選ばれない者のカタストロフィ

『渋滞に嵌まった』『少し遅れるから近くの店で待て』そう連絡がきたのは、しばらく経ってのことだった。通知のあったスマートフォンから目を離し、目の前の出来事を見る。なぜか、知らない男に絡まれていた。私が。(どうしよう)正直、村にいたバーニッシュの顔なら覚えている。けれど、まったく知らない人物だ。誰なの。訛りも聞いたことないし、ゲーラやメイスの話すのとは違う。何語? 正直、聞き取れない。
(どうしよう)
 ガタイは、ゲーラやメイスたちよりもいい。けど、バリスや隊長たちと比べるとあんまりだ。けど背丈が高いので、周りの人には見えない。私がなんか、困っていることも。(どうしよう)とまた三回目の言葉が出た。本当、どうしようもない。周りに助けを求めるのが一番だと聞くけど、背後には壁。周りは知らない男たちで防がれている。どうしよう。これで四回目だ。着信の音が鳴ったので、電話に出る。
「もしもし?」
『どの店に入ってんだ? 場所くらい教えろよ』
「それが。今、知らない人に絡まれていて。最初の場所から離れてない」
 そこまで伝えると、男の顔が近付いた。なんとかスタンスって知ってる? 距離が近すぎると不満に思うって、知らないの? スマートフォンを死守すると、二人の声が聞こえる。『どうだった?』『知らない男に絡まれてるってよ』『は?』『動いてないらしいぜ』そんなやり取りを聞いていると、ニヤニヤと男が近付いてきた。だから、近いって。逃げようとするけど、後ろは壁で、すり抜ける隙間もない。(暴力沙汰を起こすと、後が面倒だし)どうしよう。五回目の言葉を吐き出すと、男たちが引っ剥がされた。後ろへ引き摺られて、顔にストレート。続けてもう片方の男も剥がされて、ジャブを喰らった。どちらも強烈で、ノックダウンする。残り一人は慌てふためいている内に、ジャブを喰らった。全員伸びる。立ってるのは、ゲーラとメイスだった。
「ったく。変なのに絡まれてんじゃねぇよ」
「面倒事が起こる前に、お前が面倒事に巻き込まれるぞ」
 少しはどうにかしろ、とメイスから注意される。ゲーラからはなにもいわれず、腕を引っ張られる。倒れた三人を見ていると「ズラかるぞ」といいだした。ゲーラがバイクに連れて行く。
「ったく、今日の予定がパァだぜ」
「そういってやるな。変更ができるだろう。ただ、そこで食う機会がズレたというわけで」
「それが嫌だってんだよ。クソッ」
 ムカつくぜ、と口に出すものだから「ごめん」と謝る。謝罪を入れると、ゲーラの機嫌が悪くなった。
「ちげぇよ」
「また別の機会にやり直せばいいだけだ。一先ず、食いに行くか」
「持ち帰りたい」
「んじゃ、あそこ寄るか」
「いつものか」
 溜息を吐くものの、反対するつもりはない。そんなメイスが顔を上げ直すと、バイクのエンジンを入れた。ブオンブオンとガソリンが回る。続いてゲーラもエンジンを入れて、バイクを回し始めた。エンジンが回って、タイヤが回って走り始める。そんな動く音を聞きながら、ゲーラの後ろでしがみ付いた。


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