』に決まっているじゃないか」
「どうだか」
 少なくとも、今までの行いを見る分には断定しにくい。グラスにもう一杯注ぎ、飲み干す。(まぁ、バーニッシュに害を成す者は、っていう点を見たら僕もが)軽い同調を抱くと、冷蔵庫を閉めた。
 グラスをシンクに置き、ソファへ近付く。
「ガロのところへ、行った方がいいか?」
「いらねぇよ」
「飯時には出てくるだろう」
「そうか。なら、今夜は安眠できると期待しておくとするよ」
 フランクに砕けた語尾の後ろに、有無をいわせない重圧が生じる。その釘を刺すような口振りに、二人は「うっ」と呻いた。リオが笑う。ベッドの中に包まって眠ったななしには、知らない出来事であった。


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