筋肉説(消火後)

 ななしがジッと見上げる。ふと、思ったことを呟いた。
「もしかして、筋肉付いてる?」
 その視線を受けたゲーラとメイスは、ピタリと固まった。リオだけは不服そうである。「僕は?」「ボスはまだ、成長期?」それにリオはムッとする。「そんなわけがない」と言いたげに、身体ごとそっぽを向いた。腕を組み、不満そうな顔をする。ゲーラとメイスは、目に見える変化を喜んだ。そう、筋肉がようやく身体に付いてきたのである。苦節何年何カ月、食生活にも気を配り、タンパク質もできるだけ取るようにした。「プロテイン、飲んでも付かなかったんだよなぁ」「それより不味い。もっと味の良いものにしたら、続くんじゃないのか?」「ジャパンのは美味しいと聞いたぞ」味が悪ければ、続けるものも続けられなくなる。外貨の影響、輸入品を安く仕入れることができた。家にはジャパン製の、味の美味しいプロテインの袋がある。豆乳や牛乳は、常時冷蔵庫にストックされている。「私も飲んでいい?」「んじゃ、これを買ってみるかね」「俺も美容に欲しいと思っていたところだからな」「お前たち、そういうのに気を遣うのか」「プロテインをガバ飲みされたくねぇんで」「ボスも歳を取ればわかりますよ」「ふぅん」そこまで真剣に捉えていないリオが返す。このような積み重ねと適度なトレーニングの甲斐もあって、痩せぎすの身体に筋肉が乗り始めていた。
「よッ、しゃぁ!!」
「しッ!!」
「凄い喜びようだな」
「びっくり」
 リオは呆れ、ななしは目を瞬かせる。ゲーラは人生で初めて筋肉に対する手応えを感じ、メイスは苦節が報われたと感激する。達成感は測り知れない。生きていた中で、一番充実した達成感を二人は噛み締めていた。あとは上るだけである。リオだけは、納得が行かなさそうだ。
「バーニッシュだと、肉体の造りや性質が変わるのか?」
「ボスは会ったときから、変わってないけど?」
「へへっ、大丈夫ですって。ボス。ボスもきっとデカくなりますから」
「そうそう。ボスは成長期なんですから。まだまだこれからですよ」
「ムカつくな。絶対ムキムキになってお前たちを見返してやるからな。ムキムキになった僕を見て、その考え方を改めるんだな!!」
「ボス。何事も程々が肝心ですぜ」
「そうです。ボディビルダーみたいになると、色々と。その」
「なんだ。ななしだって、僕がそれくらい大きくなるとは思えるだろう?」
「どうだろう。ボスは身長が伸びるけど、体格はそれほど伸びないような気が」
「な、んだと?」
 ガンッとリオはショックを受ける。リオの期待を反する一言に、ゲーラとメイスは秘かに喜んだ。リオの見えないところで、拳をタップさせる。ストリートの文化で、最近いいなと思い始めて導入したものだ。ガロとリオも同様のことをしたが、ゲーラとメイスにとっては異なる。世界を救った救世主は、人類と元バーニッシュが歩み寄ることを示す。元荒くれ者の二人にとっては、目的が達成されたことを再確認し、共有する行為となっていた。そのタップが、次第に違う形へ進化を始める。
 コンッと拳を突き合わせた後、ガシッと互いの手首をぶつけて感情の勢いを発散させる。溢れないばかりの喜びをボディランゲージで示す二人を、ななしはポリポリと食べた。プロテインバーが少なくなる。
「プロテインって、動かないと太るんだっけ?」
「筋肉を増やしやすくするからな。僕だって、筋肉の一つくらい付いているはずだ」
「ボスは付いてるけど、ゲーラやメイスほど付きやすくない、ってことはないと思うよ」
「なんだって? もう少しわかりやすくいえ」
「ゲーラとメイスが悲しんじゃうと思う」
「もうそれだけで分かったぜ。ゴラ!」
「お前にいわれるまでもなく、充分承知している!!」
「怒った」
「なるほど。僕にもまだ可能性はあると」
 フフン、とリオは満足する。激怒するゲーラとメイスを見て、筋肉が止まらない可能性を見たからだ。ななしは二人に挟まれて、ギュッと身体を小さくする。空間を確保して、ポリポリと食べに戻った。バーの類は食べやすい。ななしはもう一つ、手に取った。


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