殻は嘘ばっか

 卵の殻が口の中に入った。うぇっ。慌てて取り出す。ベッと舌から離せば、指に卵の殻が張り付いていた。ツルツルで、汚れはない。
「あーあ、ちゃんと剥かねぇからだろ」
「つまみ食いをした罰だな。天罰だ」
「それなら、二人だって」
「ばぁか。俺のは味見なんだよ」
「俺だって味見だ。ななしのは、二つ目だろう」
「うん」
「いくらなんでも、食いすぎだろ。使う分がなくなっちまう」
「卵の消費期限は近いけどな」
「それでエッグサラダを作るんじゃないの?」
「そうだった」
「タマネギを切ったヤツは洗っとけよ」
「うん」
 少し工夫をしていたとはいえ、まだ目はシバシバする。ギュッと瞑った目に指を伸ばせば、手首を掴まれる。「酷くなるぞ」とメイスに止められた。
「洗ってからの方がいいぞ」
「そうなんだ」
「っと、コイツもみじん切りにしねぇとな」
 ペロッと舌なめずりをした方を見れば、卵が全部剥かれていた。白身がピカピカだ。ちょっと茹でてる間に割れて、ふにゃふにゃに出ているものもある。
「ムニエルの方は、どうなってんだ?」
「上々だ。ツナ缶のオイルを集め終えれば、取りかかれる」
「あー、そうかよ」
「お昼はパンだっけ。パスタ?」
「パン」
 ゲーラが簡潔に答えた。パスタの予定だったのに? そう聞いてみれば「ばぁか」と唇を突かれる。
「予定が狂ったんだよ」
「色々と消費期限が近いからな。買い溜めのツケが祟ったか」
「そうなんだ、パスタも?」
「ちげぇよ。そっちはまだある」
「寧ろ、パンの方が手っ取り早い」
「つまり、楽と」
「そういうこった」
 と呟いて、卵を切り始める。まだ洗ってないのに。タマネギの液が染みついたまま、トントンと包丁が動いた。


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