万華鏡みたく茨を踏みつけて

 短期で日給の高い仕事を見つける。行楽地の庭園の手入れだ。今月のピンチを埋めてもお釣りがくる。その上、四人の姿を見てオーナーが行楽地での別の仕事を斡旋した。これでリゾートへの滞在期間が増えた。「ラッキーだな」と喜ぶリオにななしは不安がる。「なにもなければいいけど」と口にしたものに「そこまでのことはねぇだろ」とゲーラが楽観的に構える。逆にメイスは警戒した。「もしかしたら、稼いだ金を落とせということかもな」この推理に「やめてくれ」とリオは否定した。「でも、そういう『まっちぽんぷ?』ってのもあるよね」とななしが首を傾げば「そういう話はなかったろ」とゲーラが契約書の話を持ち出す。「確かにそれはそうだけどな」メイスが反論しようとした途端、ななしが立ち止まった。
「いたっ!」
「どうした?」
「なにがあった」
「怪我でもしたか」
「薔薇の棘が刺さった」
 事実だけを告げる。客の要望に応えて薔薇の棘は全部抜いたはずだ。このままだと不味い。「とりあえず怪我の手当てをしないと」とリオが薔薇の束に手を伸ばし「いや、それだと怪我するから不味い」とゲーラが止めに入る。「その前に抜き忘れた棘を探すのが先だろう」とメイスが効率的なことをいった。ななしは血の滲んだ指をペロリと舐める。
「絆創膏貼った方がいいかも」
「その前に手当てが必要だ」
「近くに水道がありゃぁな」
「ホースなら近くにあるぞ」
「それしかない」
 少なくとも新鮮な水だ。綺麗でもある。リゾート地に粗悪な水質を巻くということは、真っ当な経営者なら考えない。そういう逆説に基づいた認識だった。これにリオは「そうだな」と渋々頷く。まだ不安であるようだ。「傷口を洗い流しゃぁ、最悪は避けられるからな」といいつつ、ゲーラは絆創膏を出す。ポケットからだ。メイスはレバーを握って水を出す。それにななしは指を当てた。流水で傷口を洗い流す。その間に、リオは抱えられた薔薇の花束を掻き分ける。ななしの手から薔薇を一本ずつ引き抜き、自分の腕に抱えた。一本一本ずつ確認する。ふと、棘のある一本を見つけた。
「あった」
「そんなところに」
「もしかしたら、他にもあるんじゃねぇのか?」
「ありそうだな。もう一回確認しておくか」
「クレームは嫌だし」
「まぁ、減給されるのも嫌だからな」
 そうリオは苦笑し、またななしの腕から一本薔薇を抜き取った。絆創膏を貼られたななしの指が、手探りで棘を探す。「危ねぇだろ」とゲーラが手首を掴み、メイスが「テーブルのあるところに行きましょう」と提案した。それにリオは賛成する。
 足を進める。Uターンし続けるホースの存在に気付き、ゲーラが巻き取った。クルクルとホースのカーブが縮小する。ななしとリオの手に、薔薇が分散されていた。


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