制定前のスピークイージーにて

『スピークイージー』という『秘密の隠れ家のバー』があるのらしい。一九七〇年代の禁酒時代を受けたとかなんとかで、今でもあるらしい。なんか、人もバーニッシュも関係なく入れるみたいだ。但し、喧嘩と燃えるのはご法度。それに入るまでも大変だし、見つけ出すのも大変だ。「『バーニッシュ法』の規制が強化されたら、ウチもお仕舞いだね」とは、バーのマスターがいっていたことだ。なんか、口癖みたいのように感じられる。
 そこで「近い内に『バーニッシュ法』の規制が強化される」との情報を得たあと、私たちは飲んでいた。当然、お酒をである。他のみんなはどんちゃん騒ぎだし、ゲーラとメイスはカウンターで飲んでいる。私はといえば、その二人に挟まった状態である。お酒を貰ったが、なんか飲む気はない。チビチビとやる。
「悪いな、店主。アイツらが騒いでいるようで」
「なぁに。今日は客が少ない。これ以上騒がなければいいよ。金がないなら別だが」
「ひぃふぅ、みぃ、よ。これで全員分、足りるか?」
「足りなかったら困るところだけどねぇ」
 そういいながら、店主はゲーラともやり取りをする。渡したお金はクシャクシャだ。なにせ、瓶に保存したものだし。「じゃーん、貯めておいたモンだぜ!」とサングラスの人が見せてきたのは、記憶に新しい。今はテーブル席の方ではしゃいでるけど。
「これ以上頼まなきゃ、足りるよ」
「そうか。わりぃな。こうして飲めることなんざ、滅多にないからよ」
「大抵、露天の馬鹿騒ぎもできない状況だからな」
「ホームレスでも厳しい時代だ。まっ、ウチは金さえ払えばなにも問題ないよ。例え汚い出所でも」
 といって、グラスを拭く。どうやら、まともに稼いだ金ではないことはバレているのらしい。それもそうだ。フリーズフォースとか追いかけるヤツらのパーツを分解して、闇取引もしてるし。「俺らも生活が苦しいんだ」とメイスがボヤいた。
「まぁ、暫くはこないと約束しよう。俺たちも命がほしいんでな」
「そうしてくれると助かるよ。年に一度の回数でいいから」
「なんでぇい。ほぼ『来るな』といってるようなモンじゃねぇか」
「こっちだって命がほしいし」
「汚れたお金でもいいのに?」
「レディにはサービスをしてあげる」
 尋ねたら、サクランボを一房渡される。「おいおい」「すまないが、コイツは食わず嫌いがあってだな」そう二人がいってる間に、サクランボの実を千切った。二つある。それを二人に渡す。
「は?」
「おい」
「あげる」
 代わりに水をくれ、とグラスをマスターに渡した。「食わず嫌いだねぇ」とのコメントを貰われる。でも、食べれないのは食べれないし。私からサクランボを突き出された二人は、渋々と受け取っていた。
「ツマミ、ナッツじゃねぇんだな」
「ワガママをいうな。貴重な食料だぞ」
「でもサクランボじゃん」
「渡した本人がいうな」
「おい、ななし。サクランボのヘタを渡せ。ヘタ」
 突然そんなことをゲーラがいうので、余ったヘタを渡す。すると「ちげぇよ」と返ってきた。
 二つに繋がるそれを一本に千切り、結び目の残るそれを渡される。モゴモゴと食べたサクランボの種だけを出すと、ポイっとヘタを口に入れた。
「ほぉ。なら、俺もやってみるか」
「あっ」
 それを見て、メイスも同じようにする。種は出てない。出された水を飲む。モゴモゴと口を動かす様子を見てたら、ペッとゲーラが出した。
 舌の上に、クシャクシャになったヘタがある。どうやら、舌と唾で繊維が掠れたようだ。「にげぇ」といって、皿の縁に置く。ゲーラがお酒を飲んでいると、メイスがペッと舌を出した。こちらは、ちゃんと結んである。
「フッ」
「くっ、大事なのはテクじゃねぇ。ハートだろ、ハート!」
「テクも大事だろう。ほら、要るか?」
「いらない」
 なんで口に出したのを貰わなきゃいけないんだ。そう断ると、メイスも皿の縁に乗せた。空のお皿に、口に入れられたヘタが一つずつ。サービスで出されたピクルスはみんな二人のお腹の中だし、他のみんなだってそうだ。私はせいぜい、一切れだけ。残りは二人とみんなに食べてもらった。
 水を飲む。相変わらず、馬鹿みたいに騒ぎ続ける声がする。
「そんなに、一杯だけで酔うものなの?」
「あん? 酒場で飲めるっていう状況だぜ? テンション上がった状態で酒も入りゃぁ、あぁなるだろ」
「場の雰囲気も肴にはなる。焚き火を囲ってワイワイやってたのと同じようなものだ」
「ふぅん。そうなんだ。変わってるね」
「変わってんのは」
 とゲーラがいいかけて、グイッとお酒を飲む。そのまま、口を閉じた。
「『変わってるのは』って?」
「なんでもねぇ」
 プイッと顔を逸らすゲーラの背中を引っ張ってみるが、反応なし。続きが気になって、もう少し強請ってみる。「ねぇ」と裾や背中を引っ張り続けてたら「そこまでにしておけ」と。メイスに手を剥がされた。
 ゲーラの上着から離される。プイッとあっちを見たゲーラの顔が、ジトっと不機嫌そうに私を見ていた。
「さっきの続き」
 しつこく続きを促してると、プニッと唇を塞がれる。ゲーラの親指だ。黙るのを見ると、少しだけ離れる。
「次は口で塞ぐぞ」
(くち)
"mouth"と告げた意味に、首を傾げる。なにかを食べるんだろうか。横でメイスが「口ねぇ」とジト目でぼやく。そして酒を一気に飲んだ。
「できるんだか、わからねぇな」
「んだと?」
「口って、なに? またナッツのお代わりが出るの?」
「ないよ」
 バーのマスターが、非情にお代わりの存在を否定した。


<< top >>
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -